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超弩級神聖魔法

 あのアマ、徹底的にたたき潰す、と思ってグレン達と一緒に行った先で私が見たのは、王子二人を操って殺し合いをさせようとしている光景だった。

 どういう展開だこれ、そう思っている中でユウ自身が説明してくれたのは良かったと思う。

 大きい声で話してくれたから場所もすぐに分かって、走っている間に途中から話は聞こえていたのは良かった。


 そのユウは真っ蒼になって、


「な、なんでミシェルが生きているの!」

「足が二本ついているから、幽霊じゃないのはすぐに分かるでしょう? 頭が足りないわね、ユウ」

「……なんですって?」

「私は生きている。というか、グレンが事前に井戸に転落防止用の魔法を張っておいてくれていてね……おかげで、こんなの回避余裕っしょ! と思っていた間抜けな私はこのザマだわ。グレンには頭が上がらない」


 肩をすくめる私にユウがぎりっと歯ぎしりをして、


「二回も私に殺されに来るなんて、愚かね、ミシェル。このまま私を怖がって隠れて震えていればいいのに」

「次はないわ、私が貴方を“仕留める”もの」

「ふん、“聖女”二人係でも倒せず封印することしかできなかった私を“仕留める”ですって? 笑わせないで」

「封印するしかできなかった、ね。彼女達が“優しかった”とは考えないんだ」

「何ですって?」

「でも、私はその人達のように“優しくない”わよ?」


 必ずお前を滅殺する、そう私が告げる。

 ユウは私を睨み付けて、すぐ横にいたグレンに視線を移して気職の悪い笑みを浮かべ、

 

「その男ね。その男がいるから貴方は強気なのね! “新しい男”がいるから、貴方は平気でビレスを捨てられたの! なんだ、浮気をしていたのは貴方の方じゃない!」

「違うわよ。私、グレンの事は女の子だと思っていたしね。再会した時はこんな嫌な奴とは関わりあいたくないって思ったわ。でも……今は、最高のパートナーよ」

「……何を言っているの?」

「分かりやすく説明しないといけないの? ユウはお馬鹿さんね☆」

「こ、この……どこまで、何処まで私をコケにすれば気が済むのぉおおおミシェルウゥウウウウ」


 鬼のような形相のユウ。

 ちょっと挑発しすぎたかしら、と私は思いはしたもののこれまでの事を考えると、まあいいかという気持ちになった。

 だから更に煽る様に私は、


「そんな醜い顔を晒していると、性根の悪さが顔に出ているわって思うわね。ほら、ビレスもひいちゃっているわね」

「……え?」


 慌てたように振り返るユウ。

 それにビレスは震える。

 こちらからはユウの顔は見えないが、そこで更に顔の輪郭が無くなるような怒りの形相で、


「ミシェル、お前はただでは殺さない! 苦痛と拷問の末に、醜くも私に縋り付く様を思う存分に堪能してから、殺してやる!」

「凄い顔ね。私の化粧の比じゃないくらいだわ」

「あはははは、あの化粧をまだ、流行の化粧だと思っていたのね。本当にお馬鹿さんなミシェル! あれは“娼婦”がするものよ! なのに貴族の令嬢がこぞって信じてあの化粧! ミシェルまで! あれは笑い転げそうになったわ!」

「……なるほど、あれもユウの仕掛けたものだったのね。自分以外に優れたものがある人間がそんな許せない?」

「そうよ、だって私が何よりも優れているのだから!」

「傲慢だわ」

 

 吐き捨てるように私は告げた。

 ユウは嗤う。


「何を言っているの? ミシェル。それは貴方じゃない。全てに優れたものを持っていて、いつだって私の前に立ちふさがる、“傲慢”な存在」

「それは貴方が“何も知らない”し“何も理解”しようともしないから。貴方の“矮小”な物差しで測って、自分自身の小さな小さな世界の中で“貴方自身の目を背けたい部分”を私に投影して罵っているだけ」

「なんですって」

「もう一度言うわ。貴方は自分が“どの程度の力しかないのか”を知っていた。でもそれが許せなかった。認める事すらもできない人間だった。だから自分よりも優れている人を貶めることでしか、自分が優れていると思うことが出来ない……貴方は、貴方自身が誰よりも、貴方が優れて“いない”事を理解していた!」

「だまれだまれだまれだまれ! 私は手に入れた! “神様”から力を貰ったの! 素晴らしい私になったの!」

「でも貴方は努力してそれを得たわけでも何でもないのでしょう?」


 静かに私は告げると、もう怒ることが出来ないのか、ユウは、


「ミシェル、お前が言うの? 生まれながらにして、地位も美貌も手に入れている、お前が!」

「何を言っているの? 全く分かっていないわね、ユウは」

「何がよ」

「だって私は“平凡”だもの」

 

 よくよく考えると、そこまで料理の腕も料理人達よりは上手くないし、私に出来る事なんてたかが知れているのだ。

 “聖女”としてほんの少し魔法が使える程度のものだ。

 そもそも記憶にある限りの“前世”は平凡な少女であり、優れている才能あふれる人物たちを見ている限りは、ああならなくてよかった、大変そうだと思った。


 そして今、美貌と貴族令嬢の地位を手に入れたら、このザマである。

 どちらがいいのかどうか。

 結局は与えられたその場所で、持ち物で、“幸せ”をつかみ取るしかないのかもしれない。


 それが出来なければ、この“ユウ”のように狂うしかないのだろう。さて、と私は思って、


「そろそろ雑談をしていても仕方がないわね。いえ、貴方の“遺言”を聞くのも飽きたから始めましょうか」

「どこまでも、何処までもどこまでもどこまでも私を、この私を、コケにしやがってぇえええええええ」


 その言葉と共に、瞬時に私の頭の数倍はあるような炎の塊が数十と現れて、一斉に私に襲い掛かる。

 視界が眩い。

 赤いとも黄色とも城ともいえるような光に埋め尽くされて、けれど私はそれこそおやつの時間に、クッキーに手を伸ばすような自然な動作“選択画面”に触れる。


 “冷気散花”。

 その名の通り周囲の高熱源を冷却する空間を、周囲に花弁が舞うように拡散させる技である。

 炎系の攻撃はたいていこれで一発だ。


 この程度の攻撃魔法は私にとって“児戯”にも等しい。

 だから私は何の感情も湧き上がることなく、


「何かやった?」

「! な、な……」

「前の“聖女”は優しかったのね。封印で済ませてあげたのだから。でも、私は彼女達のように“優しく”ないから、それはよく覚えておいてね」

 

 実際に今の攻撃は、選択画面でも“呪文”を介さなくていい部類の魔法だ。

 だから私の使える魔法の中でも比較的“弱い”部類に入る。

 そしてユウのその先ほどの攻撃に対しては、それで“十分”だった。


「焦っているわね。今更ながら、誰に喧嘩を売ったのか、理解したのかしら?」

「この、このぉおおお」


 挑発して魔法を使わせる。

 それらを防ぎ、時に攻撃して私は誘導していく。

 あの魔法は、範囲が狭い。


 今の攻撃を見ている限り確かに“ユウ”は強い。

 けれど“闇の影”はユウを倒しただけでは終わらないのだ。

 見た範囲では、すでにユウは“闇の影”と同化している。


 けれどこの肉体が滅ぼされただけならば、また別の相手に“闇の影”は唆して寄生するだけなのだ。

 だからこの肉体ごとユウを滅ぼすしかない。

 でなければ私達が殺されなくとも、私達の知らない誰かが、いえ、すでに殺されていることだろう。


 これは、そういった存在なのだと私は、“聖女”は良く知っている。

 そこで劣勢を悟ったらしいユウがグレンを見た。


「それならば、そこにいるお前の“新しい男”を操って殺させて……何故!」


 悲鳴を上げたユウに、それまで成り行きを見守っていたグレンが、


「俺は元々魅了といったものや毒関係が一切効かない。そのくせ薬は効くし、傷の治りも異様に早い。俺に害するものに関しては、もともとはじき返してしまう性質であるらしい。……もっとも、それは俺“だけ”にしか効果がないが」


 そこでグレンは皮肉げに笑ってから、


「だから俺を操ろうとしても無駄だ」

「……だったら別の相手を使って殺しに行くまで! ビレス、ルーファス、あの男を殺して!」


 その言葉と同時に、二人がグレンに襲い掛かる。

 私は静観した。

 魔力を温存したいのもあるけれど、グレンはおそらく……“強い”。


 いざとなれば手助けしようと思って様子を見ていた私だが、あっさりとビレスを倒し、ルーファスと数度剣を交えるも、


「ぐわぁ!」

「この程度は俺の敵ではないな」

「……よかったと思うが悔しい……やはり剣の訓練は再開しよう、がくっ」


 ルーファスが倒れた。

 ちなみにビレスはルーファスよりも容易に気絶させられて動かなくなったのも目撃する。

 なかなか強い王子様だ、そう私が惚れないしているとそこで、


「よくもビレスを! お前も、ミシェルの前にありとあらゆる責め苦を……」


 そこで近づいてきたユウを私は指さす。

 彼女には分からない。

 でも、“人”である、それも魔法に精通した“私”だから分かる。


「そこ」

「なに?」

「動かないで」


 私が命じるように告げると、その言葉に意識を取られたのかユウが立ち止まる。

 それと同時に、これまで移動する間に決めていた話をする。つまり、


「“金の鎖にて、災禍の夢を摘み取る”」


 フィズがそう呟き、同時にユウの足元に金色の魔法陣が浮かび上がる。

 けれど光が現れた瞬間にはもう、彼女は逃げられない。と、


「ふう、上手くいきました」

「ありがとう、フィズ」

「いえ、主の願いですから。それに、主を守るために作った魔法が役に立ってよかったですよ」

「そう、でも本当に助かったわ。アレは攻撃範囲がとても狭いから。その分威力はすごーく高いんだけれどね。よし、あともうひと頑張りで倍返し! リアナ、あれ行くわよ! 惚けてないで!」


 そこでややぼんやりしかかっていたリアナに私は、声をかける。

 リアナは、はっとしたように背筋をピンとのばして、


「は、はい。超弩級神聖魔法“祝福の栄花”でいいのですね」

「そうよ、それ、行くわよ!」

「はい!」


 私は選択画面に触れるだけ。

 後は言葉が勝手に紡がれる。

 問題はリアナだけれど、どうやら覚えていたらしい。


 幼子の揺りかごの前で歌うように、優しく、私達の歌声が響く。



“願うは始まりの夢

 さあ、貴方には希望をあげましょう

 かつてない闇が近づいたとしても

 かつてない悪意が貴方を襲ったとしても

 貴方は、前へと進むでしょう

 貴方の行く先に困難が立ちふさがろうとも

 その先には貴方に約束された場所が煌めいている

 願いなさい、進みなさい、手を伸ばしなさい

 その果てにある物は貴方の見たことのない

 栄華の花舞い降りて、貴方を満たすでしょう

 貴方はその時知るでしょう

 貴方が祝福された存在であることを”



 長い長い呪文。

 呪文に込められた祈りは、光と希望。

 後は、一言、声を重ねて叫ぶのみ。

 

 私はリアナと視線を合わせて、頷き、叫んだ!


「「超弩級神聖魔法“祝福の栄花”」」


 その力ある言葉と共に、拘束されたユウの周りに白い光が球状に生まれて、縦に長く柱を作る。

 眩い光の柱が立ち上る。

 目もくらむような強く優しい光が、ユウを包み込む。


 その私達にとって温かい光は、ユウにとって悪夢のようなものであるらしい。


「やめてやめてやめてやめて、痛い痛い痛いイタイイタイ」

「でもこれは、今まで貴方が私の知らない誰かにやって来たことでしょう?」


 そう告げると、悲鳴が聞こえた。

 言葉にならない悲鳴。

 断末魔の悲鳴ではなく、何かを悔やむような恐れるような、そんな声。


 それは、ユウ本人が後悔した声なのか、それとも私が、少しでも彼女に罪悪感のようなものを持つ“人間”であってほしかったのかは分からない。

 人を殺そうとすることに罪悪感を持った人間であってほしかったのだろうか?

 短い間でも友人だったから。


「感傷的すぎるわね。悪は滅びた、それでいいわね」

「そうだ、ミシェルは、何も悪くない」


 私のつぶやきにグレンがそう言う。

 それに私は目を瞬かせてから微笑み、


「ありがとう、グレン」


 そう私はグレンにいったのだった。

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