迎えに行ってくる
一斉に動いた、“黒の影”達。
それに王宮内だけではなく、周囲に広がる都市でも騒ぎになっていた。
騒乱のの中で火の手が上がるのも少なくなく、悲鳴と、怪物の唸り声が聞こえる。
まずは殿下と客人だけを安全な場所へ。
王宮内の動きはそれだった。
そして集められた貴人たち。
その中に、この城の中にいるはずのミシェルの姿がない。
一番、“闇”に対抗する力を持つはずのミシェルがここにはいない。
何かがあったのか。
事情を知っているのは、今現在ここにいる、ルーファスと宰相のマルト、そしてグレンとフィズのみである。
けれど誰もが、胸に嫌な予感を秘めていた。
否、グレンだけはそうではなかったが。
「あいつがそんな簡単に、殺されるような女だとは思えないな。その心配はしていないから問題はないだろう。……マルト、聞いても構わないか?」
「何がでしょうか?」
「ミシェルの言っていた話は、何処まで当たっていた?」
「……大体は当たっていそうでしたが」
「リアナとの会話は?」
「あれもミシェル嬢の口ぞえですか?」
「ああ」
「……私は好意を持つような答えではありましたね。でもあれはリアナが天然だからというきもしますが」
「そうか。なるほど……」
そうグレンが呟いてから次にマルトとルーファスに、
「リアナは、“聖女”は今、何処にいるか分かるか?」
それに答えたのはルーファスだった。
「先ほど外で会った時、家からとって来ないといけないものがあると言っていましたね。突然そう言われたとかなんとか」
「この王宮から、“聖女”を追い出した、そういう事か」
「! まさか!」
ルーファスが悲鳴じみた声を上げる。
それにグレンが、
「敵の動きが早かった、そうとしか考えられないな。穏便に済まそうとしたのが間違いだったか」
「相手の能力が分からなかったのもありますからね。こちらが警戒しすぎたのもあるのでしょうか?」
フィズの言葉にグレンは頷いて、それから深々と息を吐き歩き出す。
「どこへ行くのですか! グレン様」
「ミシェルを迎えに行ってくる。どこにいるのか大体わかった」
「いえいえいえいえいえ、今この状況でそんな勝手な……」
「ミシェルがいない人生は、俺にとってあまり価値がない」
「……手に入りそうだからですか?」
「そうだな。ここまで来たら俺はもう、誰にも渡せない。それに、ミシェルも“聖女”だ。この状況を打開するのには、彼女の力が必須だろうな」
当たり前のようにグレンが告げる。
その今の話では、感情的な意味でも、現実的な意味でもミシェルを“助けに行く”意味があるように聞こえた。
従者のフィズが肩を落としながら、
「分かりました、命がけでお守りしますよ。我が主!」
「……ありがとう、いつも迷惑をかける、フィズ」
「忠誠を誓ったあの時から、命はかけるつもりでしたから……いえ、そう思うならもう少し御身を大切に扱ってください!」
「分かっている」
その答えにフィズは、もうこの人に何を言っても無駄だと諦めたようだった。
そしてグレン達が去って行ったあと、最後に連れてこられたビレス王子がルーファス達の前に現れたが、その彼の傍にはある人物が一人。
「皆様、お揃いですのね」
現れたユウがそう、悠然と微笑んだのだった。




