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ミシェル、死す!

 さてと、まずは城の様子を見ようと歩いていると宰相のマルトと遭遇した。

 一見優男風の彼だが、使用するのはあの鎖がついたモーニングスターだった気がする。

 ただそれは彼の秘密であったのでそれには触れず、


「こんにちは。話は聞いていますわね」

「ええ。……ミシェル嬢がこちら側の人間でよかったと思います。そうでなければ色々と面倒なことになっていましたね」

「その感じだとルーファス王子の暗殺計画か何かの処理は終わったのかしら」

「そうです、すべて終了しました」

「そう、ビレスはどうするつもり?」

「……気になるのですか?」

「……予定ではただ単に、王子としての地位が無くなるだけだったのよね。だから知りたいだけ」

「その通りです。そこが落としどころになりました。ただ……その計画を立てていた者達が、“誰か”が中心になって動いていると言っているのです」

「ユウじゃない? 彼女、“黒の影”よ」


 マルトがぎょっとした顔をする。

 そんな彼に私は笑みを浮かべて、


「意外に警備が手薄なのね。こんな簡単に入り込まれるなんて」

「そう……ですね」

「まあ、私達がそっちは何とかするから、貴方は気を付けてね」

「……何をする気なのですか?」

「そんなもの決まっているわ。様子と状況を見て、逃げられないようにしてから……力技でたたき潰すだけよ」

「“黒の影”は強い力を持つと聞きますが。宮廷魔術師が束になってもかなわないものもいるとか」

「“聖女”がいるから大丈夫よ」

「そうなのですか? ……では安心させてもらいます。それに」

「それに?」


 そこで珍しく宰相のマルトが笑う。


「ミシェル様がこの城に来ると、よどんだ闇のようなものが去っていく気がします。私は魔法があまり得意ではありませんが、それは感じます」

「貴方もそんなことを言うのね。私にそんな力はないと思うわよ?」

「私はあると思います。魔法の力が弱い私でも感じるのですからそうでしょう」


 そう言えばマルトはあまり魔法が得意ではなかったなと思い出しながら、かといって私にそんな力があるのは信じられなかったが、その話をしても長くなるだけなので私はそれに触れず、


「とりあえずは状況は分かったから私も、この城に関してを見させてもらうわ」

「城に何かあるのですか?」

「あるらしいわよ? それに何が仕掛けられているか分からないから直接、私が見に来たの」

「そう、ですか。ですがミシェル様、貴方も貴族令嬢だという事をゆめゆめお忘れないように」

「分かっているわ」


 自分の身の安全くらいは考えているわよ、そう思いながらそこで私はマルトと別れた。

 けれど私がマルトだけでなく警告をされていたのに動いてしまったのは、私が慢心していたからだろう。

 そしてその夕暮れ時。


 城の中を見て回った私は、ある場所を通り過ぎようとしていた。


「魔が入り込みそうな逢魔が時に、ついうっかり西の井戸の前を通り過ぎようとするなんて、私も注意は足りないわね」


 いつものルートを歩いて行ってしまったのだ。

 なれって恐ろしい……死んだ魚のような目をしながら私は歩いていた。

 そこで気づく。


 誰かいる。

 夕暮れの光の中で色濃く黒い影を落とした人物。

 誰だろう、そう思っているとその人物は私に近づいてきた。


「どうしたの? ミシェル」


 ピンク色の髪の彼女、リアナだ。

 やけにおとなしいが何かあったのだろうか?

 そう思っていると彼女は近づいてきた。


 妙に無表情な顔をしているが、


「リアナ、いつもの貴方らしくないけれどどうしたの?」

「そんなことはないと思うよ、ミシェル。でも、城の中の闇が思いのほか多くて」

「リアナだけだとやはり難しい?」

「ええ、ミシェル。やっぱり、“聖女”の力が必要なんじゃないかな」

「リアナの“聖女”の力でも大変なのね。となると私の“聖女”としての力も使った方がいいかもしれないのね。……気づかれないように」

「そうね、ミシェル」


 リアナがそう答える。

 ただ、何か違和感がある。

 そう私が思っているとそこで、


「ミシェル、水を汲みたいから手伝ってもらっていいかな。一人よりも二人の方が楽なの」

「いいわよ。お城の仕事って大変なのね」


 そう話して私は井戸に近づいた。

 私は油断していたのだ。

 相手がリアナだから。


 そこ井戸のふちに私は立った深く暗い井戸の底は見えない。

 黄昏の光に形作られた影よりもさらに深い闇。

 深淵の黒を私はそこに見る。


 飲み込まれてしまいそう、ふとそんな言葉がよぎってそこで私は、背中を押された。


「な!」


 慌てて振り返ったその場には、リアナがいて笑っていた。

 そして私に、


「さようなら、ミシェル」


 私に告げる。

 そこでようやく私は気づいた。

 彼女は“リアナ”じゃない。


 リアナは私を、“ミドリちゃん”と呼ぶ。

 私が認識できたのは、そこまでだった。








 井戸の中に消えたミシェルを見て、リアナは……ユウへと姿を戻し、微笑む。


「まさか“聖女”だったなんてね。そしてリアナという少女も“聖女”。やっぱり、予定を繰り上げてよかったわ。“聖女”が接触してきたから、彼女達の準備が整う前にと思ったのだけれど……ミシェルがそうだったなんて、ね?」


 ユウは小さくそこでとても楽しそうに笑ってから、


「この高さから落ちたのだから、もう助からないわね。さようなら、目障りだったミシェル。私に抵抗できたのは“聖女”だったからなのね」


 まるで心地よい気分で歌うように、ユウは言葉を紡いでいく。


「私が殺されていれば、上手く暗躍できたのに。ミシェル、貴方を“稀代の悪女”という汚名の付きまとう存在として殺せたのに。それだけは心残りだわ。でも……“聖女”だったのは好都合」


 そこでユウは空を見上げた。

 そらには嗤う三日月が輝き始めている。

 その月にユウは手を伸ばしながら、


「今度は失敗しなかった! “聖女”にも邪魔をされなかった! これは復讐でもあるの! 二人の“聖女”の片割れは死んだ! 片翼の“聖女”は敵ですらない! だから……始めましょう、私の一番の“目的”を」


 その言葉と同時に、闇が、動いたのだった。


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