私、貴方が嫌いだもの
こうして私は、“婚約破棄”した相手と一緒にお話しする事になった。
何という罰ゲーム。
あのアマ、やっぱり許せん。
心の中で呪詛を吐きながらとりあえずこの駄目王子……ビレスの顔を見上げる。
顔だけはイケメンだったはずなのだが、どうしよう、この駄目王子を見てもイケメンだと思えない。
食指が動かない。
いや、浮気のベッドシーンを目撃させられたのだから当然と言えば当然だ。
だがこう、見ていると思ってしまうのだ。
あの、グレンの方がイケメンだと。
確かに現在デート期間ではあるが、グレンの方がよほど……そう思ってしまった私。
そこでビレスが、
「久しぶりに会えたのに、不満そうだね」
「私は貴方の顔すら見たくないから当然ね」
「……俺はそんなに嫌われるようなことをしたかな」
「ええ」
とりつく島がないというのを思い知らせるように私は答える。
彼はむっとしたようだが、更に私は、
「ユウと一緒に居ればいいでしょう? 一応元親友だから祝福してあげるわ」
「……ミシェルは、俺とユウとの関係を知っているのか?」
「ええ、他の浮気相手もいるでしょう?」
「……全部知られているのか。そして、あの“婚約破棄”は夢じゃなかったのか」
「ちなみに既成事実を作ろうと襲ってきたら返り討ちだからね」
事前にくぎを刺すと、ビレスは呻いた。
その程度の事はしかねない相手か、そう私は思いながらそこで、
「でも、ミシェルがいなくなって、けれど今現れてくれて安堵している自分がいる気がする」
「……」
「俺はユウから離れられないが、俺は……最近うっすらとユウに恐ろしさを感じる」
「……“ステータス・オープン”」
私は今のこの駄目王子の発言から気になってステータスを開いてみた。
そこには状態異常に対する耐性が表示されている。
リアナのハーレム要員達よりは低いが、
「普通よりは魅了に耐性があるか」
「こ、これは一体……」
「気にしなくていいわ。貴方の感覚は正しいわね。ユウは危険よ。でも下手な動きはしない事ね、死にたくなかったら」
「! どういうことだ?」
けれど私はそれには答えずに、というか相変わらずこいつ嫌いなのよねと思いながらもこれだけ言っておく。
「そうそう……私は貴方の兄い様の事に関しては暗躍していない、それだけ言っておくわ」
「やはり」
「そして、今の発言で確信したわ。私が下克上の計画を立てている、そういった話になっているのね。言わなくていいわ、想定の範囲内だし。そういった話になっていたのね、としか言えないわね。……できる限りその計画が先延ばしするように工作なさい。それが貴方の延命につながるわ」
「それは……」
「もうサイは投げられているから、後はどこが落としどころか、そういう段階よ。貴方も身の振り方を考えるべきね」
「……分かった。警告は、感謝する」
「しなくていいわ。私、貴方が嫌いだもの」
そう告げて私は、これ以上そばにいても苛立つだけだと思って、私はその場を後にしたのだった。
走ってくるリアナと、隠れて様子を見ていたグレンは遭遇した。
ミシェル達がいる廊下から直線に折れ曲がった廊下の一角。
そこでこそこそと様子を見ているグレンにリアナが、
「こんな所で様子を見ている場合なのですか!?」
「リアナ、声が大きい」
グレンがそう告げると、リアナが慌てたように自分の口を手でふさぐ。
それから小声でグレンと、彼に付き添っていた、目にくまを作った従者フィズに、
「いいのですかあのユウ! 私、あんなの初めて見ましたよ!」
「……前世で、ミシェルと一緒に戦っていたんじゃないのか?」
「実は私、ミドリちゃんと一緒に無双していた時の事しか覚えていないんです」
「……なるほど、だからこんなに“戦闘脳”なのか」
グレンが納得するように頷く。
そこで、リアナが、
「あんな目に見えて危険な相手を、どうしてみんな平気なのですか? ミドリちゃんも普通な感じではあるし、違和感を感じないのですか?!」
必死に訴えるリアナにグレンが少し黙ってから、
「今のミシェルは、昔よりも力が落ちている可能性はないのか?」
「え……」
「それで気づきにくいのか。後は、ミシェル自身がその凶悪なものを跳ね返したりするから、平気なのか。……それはそれで危険なものに気付かなそうだから、良くないな」
「確かに私、ミドリちゃんの後ろに来たら安心したのかも」
「……本当に“聖女”の力でそう言った良くないものを消し去っているのかもしれないな、ミシェルは。俺としては冗談のつもりだったんだが」
冗談のつもりだったとグレンは言って、ミシェル達の様子を見る。
どうやらこちら側に来る予定ではないらしい。
そこでミシェルの傍にいつもの妖精がいないのに気づいた。
「リアナ、ミフィはどうした」
「ミフィは私の家で、魔術師のフィーアと監視しているはずです」
「あのバカ、一人でここに乗り込んできたのか!?」
「で、でもミドリちゃん強いですし」
「どんなに強くても奇襲には耐えられないぞ。特に一人では。フィズ」
そこでグレンがフィズを呼ぶ。
それにフィズは、
「なんですかグレン様」
「城の内部は全部調べたのだろう?」
「調べましたよ~、グレン様は一応、大事な主ですからね。何かあってからでは遅いですから。特に聞いている限り自ら危険に飛び込んでいっている状態ですからね」
「捕縛系の罠は?」
「そう簡単に機能しないように隠れるようにして仕掛けておきましたよ。敵限定の制約条件と偽装は、ほんんっっっとに大変でしたよ」
「助かる」
「これだけこき使われても大事な主ですからね。怪我をされても困りますし……」
「ミシェルをその罠で援護できそうか?」
「なるとは思いますよ。敵が“黒の影”ならば」
「当面の敵はそれだから大丈夫か。……フィズ、いつもありがとう」
「お礼を言うならもう少し、派手な行動は慎んでください。王子様」
ため息をつくようにフィズが言う。
それからその罠が見たいらしいリアナと一緒にグレン達は、気づかれる前にその場を移動したのだった。




