計画が狂った
魔術師のフィーアを連れてとりあえず、リアナの家から反対方向に逃走した。
しばらく走って行ってから路地に入り込む。
人目があまりない場所がいいとの配慮だ。
そこまで走りこんでから私は、ようやくフィーアの手を放して振り返る。
長い黒髪に青い瞳のどこか中性的な魔法使い。
そこで彼は、
「あ、あの、助けていただいてありがとうございました」
「そうよ、全く。なんで外に出てきているの? こっちの計画が狂ったじゃない」
「……え?」
「というかなんで“闇の影”で親玉かもしれないユウを追いかけていったの? 一人で倒せるような相手じゃないでしょう?」
「……親玉なのですか? “闇の影”の。“黒の影”の凄い強いのくらいかと思ったのですが……そういえば僕は太刀打ちできませんでしたね」
彼はそこで納得したように頷く。けれど私としては、
「なんで一人で追いかけるという暴挙を犯したの? “黒い影”でも強い者なら一人でどうにかなるような相手じゃないでしょう?」
「そうですね。僕の認識が甘かったようです」
そう言ってうなだれてしまう魔術師のフィーア。
そういえば彼の性格は力が強いものの、大人しくて真面目で素直な魔術師だったような。
ここで心をへし折ってしまうのもアレなので、
「え、えっと、でも自分から解決しようと思ったのは凄い事だと思う」
「いえ、貴方のおっしゃる通りです。怪しい人物が城の中でいたので、そしてその、時々料理場でお菓子を貰っていたので、もし兄さんが巻き込まれたらと思ってつい……」
「兄さんって、料理人のアインの事?」
「そうですが……どうしてご存じなのですか?」
「異母兄弟だったのよね。兄弟仲、そんなに良かったんだ」
ゲーム内では、会話をする程度だったのだが、兄の危険を感じ取って行動する……それもこそこそと隠れるように研究をしているタイプだと思っていたのに、どうやらそうであったらしい。
これは予想外だは、あ、もしかしてこれ、ユウを殺さなかったから起こったイベントなんじゃないかと私は気づいた。
ユウがいなければ彼があの城からは出てくることはなかったのかもしれない。
やはり婚約破棄辺りから物語が狂っているように感じるわと思っているとそこでフィーアが、
「あの、貴方は一体どなたなのですか?」
「あ、私、ミシェル・レインです」
「え? ……あの幽霊屋敷に住み着いた得体のしれない怪物の顔をした令嬢なのですか?」
「……あの化粧は私の黒歴史だからそれ以上追求しないように」
「は、はい」
私はこれから残りの乙女ゲームの攻略対象に化粧の事を言われ続けるのだろうかと思いつつ、
「とりあえず今は、あの、ユウのせいで私は婚約破棄できなかったり妙な展開になっていそうというのもあって探りに来ているの。場合によっては、“退治”する必要があるかもと思って」
「そうだったのですか」
「それで多分貴方も状態異常耐性が強いからあのユウという人物に引き付けられずに抵抗したと思うの。それもあって本当は私の仲間が貴方にお話に伺う所だったのよ」
「まさか、それが計画」
「そう。全く……戻ってあったら、私と遭遇した話などをしておいてね」
「は、はい」
素直に頷いた彼。
あよは周りの確認という事で、
「さてと、ミフィ、ユウは周りに居そうか見てもらえるかしら」
「はーい」
見てもらうと、フィーアが唖然とした表情でミフィを見ている。
「“妖精の女王”」
「あら、分かるの。優秀ね」
「……ありがとうございます」
そしてミフィが戻ってきて、周りにユウはいないと私たちに教えてくれたのだった。




