どう考えても別人にしかお前は思えない
グレンと名乗った彼だが、私を警戒しているのか名前しか言わない。
だが私のレイン家は有名なので、名前は知っていたのだろう。
おそらくは疑問符を浮かべていたような感じではあったので、私がそのレイン家の令嬢に見えなかったのかもしれない。
だがこのドレスもふんだんにフリルの使われた、日用品として使うには少しお高いドレスではあると思うのだが……それが分からないか気づかなかったのか?
そういえば以前というか前世で知人男性に、奮発して買った服を見せた所、よく分からないと言われた記憶がある。
私の給料では高級なものだったのだが、彼にはよく分からなかったらしい。
私の自己満足にすぎなかったようだ。
さて、変な事を思い出したが、この目の前の騎士? であるらしい彼も女性の服には無頓着なのだろう。
だが騎士といえば貴族に使えたりする職業であったりもするので、この騎士は大丈夫だろうかと他人事のように思った。
そもそもなぜ彼はこんな人気のない場所で湖を見ているのだろう。
愁いを帯びた顔で湖を見ているのだから、彼なりに何か悩みがあるのかもしれない。
ちなみに私は、ケバいと言われた先ほどの言動を根に持っていた。
だからそんなデリカシーのない男が、何を思って湖を見つめているのか……それに非常に興味があった。
というわけで彼に、
「それで騎士のようなグレンは何故ここに来たのですか? 悩みがあるような顔をしていますが」
「……お前が本当にレイン家の令嬢かどうか、怪しいからな。答えられない」
「どこがよ。この服装だって美しさだって、貴族の令嬢そのものでしょう?」
そこで目の前の彼は少し黙ってから、
「……レイン家の令嬢は清楚で大人しい、銀髪に青い瞳の美姫。可憐な白百合のような少女だと聞いている」
おっと、ミシェルさんは外ではそのように思われていたのですね、今は私ですがとちょっとだけ誇らしい気持ちになっているとそこで彼が私を指さし、
「だから、どう考えても別人にしかお前は思えない!」
「どこがよ!」
「その反応がだ! 個人的には、爆発竹というキノコを袋に入れて投げたら、涙目で凍り付くのではなく、蹴り返してくる……そんな女にしか見えない! ちなみに前者が、ミシェル姫で、後者がお前だ」
そう宣言する彼は、どことなくドヤ顔である。
爆発竹というキノコは、少し強めの振動を与えると胞子を凄い勢いで噴出するので、よく……世間一般で言う、マイルドな言い方をすると悪戯っ子が紙袋に入れて投げて、その音で怖がらせるのに使うものである。
私も昔、そういえば酷い目に遭ったような……と私は思いをはせそうになった所で我に返る。
そもそも今の発言自体、問題だ。
「そんなもの、誰かが作った作り話じゃないの? 私は貴族令嬢ミシェルよ」
「分かった、もう一つお前が貴族の娘に見えない理由を説明してやろう」
「何よ」
「その、顔の輪郭が変質するくらい肌に塗るその化粧は……俺の国では、“娼婦”がするものだ」
そう、このイケメンは私にそんなことを言ってきたのだった。
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