台本をしゃべっている
ものすごく失礼なことを言われた気がしたのだが、リアナに、
「早く私の家に入りたいよ。後ご飯!」
「あー、はいはい。グラタンをこれから焼くから少し待ってね。サラダはもうできているから先に食べていていいわよ」
「わーい」
という事で急遽、大きいグラタン皿を幾つか、オーブンへ。
それと一緒に魔法でお湯を出してお茶を入れる。
本当は井戸水の方が美味しいんだけれど、今は忙しいからいいわよね、と思いつつ時短テクニックを使った私。
それでできたお茶をカップに注いで、持っていく。
すでに私以外の、リアナ、ルーファス王子、グレン、フィズは席についていた。
程よい温度で抽出したお茶はとても甘くて美味しい。
さてどうだろうと思っていると一口飲んだグレンが、微笑んだ。
「美味しいお茶だ」
「そ、そう、良かったわ」
「ミシェルにしては、なかなかだな」
「……」
「……」
無言で私達はお互いにらみ合い、そこで、
「仲がいいね。けれどその辺でやめてあげた方が良いのでは? 従者のフィズ君が新しい職を探しに行ってしまいそうだ」
ルーファスがそう言うのを聞いて、フィズの方を見ると机にうつ伏している。
どうやら色々と疲れがたまっているようだ。
なのでそれ以上手を出さずに私もグレンの隣に座る。
それから私はリアナに、
「それで、どうしてルーファス様がこちらに?」
「えっと~、ちゃんとミドリちゃんの言うように受け答えをしたら……面白がられちゃって」
「……何を言ったの?」
「い、言われた通りに答えたんだよ、そうしたら、『まるで誰かの台本をしゃべっているようだね』って言われてその後はいろいろお話しちゃった。アズフォードって騎士の人にはうまくいったはずなんだけれどな……」
そう呟きリアナが呻く。
どうやらこの世界は、乙女ゲームの世界に似ているがそこまでは甘くはないようだった。
さて、どうしようかと私が考えているとそこでルーファスが、唇の端を上げて、
「それで、リアナにそう答えろと指示したのはミシェル嬢、であったそうだな」
「ええ、そうだけれどそれで」
「私にそこのリアナが出会って、私がどう声をかけるかまでを全て教えたと」
「……ええ、そうね」
「まるで“未来を予知”しているかのようだ。だが、以前のミシェル嬢にはそのような能力はなかったようだが、どういうことなのかな?」
「……それを聞きに来たの?」
「それも理由の一つかな」
ルーファスがそう微笑みながら告げる。
だが私としては、気づかれた所で特に問題はなかった。
彼が敵に回る可能性は状況的に低い。
むしろ今話をして、協力してもらった方が早いか、と私は考えて、
「私が以前と変わったといったわね」
「そうだね、ミシェル嬢は変わってしまった。昔はもっと大人しくて、扱い良さそうだったが……今は何かをしたら、仕返しされそうな程度にエネルギーが満ちている」
「そうですか。ただ単に前世の記憶を、妖精さんに思い出させられただけなんですけれどね」
「……前世の記憶?」
けげんな表情で繰り返したルーファスに私は挑戦的な笑みを意識して浮かべ、
「そう、“聖女”の記憶。一部だけれどね。そして……今、ここの都市は危機に瀕しているかもしれないの」
そう私は彼に告げたのだった。




