それは奇抜というのでは
さて、私はいつものように化粧をして散歩に向かう。
途中、この付近の農家のおじさんが私を見て目を丸くしていたが、貴族が来るのが珍しいからだろうと私は思った。
そして森に続く小さな径を見つける。
今の季節は程よい温かさの風が心地よき新緑の季節。
芽吹いている若葉が鮮やかな緑を複雑に重ねて、移ろいゆく。
その合間を縫うように優しい木漏れ日が地上を照らすのだ。
とても気持ちがいい場所。
あのドロドロな汚いものとは違う。
癒される。
「やっぱり乙女ゲームで知っていたといっても、変なもの見ちゃった感は薄れないわね」
というわけで私は森の中を歩いていく。
この径は一体どこに続いているのだろうと、“未知”による期待を胸に私は歩きだす。
しばらく歩いていると、水の音が聞こえる。
小川でもあるのかと思ってその水音の方向に進んでいく……性格には道が続いていたので進んでいくと、木々の間から太陽光に反射して輝く水面が見える。
池か湖があるようだ。
どうせならその水辺に行ってみたいなと思った私はそこで、径が分かれ道になっているのに気づく。
どちらに行こうかと考えて、そばにある小枝を一本拾い上げる。そして人差し指で立てながら、
「私はどちらに行ったらいいでしょうか……右ね」
そうして私は右に向かう事にした。
この時、左に向かったなら私の今後の人生はどうなっていたんだろうと後になって思う。
けれど私は“右”を選んだのだ。
“運命”だった、それ以外私はそれに関して露わせる言葉を思いつかない。
湖の水際に沿うように、径は作られていた。
湖の中には小さな島や、その島に家があったりしているのがこの不思議世界の特徴である。
一応この世界にも魔法はある。
私も使う事が出来るので暴漢が来たとしても、即座に関節技を使って撃退できるから問題ない。
というのは冗談で、こんな森の中で炎の魔法を使うと山火事になりそうといった問題が幾つもあるのだ。
それを考えるとやはり技をかけて、ギブギブ言わせた方が楽しい……ではなく、暗線かもしれない。
「……あの駄目王子に、一回くらいかけておけばよかったかしら。練習と称して」
つい考えてしまう。
しかし私も大人なので、普通に自滅していくのを見ていようと、放っておくことにした。
優しいな、私!
さて、そうして歩いていくとそこで、憂いだ表情で湖の方を見るイケメンがいた。
服装都県を台頭している所から、騎士であるらしい?
だが、あの駄目王子というイケメンを目撃してしまった私は、イケメンに警戒感を持っていた。
彼もまた、裏では女を沢山囲い、高級なソファーに座りながら美女に囲まれて高笑いをしているのだろうか?
……でもそっちだと葉巻きが似合いそうだなと私は思いながらも、通り道に彼がいたのでとりあえずは挨拶だけしておこうと思って近づくが、そこで、彼が私に振り向きじっと見て、
「何だかケバい女だな」
「あん?」
いきなり女性に向かってなんてことを!
やはりイケメンは中身が鍛えられていないから高傲慢になるのね!
とイケメンアレルギーを私が発動させているとそこで彼が、
「何処の田舎貴族の流行だ。その化粧は」
「この化粧は上流貴族たちでは当然のもの。流行の最先端ですわ」
「それは奇抜というのでは……」
頭が固そうな、口の悪い彼。
もう少し、装えよと私は思いつつもとりあえずは、貴族としての名前を出せばこの失礼な男も態度をもう少し買えるだろうと思いながら、
「初めまして、私はミシェル・レインと申します」
「え?」
驚いたように彼は声を上げた。
だがミシェルの記憶と、異界の知識(乙女ゲーム)を合わせても彼のことは記憶にない……きがする。
そこで彼は、
「グレンだ」
そう自分の名前を名乗ったのだった。
評価、ブックマークありがとうございます。評価、ブックマークは作者のやる気につながっております。気に入りましたら、よろしくお願いいたします。