傾国って聞くと
すべてが終わったと思っていたのはどうやら私だけだったようだ。
「……なるほど。だから、ユウもそんな風に言っているわけね。もみ消されたとは思わなかったわ。そして私のせいになっていると」
「ミシェル、落ち着け。俺は可能性を言っただけだ。そもそも、だ。王家とはいってもミシェルのようなレイン家に盾着くのは奇妙だ。あちらの落ち度で“婚約破棄”になったのに、その事実をもみ消してレイン家の心証をこれ以上悪くするのか?」
「そこまで考えているのかしら、ただの小悪党よ? あの駄目王子。その場その場で嘘をついて自分の有利に持っていこうとしているだけじゃない?」
あの駄目王子はそんな所だろう、そう私は思う。
けれどグレンは更に悩んだように黙ってから、次に私に、
「その、寝取り女のユウというのはどんな人物だ?」
「ユウはユウよ。装うのが上手い、息を吐くように嘘がつける女よ。そして自尊心が高くて、私よりも優れていると言いたい女。私の元親友の美少女、かしら」
「ミシェル、そのユウとはどこで出会った?」
「どこでも何も、城の舞踏会よ。そこでほかの人達を壁に寄りかかりながら見ていたら、声をかけてきたの。まるで空気みたいに周りに溶け込むから、初め声をかけられたときに驚いたわ」
一人でぼんやりしていたらいつの間にか、ユウが私の隣にいてそれから“友達”になったのだ。
あれから家の前に居たりして、他にも偶然外で出会うことがあって話したりしたのだ。
今思うと色々と不可解な点がある。
寝取るために事前準備を色々していたのか。
そう思うといらだちが募るが、それであの駄目王子をどうにか出来たから許せるだけで……。
そんな風に考えているとそこでグレンが、
「その、ユウというのは貴族か?」
「そうでしょう? 私達の舞踏会にいるのだもの」
「だとしたら、貴族の名前は“何”だ?」
「名前? 名前は……何だっけ」
そこで私は、思い出せないのに気づく。
貴族の女であるなら、家の名前があるはずなのだ。
けれど私は、彼女がどこの家の出身か全く覚えがない。
私は、ようやくそのユウの“おかしさ”に気付いた。
そんな私にグレンが、
「ミシェルの仲の良い友人という事で俺の方も調べたが、ユウという名前の貴族は存在しない」
「……私に関して調べたのは今は追及しないけれど、どういう事?」
「貴族ではない。そして出自不明の人物が、そのユウという事だ」
冗談かと思った。
誰も気づいていないようだったのだ、私も含めて。
「何かの魔法を使われていたから違和感を感じなかった? ミフィ、何か知っている?」
「……省エネモードだと感度が低いです」
それは気づかなかったという意味だ。
ではあそこにいたのは一体なんだというのだろう。
グレンが私に、
「何か覚えていないか?」
「ユウは美人だからとりあえずモテていたわね。男が言いなりなの。結構好き放題しているタイプかしら」
「傾国と呼ばれる国を亡ぼすタイプの美女にも聞こえるな」
「傾国って聞くと、女のせいにするなって私、思うのよね」
「……俺はミシェルを見ていると国を傾けそうだが」
「その程度の男に用はないわよ?」
そう返してやると、グレンはそうだなと笑う。
そして他に何か言っていたかとグレンに聞かれたので、
「美貌がどうのこうのって」
「傾国よりもミシェルの方が美しいから仕方がないんだろう。案外そういった魅了をミシェルがその美貌で解除していたりしてな。一応、“聖女”だったんだろう?」
「面白い冗談だわ。でも、“聖女”としての能力、ね」
それが何かあったのだろうか? そう私が考えているとそこでリアナが、
「うーん、そうなると、最近都市で見かける“アレ”も何か関係あるのかな?」
リアナがそこで、何かを思い出したようにいったのだった。
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