もみ消されたな
コロコロコロコロ。
怒りのあまり、しばらく小さく呟いていた私の代わりに、それまで黙って話を聞いていたグレンが問いかけた。
「君は、リアナだったか。“聖女”の再来と言われている人物で、確か、ハレナ村の魔物の大発生を止めた人物」
「……何故ご存じなのですか? あの村の人達は、あの話を口外しないというお約束をしていただけたのですが」
「行動が派手すぎるからな。そんな魔物の大量発生を止めるような“聖女”の、巨大な魔力を見つけたなら、調べるだろう」
「……昔より色々やりにくくなりましたね」
「それに他にも君の行動はこちらも調べている。前にも言ったが君は行動が派手だから」
「目的は?」
「危険人物か、上手く手懐けられるかどうか」
「女性にはもっと優しく口説くべきだと思いますよ?」
「生憎俺が口説く相手は、ミシェルしかいない」
そう答えるグレンにリアナが目を瞬かせて、面白そうに笑った。
「そうなのですか、それは面白そうです。近距離で観測したいですねっと。それで聞きたいことはそれだけですか?」
「いや、本題はそちらじゃない。君は昨日まで、まるで王都にいたように聞こえたが」
「いましたよ、今朝まで。今日は親類の家に用があってたまたまここに来たのですが、まさかみどりちゃんと再会するとは思いませんでした」
「……ここまで来るには王都から数日かかるはず」
「転移魔法を使いましたからね。便利ですよ」
事もなげに語ったリアナに私は、はうあっと思った。
そういえばそんな魔法があったようなと思って、後で選択画面など私の基本能力を見ておこうと決める。
だがそれを聞いたグレンが、
「一瞬で目的の場所まで?」
「はい、大体の場所ならいけます」
「……ミシェルもできるのか?」
私にいきなり話を振られたので私は、
「まだ確認していないわ。あの駄目王子の事と貴方の事で精一杯だったし」
「そうか。それでそういった魔法は、ミシェルの記憶の範囲で“実在”するのか?」
「あるわ」
「なるほど、転移したのは事実とすると……」
そこでグレンが黙ってしまう。
どうしたのだろうと私が思っているとグレンが、
「ミシェル。ミシェルは本当に“婚約破棄”を王子としたんだな?」
「当たり前よ。なんで聞くの?」
グレンが何を言いたいのか分からずに私は問いかけるが、グレンは深刻そうな表情のまま、
「……なのに昨日、その寝取り女のユウは、“私には友達にミシェルがいる”そう言っていたんだな? リアナ」
「そうですよ、それがどうかしましたか?」
「もう一つリアナに聞きたい。最近の、王都にあるゴシップネタだ。知っているか?」
「そうですね、ものによりますね」
「貴族令嬢と王子の婚約破棄に関するゴシップネタは?」
「そんな面白い話があったら皆知っているでしょうが、ここ最近そんな話は一つもありませんね」
リアナは当然のことのように答えた。
だが、その話は私には衝撃的だった。
そして私が覚えたその悪い予感を、グレンが口にする。
「おそらく、婚約破棄されたことになっていない。もみ消されたな」
深刻そうにグレンが呟いたのだった。
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