若き日の黒歴史と遭遇
現れた人物は、村娘の服装をしていた。
だがそもそもこの世界の人口比率では貴族が圧倒的に少なく、その大多数がごく普通の村人である。
その辺りは特に突っ込む所はない。
だがこのピンク色の髪に明るい茶色い瞳の、服なんて飾りなのですと言わんばかりの、自称平凡美少女には見覚えがあった。
そう、私が悪役となって出てしまう乙女ゲームのヒロインである。
なので見覚えがあったのは確かなのだが、すでに現在、王都の騒動に巻き込まれているはずなのだ。
なのに何故彼女がここにいるのだろう?
私が婚約破棄を行ったせいで、物語自体が“変質”したのか?
そう思いつつ私は彼女の名前を呼んでみた。
「リアナ?」
「! やっぱり、“ミドリ”ちゃんなんだ! また、私の名前すぐにいい当てたし!」
リアナが嬉しそうに私の方に走ってきて飛びつくように抱きついてきそうだったので、私はささっとよけた。
くくく、残念だったな、私は女同士で抱き合う趣味などないのだよ!
などと思いつつリアナの様子を見ていた私だがそこでリアナが地面に激突した後起き上がり、
「相変わらずだね、“ミドリ”ちゃんは。戦友たる“聖女”の私にも容赦がない」
「いや、私、女同士で抱き合う趣味ないし」
「ここは感動の再開シーンだと思うんだけれど」
リアナが困ったようにそういうのだけれど、そこでとりあえず私は、
「ミフィ、そこに隠れているんでしょう? でてきなさい」
「はーい、何か御用ですか~」
「私の前の名前って、ミドリ?」
「そうですよ~。というかあちらも記憶保持ですか~、なんとなくそれっぽいと思っていましたが、やはりですか~」
「妖精さんが何かやったの?」
「先天性のものだと思います。あちらは」
そういってリアナを見る私達。と、
「あれ、ミフィ、久しぶり」
「ご無沙汰しています。ラ……リアナでしたっけ、今は」
「そうそう、というか前に一回見かけたよ、子供の頃に。でもそれっきりだったな」
「私はミシェル、今の“ミドリ”と契約結んじゃいましたから」
「そうなんだ……でもこうやってまた出会えたから、一緒に“必殺技”の魔法を打ちましょうね!」
「ごふっ!」
私は何かを吹き出しそうになった。
記憶にない、記憶にないよ何の話、そう私が思っていると更にリアナが、
「? 覚えていないんですか? よく言っていたじゃないですか。『私の生まれた東の方の島国では、友情の力を合わせて、威力を数十倍にした“必殺技”が打てるのよ!』って。そして幾度とない危機を私達で力を合わせて乗り越えてきたじゃないですか!」
目を輝かせるリアナに私は、モウユルシテ、ワタシノSANチハゼロデス、と頭が真っ白になりながら思った。
若き日の黒歴史と遭遇してしまった私。
しかし再会に喜ぶヒロインちゃんはそんな私の様子も気づかずに、つづけた。
「そういえばミドリちゃんは今、何て名前なの?」
「ミシェル・レイン。貴族よ」
「え? 今、“悪役令嬢”をやっているの?」
「……詳しく」
悪役令嬢は回避したはずなのに、そのような単語が出てくるのはおかしい。
何の話だと思って聞くと、
「私、昨日まで王都に居たのですが、そこで、貴族のユウって人が女の人相手に、『私に逆らって許されると思っているの? それに、私と仲のいいレイン家の令嬢ミシェルにお願いをしてもいいのよ?』とかなんとかいって、市井で脅しによく使っていまして、ミシェルは私たちの間では“真の黒幕”」
「あのアマ、マジでブッコロコロしてやる」
私はそう小さく呟いたのだった。




