嘘を言っているように見えない
そんなこんなで休憩用のベンチに私とグレンは座った。
目の前に広がる湖の光景は、とても美しいものだった。
懐かしい思い出が呼び覚まされる気もしたけれど、それよりも私は考えてしまう。
そう、また一つグレンに弱みを握られてしまった。
これに対してどう対抗スレばいいのかについて真剣に考えてみたが、答えは出なかった。
そもそも何で私はグレンに話してしまったのか。
もう少し警戒心を持って話すべきではあったのだ。
そもそも、このグレンが、
「一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「どうして私に前世の記憶があるって言っても信用してくれたの?」
「……行動があまりにも変わりすぎているからな。まあその前世の記憶というものが、追い詰められたミシェル自身の作った架空の記憶かもしれないけれどな」
「……」
「それでも、こうやって話しているとところどころに大人しかったけれど、“意志の強さ”みたいな物が見え隠れするミシェル、そういった本質は変わっていないように見えた。だから特に問題はないな。ミシェルはミシェルだしな」
そう告げたグレンに私は意外にも私のことを見ていると思った。
そもそも意志の強さみたいなものが無ければ、そのまま泣き寝入りするだけで、綿密に暗殺する為に体を鍛えて準備をしてといったことはないだろう。
執着心も強いといえるのかもしれないが。
でも架空の記憶と言われると、私もアレがそうとはいえないような気がしたので、試しに聞いてみる。
「私のその前世らしき記憶を追いかけていくと、この世界って、別の世界の“物語”にとても良くにているの」
「そうなのか。それで」
「その“物語”では、あの駄目王子とは結婚していて、親友の寝取り女などを殺していたりして、悪戯逆の限りを尽くすらしいの。しかも早くに死んじゃうんだって」
「誰かに殺されたとか?」
「それがどちらかわからないのよね。自殺なのか他殺なのか。ある日、井戸の中に落ちて死んでいるのを見つけて、それでお終いなの」
「……それは何処の井戸だ?」
「確かあの駄目王子の城の西の井戸だったかしら」
そう告げるとグレンは息を吐き、
「今の話は昔のミシェルを思い出すと事実になりそうで、肝が冷えたな」
「ふふ、そんな風になったら大変だったわね」
「そうだな、そんな風になったら俺はずっと、自分を責め続けるだろうな」
「……そうなの?」
「そうだ。だって俺はもっと早くにミシェルに婚約をお願いすることも出来たし、俺はミシェルに出会ったのはその王子よりも先だ。幾らでも手があったはずだ」
「まあ婚約段階で思い出せたのは良かったわ。これが結婚となったら……」
「そのような状況になっていたら、俺がミシェルを浚いに行っていただろうな」
思いがけない言葉に私は目を瞬かせてグレンを見る。
その表情は、嘘を言っているように見えない。
そんなにグレンは私のことが好きなのだろうか? とは思ったものの、まだ何処か私の心の中で、別の目的があるのではという疑念がくすぶっている。
素直でいるには、あまりにも色々とありすぎた。
暫く黙って湖を見て、それから私はグレンに手を伸ばして手を重ねてみる。
まだ自分の気持ちも何もかもがよく分からないけれど、話してみて、今はグレンとこうしていたいと私は思ったのだった。




