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売り言葉に買い言葉

 お弁当を手渡されて私はどうしてこうなったと思った。

 二人分にしては少し多いけれど、育ち盛りの男性はこれくらい食べるでしょうとのことだった。


「はあ、重い、重いわ。……頭の上にでも乗せて運ぼうかしら? ……そうしよう」


 というわけで私は食べ物の入った籠を頭の上に乗せて、ときに支える手を放してバランス運動~ 、などとやりつついつもの場所に向かう。

 いっそのことこのままどこか遠くに行きたいな♪ という感じで反対方向に向かいたい衝動に駆られたが、


「今日グレンと遭遇したら、徹底的に、そう、徹底的に幻滅するようにするべきね。く、そう考えると惜しまれるのはあの化粧道具だわ」


 私はそう呟く。

 何しろ昨日の夜、もうこんな化粧道具はいらないわよねと両親にサラッと言われて、あれよあれよという間に捨てられてしまったのだ。

 あの時私はもっと粘るべきだったのに、私としたことが!


 後悔が募る。

 そうして進んでいくと、いつもの場所にグレンがいた。

 イケメンはただ立っているだけで絵になる生物である。


 口を開かなければ、少しはマシなのにと私は思いつつ、気づいた。

 ここで今私はなんとグレンに声をかければ良いのだろう?

 あれですか。


 恋人同士の会話のごとく、『待った?』『待ってないよ』みたいな?


「考えただけで背筋がゾワッとした。ふう、ミフィを置いてきて良かったわ」


 ひとり私は呟く。

 あの妖精さんを連れてきたらきっと、私の心をさらにかき乱す発言をしてくれたことだろう。

 それを考えてお断りした時の、ミフィのあの表情はすごかった。


 しかもこんな面白い展開を側で見れないなんて、ミシェル酷いですと食い下がられたのである。

 何という野次馬根性。

 私の味方だと思っていたのはどうやら私だけだったようだ。


「仕方がない、孤独な戦いになるけれど、もう一度婚約破棄みたいな展開にしてやるわ」


 一人決意を新たにしつつグレンのもとに向かう。

 そして私に気づいたらしく振り向いたグレンが変な顔になった。


「何で頭に籠を載せているんだ?」

「これも運動なのです。女性は色々大変なんですよ」

「……ミシェルの奇行は今に始まったことじゃないから良いか」

「奇行って何よ」

「片手でりんごを潰せるそうだな」

「……」

「普通の令嬢は出来ないししようと思わないと思う」


 もっともな話に私は呻いて黙ることしかできなかった。

 だからこれ以上突かれないように私はグレンに、とりあえず歩きましょうと告げる。

 そうすると分かったと答えて、私の頭の上に乗せた籠に手を伸ばし、


「持ってやる。類まれな筋力を持っていそうだが、一応はデートだからな」

「……一言多いわよ」


 そう言い返すとグレンは楽しそうに笑った。

 悔しそうな私を見て笑うとはこのS男が、と思いつつ歩いていくとそこでグレンが、


「ところでこの料理はミシェルが作ったのか?」

「うちの料理人です。残念でした」

「何だ、ミシェルの手料理じゃないのか。ひょっとして料理ができないのか?」

「出来るわよその程度」

「信じられないな」

「今度作ってきてやるわよ。覚悟しなさい」


 売り言葉に買い言葉で私は言い返したのだがそこでグレンが微笑み、


「楽しみしている」

「!」


 そこで上手く私が手料理&次のデートの約束を今させられてしまったことに気づいたのだった。


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