始まり
短編の方を一部修正して、一番初めに挿入しました。
婚約破棄。
もうこれしか方法はないな、これを相手側から出させよう、そう、ミシェル・レイン……つまりは私はそう思った。
「さっき階段から転げ落ちたら、突如、前世の記憶が戻ったなんて。しかも生前やっていた乙女ゲームの悪役……どんな展開よこれ」
前世はどういう人物だかよく覚えていないが、どうやら美人の貴族(但し乙女ゲーム内で)に生まれ変わったようだ。
こんな幸運そう滅多に手に入る物ではないだろうに、ゲーム内の展開や裏設定を思い出すと、このミシェルはその幸運を、ドブに捨ててるとしか思えない。
「いや、嫌だってば、何であんな展開に私がならないといけないのよ。それもダメ男相手に」
確か物語内では、これから夫となる見かけだけのいい王子ビレスが浮気をしていたのが発覚して、その浮気相手を殺したりなど悪逆な行動を私のキャラはとるはずだった。
夢見がちで優しかったミシェルが惚れ込んでしまったがために、恋に狂うあまりに悪に手を染めてしまった、そんな展開だったはずなのだ。
得てして、モテル男は女の扱いが上手い。
その手管に、初なミシェルが引っかかってしまったのはある意味で当然の帰結なのかもしれない。
このミシェルの家は、実は王家よりも古い家系で、王家の親戚にも当たる。
その関係で両親はあまり良く思っていなかったが、ミシェルの熱意に押されて婚約してしまったのだ。
今思うと、ミシェルの両親は、彼らなりにミシェルを守ろうとしていたのかもしれない。
物語では、悪に染まっていくミシェルを何とか救おうとしたり、その悪事がバレないように両親が暗躍していたのが物語の後、明かされる。
ちなみに、ミシェルが死亡した後だ。
だが残念ながらこの記憶を思い出した私は、それはもう綺麗サッパリ、王子への恋心はなくなってしまった。
むしろ自ら墓穴をほっていくだろうことは容易に想像できたので、放置して様子を見るのが良さそうである。
だいたい一度浮気した男が、自分の所に戻ってくると思っているのかと。
以前その浮気相手の女を消せば、男が戻ってくると思ってその女を殺してしまうような話を見たが……私は、気持ちはわかるがこんな浮気男がどうして自分の所に戻ってくるのか? そもそもまたするぞこの男、浮気、としか思わなかったのだ。
知り合いの男性にそれを聞くと同意してもらえたので、多分そうだろう。
やっぱり君が一番だったんだって戻ってくると?
ナイナイ。
ちなみに現在の浮気相手は、ミシェルの友達である、ユウだ。
何も知らない顔をして、私よくわからないわと言いながらミシェルの様子を見に来つつ、こっそり王子と会っていたのだ。
作中では確か、王子とこのユウが仲睦まじそうにして、あんな華もない小娘のミシェルより私のほうがいいでしょと言って二人で笑いあっていたのである。
その時点でミシェルはユウという心を許した友人に裏切られた、というのもありユウを殺そうと決意し、現在武器などの準備をしていたのだが……。
「その前に本性見ちゃった、結婚する前でよかった、逃げようってどうして考えないの? どう考えても見かけだけはいいけれどあの王子は地雷じゃない!」
だが恋に狂ったミシェルは、まあ、うん、ということになる。
けれど私はミシェルであり、ミシェルじゃない。
もっと見かけよりも中身が“まとも”な男が良い。
そういった男は自分から探して捕まえてこよう。
競争率が高かろうが、自分で勝利をもぎ取る主義なのだ、私は。それに、
「折角この美貌と地位があるんだから、男なんてよりどりみどりよ。さて、婚約破棄……行くか。さてと、たしかユウを殺しに行く前に一回、ユウと王子のベッドシーンに遭遇していたらしいのよね。……よし」
それからの私の行動は決まっていた。
事前にユウと王子の行動を手のものに探らせる。
また、両親には事前に説明し、どうするか、といった話を決める。
結局二人のベッドシーンにうちの両親とあの駄目王子の両親と一緒に乱入することになった。
動かぬ証拠を押さえて婚約破棄、というわけである。
その来るべき日までに私は、最高の自分を演出するために化粧などを学んでいく。
より美しく磨いた私で、叩き潰す。
ユウとか言う女の方が華やかだとお互い話しているのも気に入らない。
この辺は私の意地の部分もある。
そして、その日がやってきた。
丁度いたしているその場に私は乱入した。
凍りついて青ざめた二人の顔は、見ものだった。
そして婚約破棄という流れになった時、その王子が、
「ま、待ってくれ、ミシェル!」
「私、親友の彼氏をとるなんてとても出来ないんです。だから身を引きますわ」
ほほえみながら悲しげに私はそう告げて、さらに食い下がるこの王子を足蹴にしたい衝動にかられながら、悲劇のヒロイン(笑)を演じて逃走した。
こうして自由になった私は、暫く精神的な疲れを取るために田舎の別荘に向かう。
実の所、これから更なる問題が発生するのだが、両親共々私はその厄介ごとから“逃げた”ことになる。
これからあの王子達は盛大なザマァ展開になるはずなのだ。
というわけで逃げ出した別荘、そして身分を隠して散歩に出かけたその場所である男に出会う。
出会い頭に彼は私にこういった。
「なんだかケバい女だな」
「あん?」
この美しくなった私にそう告げた男。
第一印象は最悪だった。