どうしたというのか~
婚約。
こんやく。
こんにゃく。
こんにゃくとは、こんにゃく芋から作られる歯ごたえのある食べ物である。
大昔は薬のように用いられていたらしいのだが、私が生活している現在というか前世では、おでんに入れてよし、補足してカロリーダウンした疑似パスタとして食べるのもよしというヘルシーな食べ物である。
そのコンニャクがどうしたというのか。
どうしたというのか~。
すでにSAN値がすり減り狂気の渦に飲み込まれかかっている私は、あひゃややや、と変な笑い声が出そうになった。
疲れているのか、そう私は疲れているので今変な言葉を聞いてしまった、そうに違いがない……。
私はその場から逃走しようと無言で踵を返そうとした。
だがそこで母が手を叩き、
「まあ、素敵。素晴らしいわ。あなた、どう思う?」
「いいね。家柄も申し分ない。そしてこんな好青年であれば、安心してミシェルを嫁にやれる。……実の所、ミシェルが婚約破棄に踏み切ると決めてくれてよかったと思っているのだよ。あの王子は……まあいい。それで、グレン殿。本当にご両親は乗り気なのですか?」
そう問いかける父にグレンが微笑み、
「はい。好きになさいと言われています」
「なるほど……お一度我々もグレンのご両親とお会いしたほうが良さそうですな。やはり婚約破棄した後での、婚約となるとなかなか心象がよろしくないのかもしれませんし」
「大丈夫です。ミシェル嬢達の噂は、我々の間でも話題になっていましたから」
「どのように、ですか?」
父が恐る恐るという風に問いかける。
それにグレンは少し黙ってから、
「“騙されている”と」
「! ……そうですか」
父は怒りのあまりに何かを叫びそうになったようだが、ぐっとこらえて大きく深呼吸をし、
「我々はこんな良い縁談がまさかこんな場所で振ってくるとは思いもよりませんでした」
「……今だからこそ言いますが、俺は昔からミシェル状が好きで忘れられなかったのです。時々こっそり見に来ていたのですが……喧嘩別れしてしまい、この年になるまで声をかけることもできなかったのです」
「そうだったのですか」
「はい、婚約したと聞き、俺はもっと早くに自分が行動すれば、といった事や、あの王子の悪い話なども聞いておりましたので、行動すべきかを悩みました。実際に人をやって様子を見てきてもらったこともあります。ですが結果は……ミシェル嬢はあの王子を愛しているようでした。だから、諦めようと思ったのです」
そこで一旦言葉を切ったグレンがゆっくりと噛みしめるように、
「でも再び出会えたのは運命だと俺は思っています。本当は諦めきれず、気分を変えようと思って湖の畔を散歩していたら……婚約破棄をしたばかりのミシェル嬢が現れました。俺はもう一度、挑戦するべきと言われている気がしました。でも、一番初めに現れたミシェル嬢は化粧のこともあり、まだ夢を見ているのかと思ってしまい、あまりよろしくない態度を取ってしまいました。それがミシェル嬢を警戒させてしまった要因の一つなのかもしれません」
そう、グレンは憂いたように言い切ったのだった。