味方、味方はおらんのか
今目の前に迫る危機!
だが待って欲しい、りんごを片手で潰せますわよ、といったのは、
「そ、そこにいるグレン……様が、私を突然何処かに連れて行こうとするからじゃないですか! だからそう言っただけです」
「あら、そうなの? ……ミシェルは、さっきまでグレン様が女性だと思っていたようですから、なるほど」
そこで頷く母。
どうやら納得してもらえたようだ。
と、そこでグレンが、
「そうですね。俺としたことが覚えているとばかり思っておりまして、我々のお茶のパーティに連れて行って驚かせようと思ったのですが……不審者に見えてしまったようで、ミシェル嬢には申し訳ないことをしてしまいました」
グレンはそう、表情からは本当に申し訳なさそうに言う。
だが確かあの時グレンは、
「けれどこんな場所に貴族の令嬢が一人来るのは……危険だと思わないか?」
などと嗤うような声で私を怯えさせるように言ったではないか!
それの何処が不審者に見えないというのだ!
話が歪められている。
それも私にとって不利な方向に。
このままではもっと貞淑な令嬢にとか何とか、言われそうな気がする。
だから私は何か用を思い出したことにしてここで逃走し、戦略的撤退をしようとした。
だがそこでグレンが、
「ただ俺も、あまりにも凄いお化粧で、一昨日は本当にミシェル嬢かと疑ってしまいました。それで態度が、あまり良くなかったかもしれません。申し訳ありません」
「! いえいえ、グレン様がそう思うのも無理ありません。私達も何度あの、怪物のような化粧を止めさせようと思ったことか! ……もしやグレン様があの化粧をミシェルにやめるよう言ってくださったのですか?」
母がそうグレンに嬉しそうに話しかける。
というか、お母様、そんなにあの化粧が嫌だったのですか……。
私は今更ながら、心の中で泣いた。
そんな私に更に追い打ちをかけるようにグレンが、
「……少しきつい言い方ですが、やはりミシェル嬢はそのままの姿の方が一番美しさが引き立ちますので、俺も心を鬼にして言ってしまいました」
「ミシェルの事を思っていってくれたのですね!」
感激したように母は言う。
父も頷いている。
味方、私の味方はいないのかと探し、先ほどから沈黙を守っている妖精のミフィに気づき私は、
「ミフィ、何とかならない?」
「いえ、全部本当のことですからね……こうなるのを見越して昨日一日計画をねっていたのでしょう。敵はやりますね~ミシェル」
「そんな気楽にいわないで。そもそも何があのグレンの目的なの! お母様もお父様も、どちらも懐柔されているように見えるし!」
「目的……目的ね。本当にミシェルは気づかないの?」
「当たり前よ、ミフィは分かるの?」
小声で私はミフィと話をするけれどミフィは笑っているばかりで、答えない。
教えてくれてもいいのに、私の味方、味方はおらんのか―! と叫びたい衝動に私がかられているとそこで、グレンが深々と息を吐く。
気持ちを落ち着かせるために深呼吸しているようだ。
そしてグレンは私の父と母に、
「俺は、ミシェル嬢と婚約したいのですがいかがでしょうか? すでに俺の父と母には説明済みです」
そこで、グレンの横にいた従者のフィズが、テーブルに隠れるようによしと手をにぎるのが見えたのだった。
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