ナニコレ、ドウイウコトナノ
母はニコニコしている。
父もニコニコしている。
そして“あの”グレンも、好青年の雰囲気を醸し出している。
え? ナニコレ、ドウイウコトナノ。
不気味なその空間を凍りつきながら見ていた私だが更に怪奇なことを母に告げられた。
「ミシェル、久しぶりに貴方の古いお友達が訪ねてきたのよ」
「……」
誰だお前! と、私は叫びたかったが、グレンはにこやかに微笑みながら母に、
「多分、ミシェル嬢は俺のことを覚えていないのでしょう。湖のほとりで昨日、一昨日お会いしましたがまるで気づいて頂けませんから」
「あら、そうなのですか? ミシェル」
母に名前を呼ばれて私は、本当に誰だお前!、と悲鳴を上げそうにながら頷き、
「あの、お母様。その……グレンと知り合いなのですか?」
「……昔はあんなに仲が良かったはずなのに覚えていないの? ……ああ、もしかしてミシェルは知らなかったのかしら」
「何がでしょうか?」
「リーフフィール王国の王家では、男子が生まれた際に悪霊に狙われないように、女の子として12歳まで育てる風習が有るのです」
それを聞いた私は、ん? と思った。
確か幼い頃に、
「リーフフィール王国の同い年の活動的な王女に連れ回された記憶が有りましたが。たしか、黒髪で赤い瞳でグレンという……女の子、でしたよね?」
「だから女の子として育てる風習があったの。そう……ミシェルはずっとグレン君を女の子だと思っていたのね」
そう告げられた私は、一度にどぱっと色々思い出した。
それはもう色々沢山。
活動的といえば聞こえがいいが、まるでお気に入りのぬいぐるみを何処にでも持っていくがごとく私は彼女……彼、グレンに連れ回されたのだ。
森やら何やら色々な場所に連れて行かれ、ときに驚かされたりして私は……それはそれで楽しかった気がする。
積極的な美しい同い年の彼女……であった彼に憧れすら抱いていたかもしれない。
けれどある日、原因は何かは覚えていないが些細な事で喧嘩して、あの爆発するきのこを紙袋に入れたものをいくつも私の方に投げてきたのだ。
そしてその音にも怒って泣いた私は、数日間、約束の場所にいかなかった。
けれどやはり気になって見に行ったけれどそこに彼女……彼の姿はなく、母には国に帰った話を聞かされる。
仲直りしてからお別れしたかったのになという後悔が私の中で燻ぶった。
だがそれから彼女に再び会うことはなく。
やがて、多くの思い出がそうであるように、彼女と言うか彼の思い出も“過去”になってしまった。
はずだったのだが、実は女の子ではなく男だったというオチが今更ながら付いてきた。
いきなりTS(性転換)して現れたなら、分かるわけがないと私は思う。
しかもあの発言だ。
異性に捕まってあんなことを言われたら、誰だって警戒すると私は思うのだ。
まさかこんな場所でこんな形で再開するなんて……もう嫌だ、私の心のHPがゼロに近づいていると思っているとそこでグレンが、
「そういえばミシェル嬢は、なかなか怪力になっているようでして。確か片手でりんごを握りつぶせるとか」
「……ミシェル、ちょっといらっしゃい」
微笑みながら手招きする母。
こうして私は一つ、何故か謝りに来たはずのグレンに、“危機”に陥れられたのだった。
評価、ブックマークありがとうございます。評価、ブックマークは作者のやる気につながっております。気に入りましたら、よろしくお願いいたします。