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9話 古代遺跡・ゴブリンの廃砦

予想以上の威力でローキックがクリーンヒットしたため悶絶しながらしゃがみ込み、痛みを堪えることしばし。なんとか立ち上がる。


「それでは行きましょう。今日はゴブリンを倒しながら街道の奥に向かって、そこにあるダンジョンになっている廃砦でモンスター退治をするのがいいでしょう」


何事もなかったかのように振る舞うフィリだが、まだ少し頬の赤みが残っていた。そこを突っ込んでまたからかってやってもいいが話が進まないのでやめておく。


この程度の痛みで怯む男ではないことを証明してやりたいところだが、まあまたそのうち機会があるだろう。たぶんすぐに。とりあえず街の入口まで出てくる。そして街道を行き交う人々の邪魔にならないよう脇による。


「上級ゴブリンが出るんだっけか」


スマホをいじってクエストを確認し、常設クエストのゴブリンと上級ゴブリン討伐を受けておく。こいついっつもゴブリン倒してんなって感じだが他に手頃なのがいないから仕方ない。


「ええ。ゴブリンの適正レベルが3~5程度。上級ゴブリン、職業を持った奴らは8~12ほどです。あなた一人だとなかなか厳しいでしょうが、補助魔法をかけますから。余裕が有るくらいだと思います」


上級ゴブリンというのはゴブリンファイターとか、アーチャー、ソーサラーとかそういうのらしい。ファイターは多少装備がまともになった所で問題なさそうだが遠距離攻撃は確かにきつそうだ。


補助魔法、バフの扱いはゲームごとにかなり差があるのでどこまで当てにしていいのかわからないが、なんだかんだで実力はきちんとあるフィリが言っているのだから信用していいと思う。


「じゃあそんな感じで行くか」

「はい。では補助をかけますね。それなりに長時間持ちますが、戦闘中に切れたりするとマズいので廃砦の前でもう一度かけ直しましょう。それまでに十分体を慣らしておいてください」


そう言うとフィリは指輪をつけた手を俺に向けてかざした。見えない何かが集まってくるのを感じる。魔力とか精霊とかそういうのだろうか。


魔法を使う才能は全然ないと言われたがステータスのMPは少ないながらもあり、最低限冒険者カードとか魔力が必要な魔道具を動かす程度のことはできているので魔法の発動を感知するとかそういうのならできるのかもしれない。


「筋力の強化、肉体の保護、敏捷の増加、感覚の鋭敏、加護よあれ」


なんかこう、もっと呪文っぽい感じにならんのだろうか。いやまあ分かりやすいけど。薄緑色の燐光が体にまとわりついたかと思うとすぐに弾けて消える。この世界にきて目覚めた時のような、全身に力がみなぎっている感じがする。


「攻撃、防御、敏捷、知覚を強化しました。格上相手でもそれなりにやりあえるでしょう。ましてゴブリン程度なら楽勝です」

「結構すげえな。早く試してみたい」

「では早速行きましょう」


探査魔法で道中のゴブリンを発見しては狩りつつ進む。昨日の時点でもそんなに苦戦することはなかったが、今日はもはやいじめのレベルだった。複数まとめてとか武器ごとでも豆腐のようにサクサク両断できるし、囲んで殴られても全て余裕を持って捌ききれる。そもそも地肌に当ってもかすり傷ひとつつかない。


「これは酷い」

「当然です」


ドヤ顔されるがこれはまあ、いいだろう。レベルが上がった分もあるのだろうがそれを差し引いても中々の効果だ。そんな調子で大量のゴブリンをバッサバッサと光に変えながら進撃し、ゴブリンの巣になっているというダンジョン、廃砦に到着する。元はかなり巨大な砦だったようで、全容が見渡せないほどだ。


しかし半ば以上が崩れ落ち、土砂に埋まっている。無事な部分も分厚い苔に覆われ、激しく木々に侵食され、根っこや枝がそこかしこから飛び出ている。


「こんなん中入って大丈夫なのか」

「冒険者カードにダンジョンとして登録されている以上は人が入れるようになっているはずですけど……」


とりあえずバフをかけ直してもらう。フィリは自身にもバフをかけていた。さっきまではレベル差で必要なかったようだが、ここのゴブリンたちは適性レベルより少し低い程度。念を入れてということだろう。


知覚強化のおかげかさっきまでは気付かなかった足跡が見えた。よく見れば崩れかけた壁の一角に人一人通れるほどの隙間があり、そこは雑だが木材で補強されていた。ここを住処にしているというゴブリンの手によるものだろうか。


「ここから入れそうですね。ダンジョンの中では探査の精度が落ちるので気をつけてください」

「分かった。まあ今なら奇襲とか食らう気は全然しないが」

「あまり油断しないで下さいよ。そこまで気負う必要はないでしょうが、弓や魔法には十分注意してください」

「おう」


砦の中に進入する。薄暗くはあるが、そこかしこの崩れたカベの穴から光が差し込んでいるので行動に制限がかかるほどではない。往時を偲ばせる3、4人程度なら余裕で並んで通れそうなほど広い通路を進む。


ゴブゴブと声がしたのでそちらを見ると道の端で車座になってなにやら石を転がしているゴブリンの集団がいた。何かゲームでもしているのだろうか。喜んだり落ち込んだりしている。


無理やり巻きつけたような皮の鎧に鉄鍋の兜、座り込んだ脇においているのはまな板に取っ手をつけただけの盾、サビサビショートソードと、なんというか子供の工作じみたものではあるが一応フル装備だった。


あれがゴブリンファイターだろうか。数は4。とりあえず大きめの瓦礫を拾う。フィリに目で合図をするとコクンと頷いたので、こちらに背を向けている奴の後頭部めがけて瓦礫をぶん投げる。


「ゲギャッ!?」


後頭部に直撃し、鍋の兜がガッツリ凹んでそのゴブリンはそのまま光に変わる。体制を整える前に追撃しようと走りだす俺の横を、身を低くしたフィリが風の様に駆けていったかと思うと、立ち上がろうとしていたゴブリンファイターの一体の後ろに回り込み、首筋にナイフを深々と刺す。


そのまま流れるような動作で背中を蹴り飛ばしてナイフを引っこ抜く。噴出するように光の粒子が飛び出し、そのままゴブリンは消滅した。


残りの二体が慌てながらも剣と盾を手に取ったところに突撃する。フィリはナイフを抜いた後既に素早く離れている。遠慮なしに両手持ちのロングソードをなぎ払う。一体目は盾ごと真っ二つになって光に溶けたが、二体目は浅かったのか弾き飛ばされ転がる。


追撃をかけようと踏み込んだ瞬間、横合いから何かチリチリした感じがしたのでそちらに顔を向けると、結構な勢いで矢が飛んできていた。


反射的に腕を振る。矢は小楯に当たり、ギンと鋭い音を立てて弾き飛ばされた。通路の奥の瓦礫の影から身を乗り出し、こちらを狙っているのはゴブリンアーチャーか。


ファイターの方を見るとフィリがショートソードを持った方の緑色の手首を切り飛ばしていた。心配する必要はなさそうなので、アーチャーに向かって盾を構えて突撃する。慌てて矢を放ってくるが狙いが甘く勢いも弱かったので簡単に弾けた。


ファイターより軽装で、頭巾を被ったアーチャーの頭にロングソードを振り下ろす。お手製の弓で防ごうと頭上に掲げるが当然何の障害にもならず両断される。アーチャーが消滅した後、あたりを見渡す。


特に隠れているのもいなさそうだ。アーチャーが落とした小銭と魔石っぽいのを拾う。アーチャーが落とした金は普通のゴブリンより結構多い。数を狩ればかなりの額になりそうだ。

魔石の方は小さい上にあんまり綺麗じゃない、いかにも屑石という感じだが、何かの足しにはなるだろうと思いリュックにしまった。




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