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8話 お前は乙女か

日の出とともに起きるという今までの生活習慣からは考えられないほど健康的なことをしてしまった。フィリはすでに目を覚まして、身支度を済ませていた。俺もかなり早起きしたと思ったのだが。


しかし少し眠そうでもあった。それなら無駄に早起きなんかするなと思うけど。宿で簡単な朝食をとり街にでる。冒険者用の装備を売っている店を検索し、地図を見ながら向かう。朝早くだというのに商人や労働者、冒険者らしき人々が多く行き交っている。


人通りの多い商店街からいくつか通りを挟んだ先、職人街のような区画にその店はあった。近くには武器や防具の店、鍛冶屋、道具屋なんかもあるようだった。魔法使い用の装備を売っているのは、おどろおどろしい雰囲気を出している魔道具屋のような感じの店だった。


店番はまさに魔女といった風情のしわくちゃの婆さんが一人。とりあえず並べてある杖や指輪を見てみるが、簡素なものでもそれなりのお値段。宝石らしきものがあしらわれている上級者用っぽいのに至っては桁を幾つか間違えているんじゃないかというレベルだ。


「どれがいいんだ? と言っても一番安い奴の指輪か杖か、ほとんど二択だが」


キョロキョロと店の中を見渡していたフィリに問いかける。黄色のでかい宝石が先端についた杖が気になるようだったが、値札を覗くととても手が出そうにない数字だったので見なかったことにする。


「指輪ですね。ナイフも持って片手を開けたいので」

「接近戦するのかよ」

「当然です」

「当然なのか……」


魔法使いって普通後衛なんじゃないかと思うがそういうわけでもないらしい。殴りプリとかそういうのだろうか。


「発動媒体になる魔石がついた魔法金属のナイフ……以前使っていたのと同じようなものがあればそれがベストなんですけどね。無いものは仕方ありません」

「使ってたって、それはどうしたんだよ」

「自分を売るときに一緒に売りました。父の形見でしたけど、中々いいお値段で売れましたよ。買うとしたらこの杖と同じくらいになるかと」


そう言ってフィリはさっき見ていた杖を指差した。いやだから重いって。どうしたら良いかなんて分かんねえよ。


「あー……まあ、そのうち買ってやるよ。代わりにゃならんだろうが」

「期待しないで待っていますよ。とりあえず今はこれを買ってしまいましょう」


手渡された指輪をもって老婆の下へ向かう。合間合間にやたらとヒッヒッヒを挟むのは芸風なのだろうか。ついでにポーションや解毒剤なんかの役に立ちそうなものも買っておいた。


店を出て近くの武器屋へ。フィリのナイフを買う。忍者が石垣を登るのにつける鉤爪を凶悪にしたようなのや、やたらと乱杭歯で殺意の高い見た目の戦闘用ノコギリ、パイルバンカーらしきもの(!?)などなど、妙なものに興味を示していた。


しかし結局でかい釘のような刺突用ナイフのスティレット、ゴツくて分厚い頑丈そうな軍用サバイバルナイフみたいなのの二択に落ち着き、最終的にサバイバルナイフを選んだようだ。


こんなでかいのその細腕で振り回せるのかと思ったが、そういえば冒険者カードでステータスを見た時俺と同じくらいの筋力はあった。


敏捷に至っては遥か上を行かれていたので、このナイフ持って飛びかかってヒットアンドアウェイで急所をぶっ刺すような戦い方をするのだろう。怖い。フィリが見ている間、ついでに俺も武器屋の中を見て回ったが、中々ピンとくるものがなかった。


ロングソードより短めのショートソードや幅の広いもの、細身のレイピア、逆に両手持ちのデカい奴では、バスタードソードやクレイモア、メイス、斧、大斧、ハンマー、槍、ハルバード、中盾、大盾、ボウガン、ムチ……色々あったがどれもピンとこなかったので結局そのままにする。

現状避けて殴るというか、足を使って戦うのが基本なので重い武器は扱いづらい。


盾もあると助かる、というか職業の補正なのか異世界転移の特典なのか初めからそれなりに使えたし、スキルを得てさらに良くなったから両手持ちの武器を使うという選択肢はない。


かと言って盾を大きなものに変えるのは機動力が削がれるし、回避主体というスタイルには合わない。まだまだ序盤なのだから戦闘スタイル自体を変えていくということも考えられるが、そもそも後衛が前に出る気満々なのだから足を止めて守りを固める必要が無い。


槍や長柄の鉄槌なんかは防御にも使えそうで良さそうな気もするが、盾を捨てるメリットが有るかというと、ううむ。そのうち敵に合わせて武器を変えたりする必要なんかが出てくるかもしれないがとりあえずは現状のままということでいいだろう。


あとは魔法の力が込められたロングソードなんてのもあってすごく気になったが、かなりお高かったので手が出なかった。


ドワーフっぽい店員のおっさんに聞いた所、炎が出るとか雷が出るとか切ったら爆発するとかいろいろすごいのがあるらしい。目を輝かせていた俺が気に入らなかったのか、フィリが俺の足を踏みつけて体重をかけていた。


痛くないギリギリラインまでは奴隷の首輪の反撃以外での主人攻撃禁止判定に引っかからず踏みつけられるらしい。無駄に器用なことをするやつだ。


ついでに防具屋にもよる。俺の防具は問題ないが、フィリは未だにぬののふく状態だったもんだから。魔物相手だと気休め程度らしいが丈夫な革のローブに、スカートが捲れても平気なようにとショートパンツ。


ワンピースの裾からちらっと見える感じになった。ロリっ子のパンツ見ても楽しくないし別にそのままでも構わないのだが、などと思っていたら足を踏まれる。


革の頑丈なブーツも買っていたのでさっきよりも重い感触。速攻で攻撃禁止判定が出て無理やり足を上げられたのかバランスを崩して商品棚に突っ込みそうになった。すんでのところをなぜかアイアンクローでキャッチして止める。


自分でも流石にどうかと思ったが、凄まじく微妙そうな表情で礼を言われた。俺も多分似たような顔をしていたと思う。今のはわざとじゃないんだが、なれた動きがとっさに出たというか。


それにしてもこいつは、というか女子全般なのだろうか、察知力が高過ぎると思う。あるいは俺が顔に出すぎるのか。そんなことはないと思うのだが。クールなポーカーフェイスだぜ、と思っていたら鼻で笑われた。


ポーカーフェイスはできていないようだった。カードゲームとかしてる時に、不利な状況でもニヤニヤ笑う系のポーカーフェイスばかりが悪友たちとの付き合いの中で鍛えられたせいかもしれない。


状況限定タイプのスキル、とか言ってみるとちょっとかっこいい。それはそれとして腹がたったので手刀を落としておく。涙目になりつつも待ってましたとばかりに全力のローキックで反撃された。脚甲だけは金属製のやつを買っておくべきだったかもしれない。


「よし、なんか無駄に疲れた気もするが装備は整ったな」

「全部自業自得だと思うんですけど」

「そんなこともないと思う」

「……そうですね。あるいは私が少し大人になるべきなのかもしれません」


遠い目をされた。どういう意図の発言だおい。俺がガキっぽいというのは否定出来ないがこいつも見た目のロリっぷりに見合ったクソガキぶりをちょくちょく発揮しているのだが。


「……」


優しい目をされた。凄まじく腹が立ったので顔を掴んでたらこ唇のぶちゃいく顔にしてやる。


「……」


目を閉じた。苛ついたようにバサリとしっぽが振られる。我慢しているようだ。ぶちゃいく顔だから様にならないけどキス待ち状態にも見えるな、とふと思う。一旦手を放し細い顎に指を添える。ビクリと頭の上の犬耳、狼耳だったか、まあどっちでもいいけど、その銀のケモミミが盛大に震える。


「……」


フィリの顔がものすごい速度で赤くなる。13歳といえば色を知る年である。女の子は早熟だと言うし、そういった知識も持ち合わせているのかもしれない。そういえば商店街の方に本屋があったな。

エセ中世ファンタジーっぽい世界観では紙や本が貴重品扱いだったりするが、宿で普通にダブルロールで柔らかいトイレットペーパーが設置されていたりしたのでそんなことはないだろう。


恋愛小説とか読んだことがあったとしてもおかしくない。何か流れで妙なことになっているが、かなり混乱している様子である。普通だったら二秒で蹴りが飛んできている所だ。


「……?」


俺が黙ったままなにもしないことに不思議そうな表情をするフィリ。


「……ブフッ」

「ぶっ殺します」


思わず吹き出した俺に、迷わず買ったばかりのゴツいナイフを抜き放ち腰だめに構えて突撃してくるフィリ。殺意高すぎて困る。当然のように即座に攻撃禁止判定が出て盛大にすっ転ぶ。


大きく振り回された、ショートパンツの裾から丸出しの白い太ももが眩しい。買ったばかりのローブは早くもホコリにまみれた。


「キスされそうになって、目をつむったまま黙って震えてるって……お前は乙女か」

「……!」


ぐるぐる唸りながらゆっくりと立ち上がり、ナイフを手が真っ白になるほど強く握りしめつつ全身をブルブル震わせヤバイ目でこちらを睨んでくるロリっ子。ちょっと洒落にならないレベルでキレてるようである。


「ハハハ、まあ今日も元気にモンスター退治に出かけようじゃないかハハハ!」


ごまかすように笑いつつ肩や背中のホコリをバシバシ叩いてとってやる。ついでに尻尾の下の小ぶりな尻もバシバシ叩いておく。それで反撃判定にOKが出たのか、これまでで一番強烈かつ流麗なローキックが俺の脛を襲った。

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