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7話 なんなら俺を兄と呼んでもいいんだぞ?

俺もフィリもシャワーを済ませ、置いてあった浴衣っぽい服に着替えて寛いでいた。フィリはタオルで髪をまとめているためうなじが覗いている。間接照明で照らされてなんだか艶めかしい。ロリなのに。


「よし、とりあえず異世界生活一日目無事の終了を祝って乾杯。お茶だけど」

「乾杯。その意味不明な発言は病気か何かなのですか。まあ言わんとすることは分からないでもないですけど。今日の成果は駆け出し冒険者のスタートダッシュとしては上々でしょう。私のような優秀な魔法使いを雇い入れ、大した怪我なくそれなりの数のゴブリンを狩る。私の装備を整える程度のお金はできたんじゃないですか」

「こんなもんだがどうだ」


冒険者カードの画面を見せ所持金を表示する。それなりの額が溜まっていた。ボーナスっぽくどっさり入っていた初期資金を全ブッパしたので最初と比べると少ないが。


「ふむ。低級のものなら十分買えるでしょうね。魔法の発動媒体はピンキリですけど、あるのと無いのでは全く違いますから」

「じゃあ明日はそれ買いに行くか」

「ええ、そうしてください。フィリの優秀さを見せてあげますから」


ドヤ顔がムカついたので両頬を押さえてたらこ唇のぶちゃいく顔にしてやる。座った状態では蹴り技主体のこいつでは的確な反撃はできまい、という素晴らしい戦術判断に基づいた行動である。即座に鋭い裏拳でファニーボーンを打たれ、俺はジンジン痺れるひじを押さえて悶絶する。


「ぬぉぉぉ……」

「あなたはどうしてそう小さな子供みたいなことばかりするんですか……」


心底呆れたような声音で言われる。ロリっ子に憐れむような視線で見られるというのはかなりのレア体験ではなかろうか。


「舐められたら終わりの冒険者稼業だろう?」


適当なことを言ってみる。本当は年下相手には大体こんな感じなだけだ。


「どこでそんな妙なこと覚えてきたんですか。冒険者に大事なのは信用と実力です。地道にコツコツ積み上げていく他ありませんよ」

「えー。もうちょっと楽してずるして最強チートみたいなのはないのか」


子供の頃は何時間も単調なレベル上げするのも攻略見ないで試行錯誤するのも苦にならなかったが、最近はちょっとダメになりつつある。単純作業はきつい。チートもチートでつまらんが。


「あるわけ無いでしょうが」

「まあそうか。しかしまあ、ちっとはレベルとか上がったのかね」


冒険者カードをいじってステータスを表示する。Lv3に上がっていた。相当倒したと思ったが案外渋いのだろうか。能力値の成長はそれなり。スキルはパリィ、スラッシュなどそれらしいものを覚えていた。そういえばゴブリン狩りの後半は盾の扱いが随分良くなっていたような気もする。


「まあ、こんなものですかね。すぐにゴブリンでは中々レベルが上がらなくなるでしょうから、次の相手も考えるべきでしょう」

「敵が弱いとレベル上がらないとか?」

「そうですね。私も何年も家の周りのモンスターを狩っていましたが、適正レベルを超えたあたりからほとんど上がらなくなりました」

「城の周りのスライムだけ狩り続けてレベル100なんてわけにはいかんのか。まあそんな悠長なことをするつもりもないが。そういえばお前はレベルいくつなんだ? 冒険者カード的なものは?」

「昔は狩人証を持っていましたが、奴隷になる時に返上しました。これが今は代わりですね」


てしてしと自分の首輪を指でトンと叩きながらそう言うフィリは、無表情ながら酷く寂しそうな雰囲気をにじませていた。


「一応、主人であるあなたのカードで私の情報も見られるはずですよ」

「ほう」


カードのそれっぽい所をいじってみると確かにパーティメンバーの欄からフィリの情報を見ることができた。13歳、女、デミヒューマン狼牙族、精霊魔法使いLv15……


「結構高いなおい」

「まあ冒険者だったら中堅に入るかどうかというところでしょうか。父が生きていればもっと上がってたんでしょうけど」


なんか重そうな話の気配がする。突っ込んで聞いていいものか。アホの友人たちが相手であれば迷わず踏み込んで地雷を漢探知しておもいっきり踏抜き、キレたり涙目になったりするのを指差して笑ってやるところなのだが。


いや、俺の性格が悪いというわけではない。現代日本で普通に生きてる男子高校生の隠し事なんて基本大したことではないし、もし重い話だったとしても、むしろ下手に気を使うほうがプライドを傷つけるというものだ。


大したことじゃねえよと強がってこそだし、お互いにそういうのをぶっ込んでいくからこその友人関係だと思っている。奴らもそうだ、たぶん。

しかし相手はやたらと気が強いし口が悪いしプライド高いし中二病患者だが、女の子で、子供で、会ったばかりの相手だ。そこまで踏み込んでいいのだろうか。適切な距離感がわからない。


「大した話ではありませんよ。父は私が幼いころに流行病で死んだんです。里の近くの山の奥、狩猟場に踏み込むには、成人までは保護者の同伴が必須と部族の掟で定められていたので、私はそこまで行けなかったというだけです。今のレベルは、父が生きていた頃に一緒に狩りに行って上げた分と、一人で山の麓の弱いはぐれをちまちま狩って上げた分です」


大した話ではない、本当にそう思っている顔ではないぞおい。全力で無表情を取り繕っているが、こいつの感情の機微は分かりやす過ぎるほどに分かりやすい。まとう空気が露骨に変わるもんだから。


「年季が明けるまでに、狩猟場で問題なくやっていける程度までレベルを上げておきたいところです。母は術者としての腕はいいんですけど体が弱いですから、私が弟や妹たちを養わなければなりません。数年程度は私を売ったお金で余裕でしょうけど、できれば早めに帰ってあげたいところですね」


フィリが自分を売ったのは家族のためだったらしい。受付嬢さんが飢饉がどうのと言っていたし、その関係だろうか。

なんというか、えらく間の抜けたファンタジー世界だと思っていたが、それなりにシビアな要素もきちんと存在しているようだ。何でもかんでも都合が良すぎると不安になるので多少は安心した。喜ぶ気には全くなれないが。


なんとなくフィリの頭をワシワシする。タオルがずれ、魔法式のドライヤーっぽいもので乾かされた髪がボサボサになるが気にせず続行。

嫌そうに身を捩り、俺の腕を押しのけようとする。昼間の全力には程遠い弱々しい力だった。満足するまでひたすらわしり、手を離す。フィリは呆れたような顔でタオルを外して髪を整えた。


「あなたという人は本当に……子供のような、いえ、まんま悪ガキって感じですね、図体は大きいくせに。冒険者としての筋は悪く無いですし、やる気があるのも結構。そして……悪い人でないのは分かりましたが」


そっぽを向きながらそういうフィリの横顔はほんのり赤くなっているような気もする。照明の光の具合のせいかもしれないが。なんとなく、むず痒い空気になった。耐え切れずに口を開く。


「なんなら俺を兄とでも呼んでもいいんだぞ? いや、お兄ちゃんと呼べ」


それまでのなんとなくいい雰囲気が一撃で霧散した。


「死んでください。私はもう寝ます。変なことしたら噛みちぎりますから。ではおやすみなさい」


恐ろしいほどの真顔だった。フィリはさっさとスタンドの明かりを消して、こちらに背を向けて布団に潜り込んだ。仕方ないので俺も寝ることにする。反対側の、俺のベッドの枕元のスタンドも消し、真っ暗闇の中で布団に潜る。


ああいう空気で我慢しようと思っても我慢しきれず茶々を入れてしまうからモテないんだろうか。いや、そもそも女の子といい雰囲気になる事自体全然なかった。少し落ち込む。


似たような事例としては、実の方の妹との中がこじれた、というかゴミ虫扱いされるようになったことだろうか。

妹が思春期・反抗期に突入したということも大きな原因だろうが、直接の切欠は妹の真面目な相談にやはり耐え切れずふざけた発言をぶち込んだことだったようにも思う。反省すべき悪癖なのだろうが、治る気は全くしなかった。


丸一日冒険者をやったわりに、あまり疲れは感じていなかったが、やはり体はしっかり疲れていたのだろうか、俺はすぐに眠りに落ちた。

最初はパパと呼べ、でしたが流石にアレだなと思いお兄ちゃんに変えました。パパもパパでとてもいいですが。

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