5話 ゴブリン天に還る
「よし、じゃあとりあえずモンスター退治行くぞ」
「フィリは丸腰なんですが……」
銀髪犬耳ロリにジト目で睨まれる。自称狼らしいが正直違いなんぞさっぱりわからない。そもそもアニマルな特徴があるのは耳と尻尾だけなのにそんなに気にするところなんだろうか。あ、普通の範囲に入る程度に鋭い犬歯も一応特徴といえば特徴なんだろうか。ただの八重歯って感じだが。
「まあなんとかなるだろ」
「やれと言われればやります。でも焦点具、杖か、指輪か、魔法の発動媒体になるものは最低限欲しいんですけど……」
「金がない」
どうしようもない事実で一刀両断してやると、ジト目の温度がさらに下がった気がする。ゴミを見るような目、はこのロリにあってから大体ずっとだがもう少しどうにかならないものかと思う。まあ俺にかかればこの程度そよ風みたいなもんであるが。
睨まれた程度でどうにかなるようなやわな神経はしていないのだ。友人連中全般にも言えることだがどいつもこいつも面の皮が厚くて困る。俺もそれに影響を受けてしまったらしい。俺はともかく、奴らはもう少し周りを気にして生きるべきだと思う
「フィリを買うのにそれなりの値段を出していたと思いましたが……まさかあれが全財産だったんですか」
「おう。もうすっからかんだ。稼がないと夕飯代もねえぞ」
手元にあった初期資金と思われるお金はそこそこあったが、フィリの値段は全ブッパしてちょうどだった。まあ泡銭だし使ってしまおうの心意気で購入したのだった。ちなみに人気のある奴隷は競りになるがフィリは人気なかったので普通にそのまま買えた。
あと相場より大金払って即決で買うという荒業があるようで、鎌田はそれで買われたらしい。あの太っ腹(物理)な商人は奴のどこがそんなに気に入ったのだろうか……。
「低能だとは思っていましたが……どれほど罵倒の言葉を重ねても足りないでしょうねあなたには」
無言でアイアンクローをかける。腕を全力で握りしめて抵抗してくるので、痛みに耐えかね程々で外したらあちらも涙目になっていた。それなりに効いたらしい。
「冒険者なんてでっかく稼いでボンガボンガ使って宵越しの金は持たねえぜとかそんなんだろ。ほれ、常設クエストでモンスター退治とかあるし、稼ごうと思えばいつでも稼げるだろ」
「本気でそんな刹那主義的なことしてる連中はごく一部です……。それにあなた駆け出しでしょう? 自分がどれだけできるかわかってるんですか」
「知らん。でもたぶんいける気がする」
装備は整ってるし、地球にいた頃よりパワーアップしてるし。自信満々で言い切る俺にフィリは頭を抱えていた。ダメならダメで最悪鎌田の如く自分を売れば……。奴より安値だったりしたら立ち直れなさそうなので本当の最後の手段にしたいが。
俺はスマホ…冒険者カードをいじる。特殊なものではないクエストなら冒険者カードから受けられるのだという。便利過ぎる。報酬もこれで受け取れるらしい。クレカとかみたいな感じではなく魔法で金貨が転送されてくる謎の物理方式らしいが、便利は便利だ。
よく見ればステータス欄に所持金も表示されており、今はポケットに残った小銭分くらいの数字を表示している。どういう仕組みか知らないがほんとに所持金全部が出るらしい。ギルドから情報提供、店でギリギリまで絞ってバックマージン説に信憑性が……。まあその分稼げばいいんだし、気にしないことにする。
「街道のゴブリン退治、山賊退治、墓地のスケルトン、ゾンビ退治、下水道のスライム、大ネズミ……色々あるが、どれがいいかね」
「スライムは物理攻撃があまり効かないのでそれ以外ですね。ステ-タスを見る限りあなたは頭悪くて魔法の才能がさっぱりなこと以外はそれなりに優秀みたいですし、囲まれなければなんとでもなるでしょう」
「そうか」
俺の冒険者カードをのぞきながら暴言を吐いたロリの頬を引っ張る。
「ひゃにひゅるんですか!」
「もっとご主人様を敬え」
「寝言は寝ていってください」
赤くなった頬をさすりながら俺のすねをゲシゲシ蹴りつけるフィリに態度を改める気は一切無いようだった。まあいいや。
「とりあえず、ゴブリン退治で行くか。最初の敵といえばこいつだろう」
「分かりました。装備がないので自分の身を守ることを優先しますけど構いませんね」
「おう、まあそのうち金貯めて揃えないとな」
「期待しないで待っていますよ」
「いや、流石に布の服一枚で戦場に出し続けるほど鬼じゃねーぞ。今回は特別、っていうか何なら留守番してても」
「付いて行きますよ。見ていない所で死なれても困りますから」
「いや、ゴブリンにはやられねーだろ」
チュートリアルの敵である。適当にやっても勝てるだろう。クリティカルが出て連続攻撃されると即死とか、普通に強くて囲んでボコられると普通に死ぬとかそういうバランスになってるのは相当少数派だと思う。
「分かりませんよ? あなたのようなマヌケはいつどんな致命的なポカをやらかすことか」
頬、すね。早くもそれらが流れるように自然なやり取りになってきた俺たちは連れ立って町の外へ、街道から外れた所でうろついているというゴブリンを退治しに向かった。
町の外へ出る。今更であるが、この街は大四国くらいのサイズの大陸を統一した王国の、西部穀倉地帯の外れにある開拓地帯らしい。開拓の最前線はもう少し西らしいが、人や物の流れが激しく、未開拓地が近いためモンスターの類も多い。
過去の遺跡や過酷な自然地形なんかもたくさんあるそうだ。そうしたモンスターのすみかになっているところに踏み込むにはそれなりにレベルを上げる必要があるだろう。
今回狙う街道沿いのゴブリンは、そういったモンスターの住処、ダンジョンと言ってもいいかもしれない、そこで出て来るものとは違い貧弱な奴らだ。
数はそう多くないし、仲間を呼んだりする恐れもない。手頃な相手といえるだろう。馬車や人がのんびりと行き交う石畳の街道を外れ、こっちの世界に来てからとんでもなくよく見えるようになった視力を活かしてゴブリンを探す。
「お、いた」
早速草原の岩陰に潜んでいるゴブリンらしき影を見つけた。緑の肌の小人、シワシワの顔に粗末なボロ布のような服。数体いるが装備は棍棒だったり錆びついたナイフだったり適当感溢れている。ゴブゴブ言いながらいやらしい顔つきで談笑している。これぞまさしくゴブリンという感じだ。
「……数は、3ですか。近くに他のモンスターはいないようです。手頃ですね」
「分かるのか?」
背の高い草むらやまばらに生えた木々、ゴロゴロ転がっている大岩など、視界を遮るものがそれなりにあるのだが。
「精霊に探ってもらいました。杖があればもっと楽なんですけどね」
探査の魔法が使えるらしい。便利系だ。目で見て探すより確実だろう。
「よし、じゃああいつらを狙うことにする。釣りだすからちょっと下がってろ」
「いざという時にフォローはできるようにしておきます。どれだけあなたがへっぽこでも死ぬことはないですよ。安心してください」
「うるせえ」
フィリが背後の木の影に隠れるのを見届けると、足元にあった拳大の石を手に取りぶん投げる。近くに当たって釣り出せればいいかなと思ったのだが一体の後頭部に直撃しそのまま昏倒する。残りの2体はぎゃあぎゃあ喚きながら向かってきた。
こちらからも走り寄りつつリーチの差を活かして一匹目の頭をロングソードでかち割る。脳漿が飛び散るかと思ったがなにやら光の粒子がドバーッと出てそのままゴブリンの体も粒子に変わり、宙に溶けて消えた。
思わずあっけにとられた隙を突いて、俺の懐に潜り込んできていたゴブリンが突き出した錆びたナイフを、左腕に括りつけた小楯で弾き、体勢を崩したゴブリンの土手っ腹にロングソードを思いっきりぶっ刺す。青っぽい血を吐き、それがこちらの頬や革鎧にかかる。
不快さを感じながら、足をかけ剣を抜く。血ではなく、光の粒子が溢れてこのゴブリンも同じように消えた。返り血すらも光に変わり宙に溶け、ゴブリンを殺した痕跡はもうどこにもない。後には錆びたナイフと少しの小銭だけが残されている。
「ええ……」
いや、剥ぎ取りとかの面倒がないのはいいけどどうなってるんだ。とりあえず、小銭と、戦利品のナイフは一応拾っておいた。
(この世界のゴブリンは全力でスレイされるほど邪悪な存在では)ないです
しましま団的な(世代がバレる例え)




