3話 価値ある男過ぎてすまんな!
本日3話目です
冒険者カードの地図アプリを見ながら奴隷商を目指す。それにしてもこれ完全にグ○グルマップなんだけど、大丈夫なのか色々と。
無意味に心配になりつつ歩いて行くと、街の中心から少し離れたところのようで少し時間がかかったが到着する。奴隷を売っているというから陰鬱な雰囲気を予想していたが、近づいてみると全然そんなことはなかった。
商館らしい大きな建物の前の広場に人だかりができ、奴隷らしい半裸の男たちがキメ顔で筋肉を強調するポーズをとっていた。
バイセップスだのサイドチェストだの学校の休み時間なんかに鎌田がポーズを取りつつ色々言っていた気がしたが持ち込んだ携帯機でゲームしながら聞き流していたため全く覚えていない。
商人たちがそんな彼らにでかい声で値をつけている。競りの形式なのだろうか。ムキムキのリザードマンがヒューマンの商人に買われていく。俺の腰ぐらいありそうなぶっとい腕をうっとりしながらさする髭面の商人の姿は俺の精神に激しくダメージを与えた。
なんなんだこれは。あたりを見渡し口直しになりそうなものを探す。種族、年齢、性別、どれも様々だが全体的にマッチョの男が多い。しかし女の子もたくさんいる。ちょうどボンキュッボンのリアルうさみみねーちゃんが競り落とされたところだった。
セクシーなバニースーツを着ているが耳は生物的にピコピコ動いているので自前らしい。値段は今持っている金では到底足りそうもない高額だ。初期所持金があるだけありがたいのだから文句をいう気はないが、人気のある奴隷を買うには足りないだろう。
人気がないのは男も女も基本的にヒョロい奴らだ。しかし歌を歌ったり踊ったり暗算を披露したり、一芸をアピールしている奴隷のところには少なからず商人が集まっている。なるほど、こういう感じの中から魔法をアピールしている女の子を探せばいいわけだ。
しかし魔法と言ってもよく分からんな。ちょうど小さな女の子が帽子から鳩のような雀のような謎の鳥を大量に出して観衆をわかせ、競り落とされているが、手品と魔法の区別なんてつかないぞ。多少ボラれるかもしれないがどうせあぶく銭だしと、奴隷商の人に聞いてみることにする。
「すんません。駆け出しの冒険者で、予算はこれで、魔法が使える女の子の奴隷がほしいんだけど……」
「ああはいはい、ちょうどいいのがいますよお客さん。お客さんは運がいい」
俺の腹ぐらいの背丈の柴犬商人が舌を出しながら可愛らしい声で言った。衝動的におまえが欲しいと叫びたくなったが、女の子にかける情熱を思い出してなんとかこらえる。
そしてさらに言えば住所不定で犬猫系のペットを飼うのは間違いなく良くない。生き物を飼うには相応の責任感と甲斐性が必要だ。適当なことをしてはいけない。俺は自分を戒めた。
「こいつです」
「……ふむ」
ロリじゃねえか却下。と言おうと思ったがお触りなしである以上は観賞用だ。それを思うと商人が提示してきた子は頗る付きの美人だ。ロリだが。清流のようなきめ細かな銀髪のショートカット。頭頂部に飛び出た犬耳。服装はシンプルだが清潔感のあるワンピース。
ぼんやりとこちらを見つめる、翡翠のような緑の瞳は何の感情も映していないが、その奥には意思の強さが確かにある。修学旅行の時宮原が女子風呂を覗きに行くといった時もこんな目をして……。
「不愉快な視線を向けないでください」
「おお?」
また心を読まれたのかと思う。しかしこちらを見る彼女は俺個人ではなく単に彼女を買うという行為が気に食わないようだった。他の奴隷たちのように他人に媚びることを良しとしないのだろう。なるほど……中二病だな。
少女の視線がきつくなる。生暖かい目で見たのもさらに気に食わないようだ。しかし、結局のところ人に頭を下げずに生きていくことなどできないのだ。したくないことでもやらなければいけない。それが大人になるということだ。
「こらこら、どうしてお前はそう……この人は冒険者さんだぞ。お前の魔法も活かせるだろう。年季があければそのまま冒険者になればいい。このままだとどうしようもないんだから……」
柴犬人商人が悲しげに少女に呼びかける、が少女は無視してソッポを向く。年頃の娘とお母さんか。このままだと、というのはまあろくでもない所に売られてしまうということだろう。
まな板ロリっ子とはいえこんなかわいい女の子に中二病で人生棒に振らせるのも惜しい。俺からもなんか言ってやるべきだろう。
「お、川上じゃないか」
「あん?」
ちょうどその時横の方から声が掛かる。そこには異世界に来る前より20%程度増量した筋肉をこれでもかと誇示する半裸の鎌田がいた。……ゲロ吐きそう。
「お前こんなとこで何やってんだよ」
うんざりしつつ話しかける。
「いや、話せば長くなるんだがな……」
「じゃあいいよ」
「いや、ここの南の方の街で用心棒みたいなことをやっていたんだが」
話すのかよ。仕方ないのでとりあえず黙って聞く。
「仕事仲間と飲み比べをしてな、金も賭けてた気がするが……気づいたら一文無しでパンツいっちょで知らない街の路地裏に転がっていたんだ」
いやあまいったなハッハッハ。爽やかに笑う鎌田に殺意がわくがどうしようもないのでストレスだけが募る。マジで何やってるんだこいつは。
「食事を取れないのはしんどいからどうしたものかと思っていたんだが、金がないなら自分を売ればいいじゃないとそこのもふもふ君にスカウトされてなあ」
「あ、私ではないですよ。たぶんあっちのあいつです」
「おや、すまないな。ちょっと君らは見分けがつかなくって」
「私は右耳のここんところの毛がちょっと濃い茶色で、あいつは左耳の付け根のあたりにハゲがありますよ!」
「なるほど、わからん!」
ワハハ、きゃんきゃんきゃんと笑う彼らに俺はもうどうしていいか分からない。思わずロリっ子の方を見たが蔑んだような目で見返された。あれの同類と思われるのは非常に心外なんだが……。
「そうだ川上、せっかくだから俺を買ってくれないか。肉体労働は望むところだが、この世界のことも色々調べるべきだろう。人手がいるんじゃないか?」
半裸マッチョがにやりと笑う。まあ、そうだな。思った以上にのほほんとしたところだし、技術的にも魔法やら何やらのおかげなのか現代と遜色ない様子。
なのでのんびり遊んでもいいんだが、ここの正体が不明な以上は一応探る必要があるだろう。突然来たのだから突然戻される可能性もある。高校中退で職歴の空白がどっさりなんてことになったら絶望しかない。
「そうだな……こいついくらなんだ?」
「大体このくらいになります」
柴犬商人がそろばんっぽいものを弾く。読み方がわからなかったが上の方にデジタルでカウンターがついていた。電卓でいいじゃないかと思いつつ数字を数える。
「何かの間違いじゃないか?」
「いえ、健康で力もありますし、計算や書類仕事までできるスゴイ方なのでこのくらいは……」
今まで見てきた奴隷の中でもトップクラスのお値段がついていた。これだけの金があればさっきのうさみみおっぱいさん二、三人くらい買えるぞ。
「どうした、友よ。変な顔して。いや、変なのは元からだったか」
ワハハと笑う半裸。こいつが高く評価される項目があるとかまじで予想外過ぎる。驚天動地どころの騒ぎではない。どうしたものかと思っていると、左耳の付け根辺りがはげているという別の柴犬商人が恰幅のいいブルドッグのような顔の身なりの良い商人を連れてやってきた。
ブルドッグのようなと言うか、髪に半ば埋もれて分かりづらいが垂れた犬耳が付いているのでこのおっさんもケモミミなのか一応……。
げんなりしているとケモミミ商人と柴犬商人の間で話がついたらしく、大きな革袋が渡される。何かの手続きを経た後、鎌田はポーズをとっていたお立ち台から降ろされ……
「っておい! 買われてるんじゃねえよ!」
「ワハハ!スゴイぞ川上。この御仁、俺に立派な家が立つくらいのお値段を付けてくれたそうだ!」
「喜んでんじゃねえよどうすんだ!」
「価値ある男過ぎてすまんな! まあそのうちまた会うこともあるだろう。それまでは別行動ということだ。それじゃあな!」
鎌田とケモミミ商人は肩を組みつつワハハワハハと笑いながら去っていった。もうなんかもう何もかもがどうでも良くなった俺は、どこか遠い所に連れられていった半裸マッチョの友人紛いのことは忘れることにした。
メインヒロインが半裸のマッチョに出番を奪われる謎展開。マッチョはもうしばらく出てきません。