23話 最終決戦
「よぉ、待ってたぜ」
「お前死ぬほどそのカッコ似合わねえな」
「うっせ」
玉座に偉そうな服を来て座っていた宮原が立ち上がり、こちらに向かって歩いてきた。かなり広い玉座の間、真ん中辺りで、距離をおいて対峙する。
「鎌田のやつに丸め込まれちまったか。まあ、そうなりそうな気はしてたけどよ」
「丸め込まれたんじゃねーよ。お前がムカついたからぶちのめしに来たんだ。まあ、いろいろと言いたいことはあったんだが、さっきのでぶっ飛んだ。もうお前に構ってる暇はねえ。さっさと道を開けてもらうぜ」
微妙な顔で宣言する。宮原も、頑張って作っていたらしいキメ顔が崩れて微妙な顔になる。
「いや、何があったんだよ。ユウナちゃんがお前を止めるっつって出てったけどさあ」
「俺年頃の女の子が何考えてんだかさっぱりわかんねえわ……」
「娘持ったダメな父親みたいなセリフだな……。俺もユウナちゃんが何考えてんのかとか全然わかんねえけど」
「ユウナだけじゃねえんだよなあ。あとお前の妹もちょっと怖い」
「今頃気づいたか」
このまま妹愚痴大会に突入しそうな空気だったが、流石にそういうわけにも行かないので仕切りなおす。
「よし、まあいい。ダベんのは帰ってからにするぞ」
「……本気かよ。別にいいじゃねえか、このままでも」
「ド腐れ真性マザコン野郎がいい思いしてんのが気に食わん」
「ま、まままマザコンじゃねえし! 義理だよ!?」
盛大にうろたえる宮原。継母と言っても小学生の頃に再婚したらしいし立派なマザコンだろうが。
「ていうか仮に俺がマザコンだったとして、お前も畜生シスコンロリコン野郎じゃねえか!」
「シスコンでもロリコンでもねえよ!」
「嘘をつけ!お前のコレクションそういうのばっかじゃねえか!」
「うるせえ死ね!」
最悪な感じで戦闘開始となる。叫びとともに一息で距離を詰め、剣の平で宮原の頭をぶん殴る。一撃で昏倒させるつもりではなったそれは、妙な手応えとともに弾かれた。バックステップで一旦距離を取る。
「あん?」
宮原が両手を広げてニヤつく。すげえ腹立つ。
「俺専用の防御装備だ。ありとあらゆる魔法を無効化し、物理攻撃もほとんど通さねえ。無敵状態ってわけだ」
奴の首にぶら下がってる大きなペンダントがそれなのだろうか。それっぽい感じの光を放っている。というかなんか聞いたことがあるような効果だな。ポケットに手を突っ込むと指先が丸くなめらかな感触に触れる。いや、それは流石にマズいような……。
「まあ、適当にお前が飽きるまで付き合ってやるよ。飽きたらユウナちゃんつれて帰れ。で、まあしっぽりやっとけよ。俺もミーナとイイコトするから。鎌田も騎士団に捕まえさせて、しばらくは臭い飯食ってもらうことになるだろうが、ほとぼりが冷めたら出してやる。こっちでまた3人で楽しくやろうぜ」
勝ちを確信したような調子でペラペラとニヤけ面で宮原は語る。おまけにミーナさん、例の金髪巨乳義母とどうのこうのという所でいつものようにだらしなく顔を歪めた。
最高にムカついたので思わずもらった爆弾をぶん投げていた。顔面に直撃、すると思われた直前で不可視の障壁に止められる。しかし次の瞬間、驚いてアホみたいな顔した宮原が光に包まれた。視界が白一色で覆われる。ヤベえ死んだかも。
と思ったが、黒焦げになった宮原が煙の中から現れた。球形に床が抉られ爆心地みたいになってるその真ん中で、ぼんやりと突っ立っていた宮原はけほっと煙を吐いた。
ギャグ漫画のようなこの光景は対人向けの調整とやらの成果なのだろうか。例のペンダントはひび割れ、弱々しく明滅している。
「……何がどうなって???」
奴の天敵が妹だというのはマジだったらしいと、いまさらながらに理解する。ニカッと笑ってVサインをこちらに向けるアリスを幻視した。
「残念だったな。お前はファンタジーな世界なのに科学の力っぽいので死ぬんだ」
呆然とする宮原に向かってゆっくりと距離を詰める。殴り倒してふん縛って終いだ。
「嘘だろ……いや、まだだ! 召喚!」
宮原が叫ぶと、虚空から人型のロボのような、ドラゴンのような、無機的だが有機的でもある不思議な生物が2体現れた。
「へへ、レベル30の召喚獣が2体だ。お前確かレベル20いくらかだったろ。流石に勝ち目はねえよなあ。一人できたのが運の尽きだったな! いけっ!」
宮原の号令に従い正面から突撃してきたドラゴンゴーレムの一体目、こちらに伸ばされた腕を切り落とし、返す一閃で首を落す。
回り込もうとしていたもう一体の胴体の装甲の隙間を縫って剣を通し、真っ二つに切り飛ばす。レベルアップと強化された補助魔法の恩恵だろうか、驚くほど簡単に決まった。
二体のゴーレムが光に還りきるのを待たず、再び距離を詰め、ペンダントに一撃。少し抵抗があったが、ぶち抜いた。ペンダントは完全に砕け散る。
「お前マジでどうなってんだ!? 意味分かんねえぞ!」
「そうだな、言うなれば……お兄ちゃんパワーだ」
鎌田の情報ぶっこ抜きもでかいが、妹分二人の力がなければ普通に俺がボコボコにされて終わりだっただろう。
「やっぱりシスコンじゃねえか!」
「そうかもな! オラァ!」
「へぶぁ!?」
剣を投げ捨て、宮原にアッパーを決める。若干ヤバイ感じにぶっ飛んで倒れた奴は泡を吹いて気絶していた。死んでないので良し。
ユウナとアリスに対する感情は兄的なもので間違いない。しかしフィリにはなんだかうろたえさせられることも多い。だが、俺はロリコンではない、ないのだ。フィリに対する感情も兄的なアレだということにしておく。ロリコンよりはシスコンのほうがいくらかマシだ。変わんねえだろって、知らねえよ。




