20話 奴の嫁さんとやら、若返った奴の義理のお袋さんだぜ、例の金髪巨乳の
マジ顔のまま王都襲撃を計画について滔々と語る鎌田。
王都に詰めている近衛騎士団は革命軍が進撃により釣りだし、方面軍はテロで撹乱する。総動員しないと防げないと判断させる程度の規模の軍勢は揃えてある。兵卒一人ひとりに声をかけたり、指揮官級の人材とは寝食をともにしたりすることにより、宮原の洗脳じみた力への対策もしてあるという。さらに騎士団の一部に寝返り工作までしてあるとか。
「王都は空になる。その隙を突いてお前が鉄砲玉として宮原をぶち殺してくれ。本来なら王都まで攻め込んで草の根分けても探しだして吊るし上げるつもりだったんだが……今のお前がいるなら、不確定要素の大きい軍を使うよりソロで突っ込ませたほうが成功する可能性は高いだろう」
なに言ってんだおい。笑顔無しでヤバイ話をするこいつはどうみてもその手の職業の人にしか見えない。叩きのめして正気に戻すべきなのだろうか。
「川上、言っておくが俺は本気だ。……そろそろ来るか」
タイミングを図ったかのように委員長が部屋に入ってくる。そういえば委員長について聞いていなかったな。
「お前と別れてこっちに来てから見つけてな、色々と、俺の右腕として働いてくれた。そんでまあ色々あってよ。ナニをしたら記憶が戻ってなあ」
鎌田の横に立ち、恥ずかしそうに笑う委員長。なに……ナニ!!?!?
「てめえッ!!! 俺たち三人童貞卒業する日は一緒だと誓っただろうが!?」
「そんなキモい桃園の誓いはしてないだろうに」
ワハハ、と小さく笑う。
「お前が来る前に宮原から手紙をもらったよ。この世界の素晴らしさについて、長々と書いてくれた。確かに素晴らしいだろう。奴にとってはな。なにせなんでも思い通りになる世界だ。だが、俺達にとって素晴らしい世界ではない。俺達はほぼ完全に、俺達に関わった人間はその度合いに応じてある程度、奴の改変能力に逆らえるようだが、それにしたってやつが神様やってる世界で暮らすようなものだ。耐え難い屈辱、俺はそこまでは言わないが不愉快ではある。おまえにとってはそうだろう? 奴の嫁さんとやら、若返ってたが奴の義理のおふくろさんだぜ。例の金髪巨乳の」
「は?」
俺は激怒した。
「童貞はもうお前だけだな、たぶん」
宮原の野郎はろくでなしだがぶっ殺すほどでは……なんだかんだダチだし、などと甘いことを思っていた数瞬前の俺は死んでいた。ただ静かな怒りだけがあった。なるほど、これが殺意か。
「私は、なんかこっちじゃエルフとかに生まれててさ、鎌田くんとは寿命がぜんぜん違うんだ。いつか必ずおいてかれるなんて、やだからさ。元の世界に帰りたいんだ」
委員長は長い耳をいじりながら言った。
「楽しい夢を見る時間はもう終わりにさせてやろう。もうそろそろ十分楽しんだだろう、宮原も、川上、お前も。俺も楽しんだ、これほどでかいことができる機会はあっちじゃなかなか無いだろうからな。この後、楽しくひと暴れして終いだ。それでいい。お前はどうだ」
「とにもかくにも宮原の顔面を吹き飛ばしたい。ついでにお前も」
勘弁してくれ、と太い両手を上げるが横でもじもじしている委員長を見るに脳内俺議会に許される要素はかけらもなかった。
「こっちで人間が死ぬのを見たことあるか」
「ねえけど」
「光になって消える。モンスターと同じだな」
そういえば前に倒した山賊が光になっていた。モンスターとしてのくくりの山賊なのかと思っていたが、そういうわけでもなかったのかもしれない。
「他にも色々試したが……人も、物も、何もかも作り物だ。いや、現実のモノを作り変えてできているんだろう。この世界そのものが、あの本によってな。だから宮原から本を奪えば終わらせられるはずだ」
まさしく夢の世界というわけだったのか。確かになんか色々とおかしい所あったなあ。遺跡の壁画や古代文字に書かれていたこともその辺りに収束するのだろうか。そう言われればそんな気もする。
「……まあ、根気よく付き合えばナニをせんでも向こうの記憶はたぶん取り戻せるだろうから、お前が宮原から妹ちゃんをぶんどって、あのケモミミの嬢ちゃんや、宮原の妹ちゃんと、この宮原の夢のなかで楽しく幸せに暮らしたいというなら、それでも構わん。俺の計画も、半端だがここらで終わりにしよう。ここまででも戦略ゲーみたいで楽しかったしな」
そういえばこいつ戦略とか経営シミュレーションみたいなゲームやたら好きだったなあ。
「だが、白坂のこともあるが、ここで生きるってのは宮原が当てた宝くじの利子で生活全部の面倒を見られるようなもんだと思う。一方的に施されるようなものは対等な友人関係ではないだろう。道を踏み外すのを見過ごすのもそうだ。この世界では俺達以外はすべて宮原の思い通りだ。奴が甘ったるい幻想のぬるま湯につかって腐り切る前に現実の苦味を再教育してやらんとな?」
鎌田はニヤリと笑った。
「一晩待つ。この街で一番いい宿をとってある。温泉付きだ。まあゆっくり考えてくれ」
「……おう」
鎌田と委員長は立ち去った。やたらと歩くときの距離が近い。……おのれ。いや、それはひとまず置いておこう。なんというか一気に色々情報をつめ込まれすぎた感がある。鎌田の奴め、RTAか何かのように、回答に向かってダッシュしていたらしい。俺ものんびり過ごしていたわけではないはずなのだが。
部下の人に案内されて向かった先は純和風の温泉旅館だった。今日は俺達で貸し切りらしい。フィリたちはすでに部屋に通されてくつろいでいた。俺もそれに習って畳の上でごろごろすることにする。
ダラダラゴロゴロしていると気づいたら寝ていた。妙に息苦しいなと思って起きたらロリ二人に腹を枕にされていた。そういえば優奈も俺を枕にするのが好きだったな、と思い出す。どうしているだろうか。この世界の知り合いは、元の世界の記憶の上から、この世界で生まれた記憶を上書きされて蓋をされているようなものらしい。
アリスとフィリに元の世界の記憶について尋ねたが、意味深にはぐらかされるだけだった。俺が一切やましいことをしていない以上、記憶が戻っているわけではないのだろうが。アリスも随分俺たちに慣れてきたのか、フィリと一緒にからかってくることがあるからよく分からない。
既に外は薄暗くなっていた。無慈悲なローリングで上にのっかってた奴らの頭を畳に落とし、てこてこ廊下を歩いていた柴犬従業員さんに夕飯を頼む。お膳に乗ってやってきた夕食はやたらとうまかったが、和風なのは容器だけで中身は国籍不明過ぎる内容だった。こういうのもまあ、楽しいは楽しい。
「よし、じゃあ風呂に行くか」
「そういえばこんなメモありましたけど、どうします?」
フィリに小さな紙片を渡される。それには本日は混浴露天風呂限定、ゆっくり楽しんでくれ、と鎌田のものらしいヘタクソな文字で書かれていた。柴犬さんに訪ねてみるとオーナーの命令とかで今日はマジでそれしか風呂が使えないらしい。無駄に金に物を言わせやがって。
「よし、じゃあとりあえず俺が入るから、出たら交代でいいか」
「一緒にはいろうとか言い出さないんですか?」
「馬鹿言うな」
敗北感に打ちひしがれている今の俺は全くそんな気分にはなれなかった。
「普段馬鹿言ってる自覚はあったんですね……」
タオルなんかを持って露天風呂に行く。今日のために掛け替えたらしい思いっきりデカデカ混浴と書かれたのれんを微妙な気分でくぐり、脱衣婆で服を脱いで外に出る。
街の方にはポツポツと小さな明かりが灯り、満天の星空が湯船に映って揺らめいていた。体を洗ってから湯船に浸かる。星の海に潜るようだった。縁にもたれて夜空を見上げる。人口の明かりが少ないせいだろうか、驚くほどに明るく輝く星々が頭上を覆っていた。
「すげえな……」
ここは良いところなのだ。この世界にきて、なんだかんだでとても楽しかった。冒険者としての生活も高校行って帰りにだべって帰宅するルーチンワークのような生活よりよほど充実している。優奈のことはどうにかなるのかもしれないし、委員長のことも、別離なんてどこでもありふれたことだ。フィリもアリスもいつのまにやらよく懐いてて、じゃれあうのは楽しい。鎌田の誘いに乗る必要はない。
もし元の世界に戻ったとして、別人というわけではないのだ。こっちでの記憶が残るのかどうかは分からないが、アリスにはまたいくらでも会えるだろう。だが、フィリは元の世界で知らない相手だ。もう二度と会えないかもしれない。
もちろん俺はロリコンではないので女としてどうこうというのは全く無い。だが妹的存在として随分気に入ってしまっている。俺には優奈がいるが、可愛い妹は何人いてもいいものだ。それを捨てるのことは俺の魂が拒絶する。
だがそれはそれとして調子に乗って神様ごっこだか王様ごっこだかを楽しんでいる宮原のやつはぶん殴ってやらないと気がすまない。調子に乗ったあの野郎を凹ませてやるのは俺の使命と言ってもいい。おまけにクソみたいなマザコン願望を実現しているというではないか。
「絶対に許さん」
「何がですか」
「は?」
「わ、すごいすごい! 星がきれーだね!」
バスタオルを体に巻いて大事な所は隠しているものの、ロリっ子二人が混浴貸し切り温泉に突入してきていた。




