17話 アイアムキング!・筋肉レボリューションだ!・いい加減にしろお前ら
「えっと、すまんな。聞いた通り妹と同じ見た目なもんだから」
「……いえ」
無表情でそう言う優奈(仮)。まあユウナとしておこう。言われてみれば確かに、優奈はこんな無表情をすることはない。昔から表情豊かな子だった。最近は俺の前ではむっつりした顔をしていることが多かったがそれもこういう表情とは違う。
「で、宮原テメエよく俺の前に面見せられたじゃねえかおい。さっさと元の世界に帰せ、戻せ」
すわった目で宮原の胸ぐらを両手でがっしりつかんでぐらぐら揺らしつつ恫喝する。ユウナの姿を見たことで俺のホームシックは抑えが効かないレベルまで悪化している。
「やめっ、やめろ! リバースする!」
「しろ! 帰る方法吐け!」
「マジで吐くから離せ! ユウナちゃん助けて!」
青い顔で残像が残るほど前後に激しく揺さぶられる宮原。助けを求められたユウナは軽く一瞥すると眉一つ動かさず少し下がり、顔を伏せた。
「ご友人との戯れを邪魔するなど、侍女の領分ではありません」
あ、なんかすごい賢そう。クールだし、ほんとに別人だわ。うちの子はなんだかんだでもっと脳天気な感じのアホの子である。
「護衛でもあるでしょ!」
護衛なのかよ。そういえばさっきごっつい剣持ってたな。今は影も形もないが。一体どうなっているのか。それはともかく、本格的に顔面蒼白になってきた宮原を揺さぶっていた勢いのまま投げ捨てる。マジでゲロ吐かれたらたまらんからな。
「うぅ……お前さ、ほんと、マジで俺の扱い悪すぎね?」
「お前が妙なもん持ってきたせいでこんな訳の分からんことになってるんじゃねえか。ネタは上がってんだぞ。あの本どこやった。さっさと出せ。なんかの手がかりになるはずだ」
別にネタは上がっていないが、やっぱりあの本が怪しいのでとりあえず取り上げておこうと思い適当にまくし立てる。
「知らねえよ。俺のせいって言われても、なんも分からん」
「マジかよ」
「マジだよ」
「ぺっ、役立たずめ」
「お前ほんとさあ……」
宮原の扱いなんてこんなもんで十分である。今回にかぎらず、こいつには厄介ごとや面倒事を持ってきては俺か鎌田に押し付ける疫病神じみた悪癖があるのだ。鎌田はなんだかんだ楽しんでいるフシがあるが俺は割合うんざりしている。
「まあ、いいじゃねえか。異世界にゃガッコもテストもねえ。可愛い子侍らせて楽しく冒険者なんかやってんだろ。帰る必要なんてあんのか?」
「ぶっ殺すぞ。パーティーメンバー全員ロリだからどうしようもないし、優奈に二度と会えんとか死ぬ」
付いてきていたが、空気を読んだのか人見知りなのかずっと黙って後ろにいたフィリがゲシゲシ踵を蹴ってきた。痛くない程度に加減されてひたすら連打される。気が済んだのか蹴りをやめると、なぜかフィリはユウナを睨んだ。ユウナは一瞬無表情を崩してにやりと笑ったように見えた。あとなんとなく頬が赤い気もする。なんだろうか、同名の妹への熱い思いを叫ばれたせいだろうか。ちょっと恥ずかしい。
「いやさあ、実は俺今王様やっててさ」
「は?」
何言ってんだこいつ。
「いや、気づいたらこの国の王様でさあ。お前も気づいたら冒険者だったろ?」
「そうだけどなんで知ってんだよ」
「いや、人やって調べたから。国の諜報部の人に頼んでさ」
「マジで王様なの?」
「おう」
テンプルに一撃。ダメージよりも痛みと衝撃を重視したパンチを放つ。派手な音がして宮原は大げさに痛がる。
「いてえ!何すんだよ!?」
「いや寝言言ってるから……」
「いや、信じろよ……あとユウナちゃん守って、お願い」
情けない顔で懇願する宮原からユウナはふいと顔を逸らした。
「やっぱウソじゃねえか。メイドに見捨てられる王様(笑)なんぞいるか。ていうか人の妹っぽい子にメイド服着せて喜んでんじゃねえよ変態野郎ぶっ殺すぞ」
「いやホントなんだって! ユウナちゃんはなんか知らないけどやたらセメントだけど! あとお前だって人の妹に魔法少女みたいな服着せて喜んでんじゃねえか。しかも同じ屋根の下で!」
俺はロリコンじゃないと一体何度言わせれば気が済むのか。
「いや、あの子は初対面から魔法少女みたいな格好してたよ。あとなんか趣味がヤバめなんだけどお前んち大丈夫?」
「この世界だと血つながってないっぽいし知らねえよ。お前と一緒にいるの報告されて初めて存在知ったし。あとそれ言ったら俺だってメイド服着せてんのは趣味じゃねえよ。なんか護衛のメイド騎士の家系だとかでさあ。初対面からメイド服だったぞ」
メイド騎士とは一体。
「納得はした。気に食わんけど、まあいい。それにしてもなんか話が進まねえなあ」
「誰のせいだよ……とにかく、俺王様。今日は学都の視察、お仕事で来てんだよ。今はお忍びで抜けだしてる。お前に会うためにな」
「なんか用でもあるのかよ。おまえがなにも知らないってんなら時間の無駄だし俺もう帰りたいんだけど」
「久々にあったダチに酷すぎねえか。……鎌田のことだ」
半裸マッチョの姿を思い出し気分が悪くなった。今頃は愉快な奴隷生活を送っているはずだが。フィリの例を見れば奴隷って言ってもそうひどい扱いをされることはないようだし、多分元気でやっていると思うが。
「あの見せ筋野郎がどうしたんだよ」
「お前ホント煽るの好きね。寛容さMAXのあいつを軽くブチギレさせられるのはお前だけだと思うわ。まあ筋肉はどうでもいい。とにかく鎌田がな、革命軍? とやらを組織したらしくてさ」
「は?」
革命? レボリューション? マッチョ野郎が筋肉レボリューションだ! などと笑いながらポーズをとっている姿を幻視した。オエッ。
「鎌田がどういうつもりなのかは知らねえけど、その革命軍とやらは国家転覆とか、国王の首を取るとか言ってるらしい。これも鎌田探してもらってた諜報部の人がその線から偶然拾ってきた情報なんだけどさ」
「マジかよ。あいつは初手奴隷落ちしてどっかのプランテーションで楽しい綿花栽培でもしてるはずなんだが」
「マジだよ。なにがあったのかはさっぱり分からんけどあっという間にのし上がったらしい。あいつらしいっちゃらしいけど、場合によっちゃダチと殺し合いなんて笑えん話になる。俺が行くわけにもいかねえからさ、なんとか説得か、少なくとも鎌田の奴がなに考えてんのか、探ってきてくれねえか」
何がなんだか全く分からん。お前らいい加減にしろ。しかしマジの話であれば鎌田に話を聞かないわけにはいかないだろう。
「仕方ねえな。鎌田のやつはどこにいるんだ」
「お、行ってくれるか。マジ助かるぜ。詳しい情報は冒険者カードに送る……これでよし」
宮原はスマホっぽい、デザインはあまり変わらないが妙に高級感溢れるカードを取り出すと、俺の冒険者カードにデータを転送したようだった。後で見ておこう。
「今さ、すげえ楽しいんだ。王様の仕事は大変だけどやりがいあるし」
元の世界では見たことのないような顔だった。こいつは、親兄妹がやたら優秀なもんだからコンプレックス抱えまくってひねくれてしまったところがある。だから俺や鎌田と遊んでいない時はいつもすねたような、つまらなそうな顔をしていた。今が充実しているというのは本当なのだろう。
「あと嫁さん美人だしな、夜もすげえし」
「は?」
いい顔が一瞬でフヌケたニヤけ面に変わる。なにを思い出したのかワキワキと手を動かす。ユウナはちらりと宮原を見ると、道端に汚物が落ちていたのを発見してしまったような顔をした。
「いやぁ、へへっ。とにかく、俺は帰る気なんてさらさらねえ。お前も後ろばっかりじゃなくて前も見たらどうだ。そっちのケモミミの嬢ちゃんとかよ」
言われてそっとフィリを見る。なんとも言えない微妙な表情をしていた。悲しむような、期待するような。なるほど、後ろをみるか、前を見るか。宮原の言うことも一理あるのといえばある。楽しいこの世界で一生暮らす。昔のことは忘れよう。……そんなことが俺にできるのか?
ニヤニヤとこちらを眺めるマヌケ面が果てしなくムカついたので腹パン叩き込んでから帰宅することにした。ユウナは軽い会釈をしてから軽々と悶絶している宮原を荷物のように担ぎ上げると壁を蹴って飛び上がり、屋根の上を走っていく。しっかりとガーターベルトを装着しているあたりポイント高いと思った。そして
「……黒か」
「何見てるんですか!」
沈んだ表情をしていたフィリは、少し笑うと俺の背中をバシンと叩いた。




