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16話 学園編もクビだクビだクビだ!

街から学都まで馬車を借りて移動する。学都とは、王国最大の教育機関であるアカデミーがある都市で、大陸西部の中心都市だ。開拓地から様々な珍しい産物が集まり、それを目当てに人が集まり、学生たちが新たな文化を発信する。非常に賑やかな所だという。


そんな学都に向かって馬車、賢いしゃべる馬が目的地まで勝手に走ってくれるというやつだったので実は馬車じゃないかもしれないが、まあそんな馬車っぽい何かに乗り、数日の間、ガタゴトと街道を揺られていた。


ステータス向上の恩恵なのか案外疲れはなかった。道中はアリスが鞄の中から次から次へ大量に取り出したカードゲームやボードゲームをひたすらやっていた。


チェスっぽいゲームなんかだとフィリはへなちょこで、意外に、というか理系大学院相当の学校の生徒だというのだから当然かも知れないがアリスが強かった。


俺は勉強はできないが一時期詰将棋なんかにはまっていたので、そのせいかそれなりの腕である。ルールに慣熟するとアリスと五分くらい。


運の絡むボードゲームなんかでは何故かひたすら俺がビリを突っ走ることになったが。そういえばステータスに幸運の数値があったなと、比べてみたところぶっちぎりで最下位だった。


ドヤ顔のフィリをわしり、その度にコンパクトな肘打ち、脛蹴りなどで逆襲され、アリスがあわあわいいながら止めるループを何度繰り返したかわからなくなった頃、ようやく学都に到着する。




元いた街と比べると格段に巨大で人通りも多かった。全体的にはヨーロッパ風、なのだろうか。よく分からないがレンガ敷きの道に立ち並ぶ洋風の家々。


道行く人々は相変わらず国籍不明で種族も様々、突っ込みどころ満載だが、若い人間が多いように見える。10代前半から20代前半くらい、もっと制服らしい揃いの服を着た少年少女たちもいる。まあ普通に年齢どころか性別すら不明の動物頭系とか無機物系、ロボっぽいのとか宇宙人みたいなのとかもいっぱいいるのだが。


「それじゃあ私はアカデミーに戻るね。しばらくは工房に篭るから私は見られないんだけど、今はちょうど学園祭の時期だからいろいろ見て回るといいよ!」


そう言うとアリスは手を振って立ち去った。街外れのにある工房に向かうらしい。まあ普段から爆弾をボンボンやっているらしいからその立地も当然といえば当然か。


「では、しばらくこの辺りをうろついてみましょうか」

「よし、デートだな」

「そうですね」


あたふたするところが見たかったのだが、そっと手を握られ、上目遣いに見つめられる。なにこれ恥ずかしい。そんな俺を見て吹き出すフィリ。


「なんだかんだ言って、あなたも相当に初心ですよね。ドーテーなんですか?」

「ぶっ殺す」

「あははははは!」


パッと勢い良く手が離された。フィリは赤くなった頬を隠すように身を翻してアイアンクローをしようとした手を素早く回避し、人混みの中をスイスイ進んでいく。


背は小さいが、日差しを受けて煌く銀色の髪と耳が目立っていたので補足には苦労しなかった。しばらく先に進んだ所にあった焼串の屋台を物欲しそうに見つめている所を背後から捕獲する。


「欲しいのか?」


両肩を押さえる俺を見上げて、コクリと頷く。財布は基本的に俺が握っているのだ。たまに勝手に持ちだされることもあるけど。


「謝るので買ってください」

「じゃあこの街にいる間はずっと俺のことはお兄ちゃんだ」

「ぐっ」


にやにやしながら苦渋の表情を浮かべるフィリを眺める。恥ずかしがりながらも俺を子供扱いする方向でならからかえる、というのが今のフィリだが、逆に子供扱いされるのは少し抵抗があるようだ。相手の弱点を攻めていくのは戦闘の王道である。


「……お、お兄ちゃん」

「なにかな?」


今最高にニヤついていると思う。羞恥と怒りに染まるフィリの顔は実に良い。


「これ買ってください」

「お安い御用だとも」


この後も物を買う度に、極力俺のことを呼ばないようにするフィリに、ん?誰に言っているんだ?それじゃ分からないなあなどと言って無理やり兄と言わせるのは非常に楽しかった。食べ物やらお菓子やら、主に肉系を中心に大量に買うことになったが必要経費である。


食べ物系以外にも、魔法を使ったエフェクトが凄まじい劇や、謎の楽器が大量に使われた演奏会、冒険者カードに使われてるのと同じ技術っぽい魔法による映像を大画面に写した映画みたいなの、謎のスポーツ大会っぽいもの、召喚獣レース、魔法の競技会、天下一武道会っぽいの、地方出身の学生による物産展、謎の料理の大食い大会、企業ブースなどなど、色々と見て回る。お俺の中で死にかけていたファンタジーが生き生きしていて楽しかった。




そんなこんなで学都の学園祭を見物しながら過ごすこと数日。フィリがアリスから聞いている話によれば例の物とやらがぼちぼち出来上がるらしい。学園祭自体はもうしばらく続くようだが、そろそろここを立ち去ることになるだろう。


なんとなく寂寥感を感じつつ、取った宿への帰り道を歩いていると、人混みの中にその姿が見えた。腰まで伸びたつややかな黒髪を2つにくくった後ろ姿、何故かメイド服を着ているが、ちらりと見えた横顔は確かに……


「優奈っ!」


迷わずに駆ける。メイド服姿の俺の妹、川上優奈はちらりとこちらを一瞥すると、細い路地に消えた。


「いきなりどうしたんです!?」


いきなり全力ダッシュし初めた俺の後ろに追いついたフィリが叫ぶ。


「妹! 今俺の妹が今いた!」

「ええっ!?」


追いかけると、次々と曲がり角を曲がりながらちらりちらりと姿を見せる優奈。これは間違いなく誘い込まれている。なんのつもりか知らないが、とにかく全力で走る。


いくつもの角を曲がり、もはや帰り道もわからなくなったころ、ようやく袋小路にたどり着いた。そこにはフードで顔を隠した怪しい男がおり、その斜め後ろに優奈は立つ。


俺が近づいてきたことに気づくと、男はバサリとフードを跳ね上げ、顔を晒した。


「よぉ、川上。久しぶりだn」

「オラァ!」

「へぶぁっっっ!?」


ダッシュの勢いを殺さず、しかし死なない程度に加減して野郎のニヤケ面を殴り飛ばす。似合わない無表情をしていた優奈が、驚いたように目を見開いた。




背後においてあった空樽や木箱の山に突っ込み、どんがらがっしゃんとすごい音をたてる怪しい男。元の世界での腐れ縁の悪友、この事態の最大の容疑者、宮原であった。


「優奈! 無事だったか! 兄ちゃんすげえ心配したぞ!? なんでよりによってこいつと一緒にいるんだ? 何か変なことされてないか?」


木片に埋もれて呻き声を上げている宮原を完全にシカトして妹に詰め寄るとサッと距離を開けられる。メイド服の裾と長い黒髪が翻る。我が妹ながら可愛い。


背はフィリとアリスの間くらい。胸はまっ平らな平原だが、顔は将来が期待される美人系で自慢の妹である。今は思春期のせいなのか毛嫌いされているが。


「気安く呼ばないで」

「いや、そんなこと言ってる場合じゃないだろ……」


いつもの塩対応だがこれくらいでめげる俺ではない。迷わずさらに近づくと。


「近寄るな」


一体どこから取り出したのか、友奈の身長を超えるサイズの分厚い漆黒の大剣、その切っ先が俺の喉元に突き付けられていた。


「さ、流石にこれはシャレにならんだろ……分かった、お兄ちゃんなんでもいうこと聞いてやるから、許せ」


無言で突き出される黒剣に全面降伏する俺。情けないが仕方ない。反撃するわけにもいかないし。


「ん?今……」

「いや、そいつはお前の妹じゃねえよ」


なんとか立ち上がり体中についたゴミをはたき落としている宮原が言った。なにか優奈が口を開きかけたように見えたが気のせいだろうか。


「そりゃつまり」

「ああ、アリス、お前と一緒にいる俺の妹と一緒だ。見た目と名前が同じだけで本人じゃねえ」

「……そうか」


がっくりと肩を落とす。目の前に優奈がいるだけに落胆は大きかった。

巨大武器装備ロリメイド実妹。

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