15話 いやああの冒険の日々は強敵でしたね
それから数週間ほど、俺達は三人でこの辺りのダンジョンを巡ってレベル上げと調査をしていた。スライムの巣窟になっていた旧下水道地下遺跡をアリスのナパームっぽい爆弾で焼きつくしながら進んだり、長柄のハンマーを買ってきてゴーレムの群れが徘徊している魔術師の塔で無双したり、山賊の住処になっていた洞窟の探索、ゾンビの群れに占拠された学校っぽい古代遺跡の調査、トマトジュースを嗜みゆるキャラみたいなデザインの野菜型モンスターたちを従える吸血鬼の館の攻略……。
山賊は小汚いおっさんにしか見えなかったが普通に光になって消えたり、どうみても普通の学校っぽい建物が、何十年も放置されたようになっていた挙句にゾンビに占拠されてたり、聖別した銀を使った聖なるダイナマイトとか言う胡乱なもので吸血鬼が一発で消し飛んだり色々あったが、元の世界に戻る手がかりはほとんどなかった。
古代文字とか壁画から、女神っぽいのがこの世界を創ったらしいことが分かったようだが、だからなんだ感はある。いかにファンタジーとはいえその辺に女神様とやらがいるわけでもないだろうし。
しかし学校が遺跡としてあるというのはどういうことなのか。ここが未来の世界とかそういうのはないと思うが。まさか学校ごとこの世界に転移したりした人々がいたりするのだろうか。
遺跡調査以外にもアリスとフィリや行商人、流れの冒険者の人なんかに元の世界の手がかりになりそうなことはないか聞いて回ったが、どれも空振りに終わる。どうしたものかな、と思いながら冒険者カードを見ると、いつまにかレベル24になっていた。
爆発に巻き込まれそうになったり、爆発の余波に巻き込まれてふっ飛ばされたり、爆発で吹き飛んできたまだ光になってないゾンビ汁まみれになったり、色々あったが俺は元気です。
……思い出すだけでげんなりしてくきた。このパーティ純粋な前衛は俺だけだ。さらにアリスという後衛が加入したのである程度敵を後ろに通さない立ち回りが求められるようにもなった。
必然的に俺だけ前に出ている状況になるため誤爆が頻発するのだ。まあ直撃はないし、必死で逃げれば避けられるタイミングで投げ込まれることが多いので致命傷にはなっていないが、当然気が休まらない。なんというか、アリスはともかくフィリまで火を見ると興奮する系の性癖を持っているのか、テンションを上げてぽいぽい投げたり投げさせたりするのだ。
気になっていた爆弾のコスト問題だが、爆弾の開発にはとある大商人がパトロンについているとかで、あんまり問題ないらしく、爆弾ぽいぽいは容赦なしで俺は生傷が絶えない。
フィリは急所攻撃により、生身の敵への瞬間火力は高いのだが、壁をやれるような能力ではないので遊撃なのは変わらない。確実に爆撃を回避してはうっとりしながら眺めている。ゴーレムやゾンビなんかの無生物系が相手だと後衛でアリスの護衛と回復・補助に徹しているので無傷だ。
爆撃の戦闘効率は俺がちまちま一体ずつやるよりはるかに上なのは確かなのだが。しかし俺は金属製の装備を整えたので防御力が上がって壁としての役目もきちんとやれるようになったし、瞬間火力はともかく継続火力ではやっぱり俺がトップだ。そしてパーティリーダー、パーティの要である。なんというか、もうちょっと俺を大事に扱って欲しいと思う、わりと切実に。
「一々きちんと治しているじゃないですか」
「そういう問題じゃなくて、俺の扱いが雑すぎるって話だこの野郎」
かなり金が溜まったのと、アリスが錬金術の工房がほしいといったこともあって借りた借家のリビング。対面になった2つのソファに向かい合って腰掛けながら、アイアンクローと握撃で対決する俺たち。アリスがあわあわしながら引き離そうとするが腕力が全く足りていないのでびくともしない。
アリスのレベルが上がっているので初期の頃の俺たちならどうにかできたかもしれないが俺もフィリも同じくレベルが上がっている。ステータスの伸びの違いで既に俺のほうがフィリよりはるかに腕力が強くなっているので適当な所で離す。この流れももうすっかり慣れたものである。
「えっと、ごめんね。体がすごく軽いのと、爆弾でモンスターを倒すの楽しくって、戦ってる最中だと分けわかんなくなっちゃって……」
しゅんとして謝るアリス。
「いや、まあいいんだけどさあ……」
ロリっ子に怪我させるよりは自分が怪我するほうが男子高校生としてはずっとマシだとは思うし。
「いいならそれでいいじゃないですか」
頭を押さえて涙目で唸っていたフィリがこちらを見て言う。
「なんならフィリがいつも頑張っていますねと、膝枕でもして、頭を撫でながらほめてあげましょうか? かまいませんよ、フィリはお姉ちゃんですからね」
ニヤニヤしながらポンポンと膝を叩く銀髪犬耳ロリ。だからロリにそんなことされても嬉しくねえって言ってんだろうが。逆で恥ずかしがらせるなら楽しそうではあるが。
「私も! ユーキがそういうのがしたいならいいよ!」
同じように膝をポンポンするアリス。凄まじく微妙な顔をした俺にアリスは微笑みながら首を傾げ、フィリはそれを見てクスクスと笑っている。こいつも随分慣れたものである。日々新しいネタでいじっているので耐性がつききってはいないが。
「いや、いいよ」
「そう?」
「なんなら俺が膝枕してやってもいいぞ」
ぽんぽん叩きフィリを見る。鼻で笑われた。おのれ。
「ほんと? やった!」
アリスはこちらのベッドに飛び乗ると俺の膝に頭を落としてきた。この子も初期と比べると遠慮がなくなったなあ。最初の頃はちょっと引いているところもあったのだが。趣味トーク以外では。
「硬い!」
そう言ってケラケラ笑う。
「そりゃそうだろ」
「こっちの方がいいですよアリス」
反対側のベッドに戻るとアリスはフィリの膝に頭をのせる。浴衣の裾が乱れ白い太ももが覗いた。ジト目で睨まれるが、俺はロリコンじゃないので問題は一切ない。遠慮無くじろじろ眺める。視線に殺意が乗ってきた気がするのでほどほどにしておく。
「こっちは柔らかいね」
「全然肉なんてついてないように見えるがなあ」
手を伸ばして触れようとしたらバシッと弾き飛ばされた。痛みがない程度なので首輪も働かない。素の防御力が上がった分逆に過激な行動が通るようになっている気がする。ぐるぐる唸るフィリに両手を上げて降参の意を示しておいた。
「あー、そうだ。もう結構前だが、レベル20を超えたらどうのこうのとか言ってなかったか? あれはどうなったんだ」
「……ああ、確かにそろそろ頃合いですね。では明日あたり、まずアカデミーのある学都に行くとしましょうか」
フィリの膝の上のアリスは真上のフィリの顔を見上げ、犬耳を巡る攻防をしつつもきょとんとした顔をしている。アリスの両手を押さえて護身完成したフィリが例の物のことです、と囁くと、アリスは目を輝かせた。
「やった! ずっと待ってたんだよー」
「うまくいくといいんですけどね」
「なんなんだ一体?」
握り合った手をぶんぶん振っているアリスとフィリ。どちらもなんとも上機嫌だ。
「まずは下準備ということです」
「うん。流石にここの簡易工房だとアレは作れないからね。材料も先輩たちに少し融通してもらわなきゃ」
あまり良い予感はしないんだが、そういえば爆弾がどうのという話だったか。夏祭りの花火大会代わりに打ち上げる算段でもついたのだろうか。この世界に花火はまだ存在しないらしいのだが。モノによって現代日本だったりむしろ未来技術だったり普通にファンタジーだったり遅れてたり、この世界の技術は謎の偏りがあるようである。爆弾打ち上げはテロじみているからやめて欲しい所だ。
「アリスがアカデミーに戻っている間、私たちは観光でもしましょうか」
「うん、それがいいね。自分で案内できないのは残念だけど、」
ニッコリ笑うフィリと、ぐっと親指を立てるアリスに、俺はやはり不安しか感じなかった。
中盤戦を巻き巻き巻き展開でかっ飛ばして行くスタイル。
活動報告に書きましたがとりあえず中編一本書き上げてみようというのが本作なのでこの辺が折り返しになります。
俺達の戦いはこれからだスタイルと二択でしたがこっちに




