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10話 廃砦の地下遺跡・求む専門家

1話ちょっと修正しました。

「無事ですか」

「おう。無傷だぜ。殺気を感じたっていうか、横から飛んできた矢防げたからな」

「知覚強化の恩恵です。便利でしょう。過信は禁物ですけどね。まあ、ぼんやりしていて命中してても即死じゃなければ治してあげましたけど」


治るとしても頭に穴が空くのはちょっと想像したくない。


「にしても案外楽勝だったな。上級ゴブリン、職業があって装備固めてるっていっても子供のおもちゃみたいなもんだったし」

「素人が所詮ゴブリンとあなどって突っ込むと囲まれて殺される程度はあるんですけどね」


まあ確かに、バフなし低レベルだと火力不足で倒しきれずに囲まれたり、矢を避けられずに普通に死んでたかもしれない。レベリングはやはり重要だ。何をするにしてもある程度は強くなければ話が始まらない。


さらに砦の中を進んでいく。通路の脇の部屋や横道の先の行き止まりでたむろしているゴブリンや、一応巡回なのだろうか、談笑しながらたらたら歩いているゴブリンたちを次々と片付けていく。


俺は攻撃を避け、あるいは小盾で弾いたりロングソードで弾いたりしながら一体一体着実に仕留め、フィリは壁や天井を利用した3次元機動に暗殺者じみた急所攻撃、体全体を使った格闘でガシガシゴブリンを殲滅していった。砦の中は外観に違わずやたらと広く、瓦礫でふさがっている道も多かったので上がったり下がったりしつつひたすら進んだ。


「行き止まりか?」


ファイターやアーチャー、回復魔法を使うプリーストに火の玉を投げてくるメイジ、槍持ったソルジャーに大盾を構えたガード、奇声を上げながら斧持って飛びかかってくるバーサーカー……その他色々、様々なゴブリンたちがいたが、基本的に気を抜いているし、連携とかもあってないようなものなので結局余り苦戦するようなことはなかった。


アーチャーの群れに襲われて曲がり角の壁に隠れながらひたすら投石して倒すようなこともあったが。苦戦といえば苦戦だがうんざりするだけだったというか。あと手首のスナップだけで投げてたので手首が痛い。


「そのようですね……いえ、地下への階段?」


フィリが指した方、行き止まりになった部屋の隅を見ると瓦礫の影にポッカリと黒い穴が口を開けていた。側に寄って覗き込むと、ハシゴがかかっている。触ってみるが特に腐食していたりしないので普通に使えるだろう。


「よし、降りてみるか」

「即決ですね。ハシゴを降りている途中で襲われたりしたら相当危険ですけど」

「多分大丈夫だろ。それにこういうのの先にはお宝があると相場が決まってるんだ」

「いえ、ゴブリンしかいないようなダンジョンにお宝なんてあるわけ無いと思いますけど……あったとしてもとっくに持ちだされているでしょう」


フィリは呆れたように言う。確かにそうかもしれない。間抜けな感じのゴブリンばっかりだったし、ある程度の腕があれば攻略自体は簡単だろう。でも俺はダンジョンは隅から隅まで歩いてゴミしか入っていなくても宝箱を全部開けるタイプの男。


ソシャゲーにバイト代数万突っ込んで死ぬほど後悔したこともあるが、今ではもしかしたらいいものが当たるかもしれないというわくわくを買ったんだと思っている。今回も、危険だとか時間の無駄だとか、そういうのはもしかしたら何かあるかもしれないというこの期待を得るための対価なのだと……


「何をぼんやりしているんですか。早く行きますよ」

「っておい、行くのかよ」

「行かないとは言っていません」


そう言うとさっさとハシゴを降りて行ってしまう。こいつもこいつでなんだかんだ言いつつ相当無鉄砲というか、考えなしというか。後に続いて降りる。かなり長いハシゴだったようで、ひたすら手足を動かし続ける。数十メートルは降りただろうか。敵などはいないようで、無事に下までついた。


かなり広い地下空間だが、天井の方から光が差し込んでいる。壁面いっぱいに文字と巨大な壁画が書かれていた。早くも記憶が曖昧になりつつある、というか解読に飽きて見始めた実況動画のことばかり覚えているが、たぶんあの本に書かれていた文字と同じだ。


壁画の方も挿絵のタッチに酷似しているように思える。様々な種族が集まって何かしているようだ。祭りか何かだろうか。よく分からない。


この世界とあの本が関係あるのは確かなのだろう。しかしそれが何を意味するのかはサッパリわからないし、文字も読めないからあんまり意味ないのだが。どうしろというのだ。それに文字が書かれていると言ってもかなりの部分が風化し、破損している。


解読作業ができる人間がいても内容を判別するのは難しいのではないか。そんなことを思っていると。あたりをきょろきょろ見渡し、部屋のあちこちを確認していたフィリが戻ってくる。


「残念ながらやはり何もないようです。もっとレベルを上げて、人の手があまり入っていないようなダンジョンに潜るべきでしょうね」

「お前宝探しとか好きなの?」

「……いえ、別に」


そっぽを向いて否定する。子供っぽいとでも思っているのだろうか。まじめに宝探しなんかするいい年こいた大人なんていくらでも、は言い過ぎだが結構いると思うのだが。


「これなんなんだろうな」


壁画を指す。特に興味を示していないようだったが、何か知らないだろうか。


「さあ。古代文字で書かれているみたいですが」

「古代文字?」

「標準語とはぜんぜん違う文字で、こういう遺跡のダンジョンなんかにはたまにあるらしいです。いま大陸で使われてる言葉は全部、方言とか、種族固有の言葉とか多少あるにしても標準語ですから。記録に残っていないほど昔の言葉と言われてるそうです」


そういえば言葉も文字も普通に日本語だし、亜人系も動物系もみんな日本語喋ってたな。標準語が日本語とか言う分かりやすいファンタジー。一応冒険者カードで壁画を撮影して戻ることにする。カメラ機能ついてるんだよなあ、これ。


「ん?」


カンカンカンと、上の方からはしごを降りる音が聞こえる。ゴブリンだろうか。フィリに目配せすると二人で角度的にハシゴから見えづらくなる位置の瓦礫の影に隠れる。ハシゴを降りる音が続く。


「……」


足音が止まった。上を見上げると、遠いうえに影になっているので分かりづらいが、金色の長い髪が揺れていた。人間、サイズ的にたぶんフィリと同じくらいの年頃の少女のようだ。警戒を解き、立ち上がる。遠くの金色の頭が動き、下を見る。少し降りる。止まる。


風が吹き抜け、ひらひらしたスカートが揺れる。白だった。思わずグッと親指を立てた所蔑んだ目をしたフィリに足を踏まれた。ぎりぎり痛くないラインでグリグリと。


「なあ、あれさあ、下見て怖くなって動けなくなってねえ?」


何もなかったことにして話しかける。ちらっとこちらを見るフィリ。スルーされるかと思ったが、これ見よがしにでっかいため息を付いた後応じてくれた。


「そのようですが、なにもできることはありません。ハシゴが塞がれている以上戻ることもできませんし。待つしか無いでしょう」

「まあそうか。一応落下した時にキャッチできるくらいの位置でのんびり待つか」

「ええ、私の補助がかかっているあなたなら余裕でしょう。衝撃緩和の魔法もありますから万が一もありません。」

「つくづく便利系だなお前」

「褒めてるんですかそれ?」


微妙な顔をされる。


「超褒めてるぜ」


足を踏まれたので挑発のため上空のパンツをガン見する。ぐるぐる唸りながら背伸びして俺の頭を押さえつけようとするが、その拍子に足に力を込めすぎたのか攻撃禁止判定が出てすっ転ぶ。即座に起き上がり涙目で飛びかかってくるフィリの頭を逆に押さえつける。ヤベえ超楽しい。


関節技や足払いまで飛び出すやたらと高度な頭の押さえあいを体格差を活かして制した頃、ようやく金髪の少女がはしごを降りきった。透けるように白い肌が青くなっているのは恐怖のためだろうか、地に足をつけたことで安堵の息を吐いていた。


こんなところに来るのに似つかわしくない、全体的にふわふわしたファンシーな、某アトリエシリーズのキャラクターのような格好をした少女だった。


「って、宮原妹じゃねえか」

「えっ」

ヒロインその2登場回。3までいますが当然の権利のように全員ロリです。

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