1話 俺達とたぶんグリモア
1年半振り2回めの初投稿から10日ぶりくらい3回めの初投稿です。
朝起きたらなんか異世界転生というか、転移してた。朝起きたら自宅の自室ではなく酒場の二階の宿屋で寝ていた。流しの鏡を見るに普通の男子高校生な俺であることに変わりはないようだが、全体的にほんのりマッシブになっていて体が軽い。
肌の色も趣味ゲームで引きこもり気味な俺のものと思えないほどよく日に焼けている。試しにちょっとシャドーしてみたら拳がビュンビュン風を切る音がする。殴った相手が格ゲーみたいに吹っ飛びそうだ。
なんでこんな事になったのか。よく分からないけど昨日友人たち2人と一緒に読んだ古本が原因だろうか。近所のブック○フにあったやたらと立派な装丁で謎の外国語で書かれたファンタジー小説か、ファンタジー事典か、ゲームの攻略本みたいな洋書。
漫画好きで立ち読みするためだけにあそこに行っているもんだと思っていた宮原が分厚いその本を持ってきた時はぶったまげたもんである。
「絵柄が気に入って買ったんだけどさ、読めねえから解読してくれよ」
そう言ってアホ面ぶら下げて100円のシールが貼られたそいつを持ってきたのはひょろっとした優男の宮原。まあ俺の腐れ縁の友人であるが、いつものアホだと安心した覚えがある。
うちの高校は、底辺とまでは言わないが上か下かで言えば間違いなく下であり、どいつもこいつもアホばかりである。俺も宮原も当然アホだ。賢くなりたいとは常々思っているものの勉強するよりゲームするほうが楽しいんだから仕方ない。
分厚い本をパラパラとめくる。……サッパリわからない。
「とりあえず翻訳サイトにぶち込んでみるか」
「おう、それでいこう」
PCを立ち上げ、アホ二人で某エキサイトな翻訳サイトとかに翻訳してもらおうと試みた。しかしそもそも字のフォントがなくて打ち込めない。
マイナーな言語のフォントなんかも見てみたが該当する文字はなく、宮原は二分で諦め俺の部屋にあった表紙だけ見ればホラーな漫画を読み始めた。
「おう、川上、宮原。来たぞ」
「よっす。これが例の本だ」
「なるほど、全然分からんな!」
飽きた宮原が助っ人に呼んだ筋トレマニアの鎌田はワハハと笑い、本をパラパラめくる。その後、握力を鍛えるボールをにぎにぎしながら太い指でちまちまスマホをいじりだす。
この暑苦しい見せ筋野郎は成績的には俺や宮原よりいくらかマシなアホで、同じく腐れ縁の友人である。中学以来、高校入ってからも大体、俺、宮原、鎌田、この3人でつるんでいる。不本意ながら。
多少は期待できるかと思ったが、しばらく横で見ていて特に成果もないようなので、俺は飽きてゲームの実況動画を見始めた。機械音声とは思えない、いや、飼い慣らされただけなのかもしれないが、二次元美少女の美声が耳に心地よい。
そのまんまグダグダ数時間が経過。俺は動画シリーズを一本見終わり、宮原は山積みの漫画の横で少年誌の限界微エロ漫画に鼻の下を伸ばし、鎌田はいじり続けて限界が来たのかスマホの充電を始めていた。
「うん。よく分からんな」
「そうか。まあそうだろうな」
「え~、マジかよ」
謎の本の解読を試みた我々、というかほぼ鎌田ソロが出した結論はよく分からん、であった。スマホで撮った画像をネットに上げて聞いてみたりしたらしいのだがそれでも分からなかったらしい。よほどのマイナー言語か作者が適当に作った創作言語ではないかということだ。
「宮原の言うとおり、挿絵は中々味があるし、どうせ100円の安物だ。まあ読めずとも眺めて楽しめばいいんじゃないか」
「役に立たねえなあお前ら」
「ぶっ殺すぞ」
結果的に見れば速攻で諦めた宮原が一番的確な行動をしていたことになるが持ち込んだのがこいつであるだけになんとも釈然としない。いやまあ俺も大半遊んでたけど。
「珍しい作業でなかなか楽しかったぞ。これだけで100円の価値はあるんじゃないか、ワハハ!」
「それでいいのかお前。このアホの宮原シメようぜ」
「川上お前鎌田の大らかさを見習えよ」
若干のリアルファイトの後、結局ファンタジーな挿絵を見ながら雑談しつつその日、というか昨日は解散になった。それ以外に特別なことはなにもなかったから、あの本になんかあったのではないか。いやまあ、全然関係ない可能性もあるし、そうだとしてだからなんだということでもあるが。
宿の部屋に戻って自分のもの? まあたぶんそうだと思われる荷物を漁る。背嚢というのだろうか、布製のリュックっぽいものに携帯食料や寝袋っぽいもの、ロープ、ランタン、マッチ、ナイフなどなど、キャンプに必要な道具が一通り揃っている感じだった。
そして部屋の隅に立てかけられているのはロングソードだろうか。いかにも普通の剣、と言った感じのものである。その横にはそれなりに丈夫そうな皮の鎧に、腕に装着するタイプの小楯。これらに見を包めば駈け出し冒険者でございと言って何も問題ない装備である。
とりあえず全部身につけてみる。適当にやったが案外簡単でピッタリと体にフィットした。剣を振ってみたくなったが流石に室内でそれはどうなんだと思いやめておく。腰につけた鞘に収めた剣の重量感はずっしりと頼もしく、さらにいかにもファンタジーな装備をしたことで俺はかなりテンションが上がっていた。
そのまま勢いに任せて宿を出ることにする。アホの考え休むに似たりとか昔の人も言っているし取りあえず動くのが正解だろう。俺がここにいる以上、宮原や鎌田も探せばいる可能性がある。
宮原のアホは合流しても役に立たないのは間違いないが肉壁くらいにはなるだろうし、鎌田は業腹だが一応俺よりちっとはマシなアホだし、鍛え上げた肉体が見せ筋じゃないことを証明するチャンスだとでも言えばよく働いてくれることだろう。
宿の女将さんによると料金は前払いで既に払ってあるとのこと。財布というか、布袋にコインがそれなりに入っていたから払えと言われてもたぶん大丈夫だっただろうが。ついでに冒険者ギルド的なものはないかと聞くとすぐ近くにあるという。道を聞いて礼を言って宿を後にする。
なんというか、中世ヨーロッパ風というか、マカロニウェスタンというか、お江戸でござるというか、国籍不明のよく分からない町並みが広がっていた。宿のトイレは水洗だったし、道路も石畳で舗装されているのでそこら中にうんこが落ちてて衛生がどうのとかいう心配はないのだろうが釈然としない光景だ。アホがイメージする昔の町並みとタイトルを付けられそうな。
道を行く人々も国籍不明、人種不明、というか獣耳とかリザードマンとかドワーフっぽいのとかエルフっぽいのとか髷を結った侍とかしゃべる動物とかなんかもう意味不明である。直立二足歩行する柴犬みたいなのは昨日の本の挿絵にいたような気がする。わんわんキャンキャン吠えて客寄せをしているのだろうか。
緑色の肌で縦にも横にもどでかいオークっぽいおっさんというかオークのおっさんが立ち止まったかと思うとちっこい柴犬人間から果物を買おうとしている。巨躯を縮めて太い指を立てながら値切っているのだろうか、それを流れるようなセールストークでかわし、オークの要求を退けつつもほんのり値引きして満足させるその手際は熟練の商売人のそれだった。頭がおかしくなりそうだ。
ぼんやりしているとカモだと思われたのか露天商から客引きの声が飛んで来る。とにもかくにもとりあえず移動して、冒険者っぽいことをしよう。それがいいそうしよう。足早に市を抜け、宿の女将さんに教わった場所ヘ向かった。
今回は絶対エタりません!もしエタったら木の下に埋めてもらっても構わないよ!