巣立ちの時
まだまだぁ!
それからさらに年月が流れ、俺は12歳になった。
今日はついに巣立ちの時である。これからやっと名づけの儀で名前をもらい、ドラゴンなら龍族の住処から出されて晴れて一人前のドラゴンとなるのだが、俺の場合は人間の冒険者となるために近くにある王都に魔法で転送されるようであった。ちなみに魔法はどうやらドラゴンだけが使えるものがあるらしく、それも教わった。
朝日が昇り、12歳を迎えた者はこの日、龍族の頂点である神龍帝のもとに集まっていた。
この世界に龍帝は主に9つ。炎龍帝、水龍帝、氷龍帝、木龍帝、雷龍帝、土龍帝、聖龍帝、邪龍帝、そしてそれらの龍帝を束ねる神龍帝がいる。その神龍帝のもとへと炎龍帝とともに俺はとんだ。ちなみに背中に乗せてもらえなかったのは俺が自分で魔法で飛べているから自力で飛べと言われたからである。この日も相変わらずスパルタな父炎龍帝であった。
神龍帝のもとにたどり着いたとき、周りにはほかにもドラゴンの子供がいた。はっきり言って人間が俺一人だけなのは結構寂しい感じがする。
一頭一頭命名されていき、ついに俺の番となった。神龍帝の前に立ち、お辞儀をし、神龍帝は話し始めた。
「今日までよくあのスパルタおやじである炎龍帝のもとで育ったな」
そのスパルタおやじにところで吹き出しそうになったが我慢した。て、あの時俺を育てるように命令していたドラゴンが神龍帝ではないのが若干驚いてはいたが。どうやら炎龍帝の祖父だったらしい。
「人間の身でありながら炎龍帝のもとで育った・・・そのことからお前の名は『フレイ』としよう!」
よかった、まだまともな名前だった。ひとつ前にいたドラゴンなんか邪龍帝の一族だから『ジャキガン』とかかなり厨二病みたいな痛い名前だったからな。そんな厨二病なんてのがこの世界にあるか知らないけどその名前を付けられたやつ明らかに真っ赤になって恥ずかしがっていたな。ドラゴンのセンスでもやっぱり恥ずかしいんだな。
そうして名づけの儀式は終わり(一部ドラゴンは恥ずかしがって悶えていたが)、ついに巣立ちの時が来たのであった。育ててくれた炎龍帝の前に行き、義理とはいえ最後となるかもしれない親子での会話をすることになった。炎龍帝は俺にとって育ての親であり、また師匠でもあり、大事なドラゴンであった。
炎龍帝はドラゴンの姿のままで、俺に話しかけた。
「ついにお前が、私のもとを去るんだな・・」
どことなく寂しそうな顔をしていた。
「お前を育てるといい、はやくも旅立ちの時になってしまったな。ドラゴンは人間よりも寿命が長いのであまり時間なんて気にはしていなかったが、お前と一緒にいた日々が私が過ごした時間の中で一番輝いていたよ」
やばい、かなり泣きそうになってきた。
「お前はこれより王都近くに転送させる。だが、そこは決して楽な場所ではない。冒険者となり、そこで人間の中でも最強になってくれ。そしていつの日か、私を倒さねばならぬ依頼があったときには、お前が来てくれ。それが最後となろう」
自分を倒す依頼が来た時には来てほしい。そういわれたとき胸が締め付けられそうだった。だが、この世界では人間がどんどん進出してきているらしくドラゴンがいるところも減ってきている。このままでは近い未来ドラゴンはいなくなってしまう。最後の一頭になりたくない、そういう願いが込められていることはすぐにわかった。
「そうだ、冒険者となるからにはお前の姿をもっとましにしなければな」
そういえば俺の着ているのは特訓だといわれて狩りまくったモンスターから作ったものだった。
炎龍帝は何かぶつぶつと言い、魔法を唱えた。そして、俺の着ているものが変化して、しっかりとした服になっていた。
「これは最後の選別だ。これよりお前を転送する。さらばだ!我が息子フレイよ!」
そう叫ぶと俺の足元に魔法陣が浮かび、その場から俺を転送させた。
フレイが転送された後、名づけの儀の場所から空を見つめ神龍帝はつぶやいた。
「これでよかったのだ・・フレイよ、これからおそらくお前は様々なことに巻き込まれる。だが、それでもあきらめることなく、前へ進んで行け。頼むぞ『龍の子』よ・・・」
そうつぶやいた後、神龍帝はフレイが旅だったので悲しさで泣きじゃくっている炎龍帝のところへいき、フレイが飛ばされた場所からかなりはなれた場所で酒を飲みまくったのであった。