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……いいよなぁ!?

「は!」

 肌寒い!

 あ、あと頭が痛い!

 ……自分の脳内の声の大きさでさらに痛い。

 つかここどこ?

 土のにおいが鼻腔をくすぐる。屋外だというのは分かる。え? 外なの?

 恐る恐る目を開いてみると、まず眩しい陽の光が目に入ってきた。

 木々の間から朝陽がこぼれている。木ってことは森? どこの?

 聞こえるのは鳥の声と、木の葉がサラサラとなびく音だけだ。

 立たずともわかる。リリスのお尻はぐっしょりと朝露で濡れていることだろう。

 ……。

 記憶の整理は必要だろう。まず何をするべきか。

 ここはミッドベジリアなのか? 否、あんな大都会にこんな自然が豊富な場所なんてないはずだ。

 ならば魔法で跳んできたのか? もしかして家に帰ろうとして訳の分からない場所まで跳んできちゃった?

 そしてそのまま眠たくなってここでダウン?

 はは、私がそんなクソ酔っ払いなことするわけが!

 …………ないとも言い切れないなぁ。

 リリスは取り敢えず寄りかかっていた木を頼りに立ちあがった。

 頭が一瞬ズキンと痛むが、こんな場所に居続けて風邪を引くのも馬鹿馬鹿しい。

 家に帰るか。

 こんな状態で空中浮遊を味わうとなると、大空で胃の中をぶちまけてしまいそうな雰囲気すらある。

 まぁでも構わないだろう。どうせ雨か何かだと勘違いしてくれるに違いない。

 リリスは呪文を唱えようとし……、

 

 …………。

 杖は!?


「うっそでしょ!? なんで? えぇー!? 泥棒? 泥棒にあったの?」

 こんな田舎くさい森の中で? 懐をいくら探っても出てくるのはやくそうとかゴミとかそんなものであった。

 だったら近くに落としてるんじゃないか、と地面に目をやってみるがそれでも特に何かあるわけでもなかった。

 …………詰んだ。

 杖を取り上げられた僧侶なんてただのか弱い女の子だ。女の子。……この年齢で女の子って言ってもいいのだろうか。いや、いいだろう。いいはず。……いいよなぁ!?

 はっ、でも待てよ。

 ここに跳んできたっていうのは魔法を使わなきゃ無理でしょ? なのにここに杖はないとなると……。

 1、着地してから歩き始めてどこかに落とした。

 2、着地してから誰か暴漢に襲われる。杖を奪われ無力化された私は以下略。

 3、実はポケットに入ってあった。お騒がせしてごめんなさい。

 4、現実は非情である。空を飛んでいる最中に杖を落とし、そのまま魔力を維持できずに落下。

 まぁこの辺が妥当であろうか。

 うーん、私情を排して客観的に考えると……2番が濃厚だろう。女の子が森の中で倒れている。更に言うならばその女の子は伝説の僧侶で、実は相当可愛いと噂されているリリス様なのである。そんなものを目撃した日には森に住む高潔な賢者であろうと即座にルパンダイブだ。

「……まだ酔っているのか私は」

 昨日のテンションが残っているのか。

 だめだ、もうゆっくり横になっていたい。頭が痛い。吐き気がする。ズボンどころかショーツもぐしょぐしょに濡れていて気持ちが悪い。

 魔法も使えない。道も分からない。

 帰りたい。

 帰れない。

「泣いちゃおうかな」

 いや、泥酔していた自分が悪く、完全に身から出た錆というのも分かっているが泣いちゃいたい気分なのである。

 あ、駄目だ。今言葉にしてしまったからか余計に心が弱ってしまった。

 もう、脳内はさぁ、今から泣いてやるぜ! という準備を始めてしまっている。瞳孔もホイ来た! と言わんばかりに目じりに涙をせっせと溜め始めている。

「あ、……、あぁ……うわぁあああああああ! ここどこぉなのぉ~? 杖はどこにいったのぉ~? うわぁああああぁああん!」

 あぁ。

 意外に森の中で大声で泣くのは気持ちがいい。

 泣いている私とは裏腹に脳みそはどこまでもクリアだ。

「あのクソッタレ勇者はどこにいったんだっつーのよぉ! もう馬鹿! ばかばか! 全員しんじゃえよばぁか! あぁあああん!」

 腰から下の力が抜けて、地面にペタリと座り込んでしまった。

 ――ガサ、という音が聞こえた。

 魔物だろうか。それとも人間だろうか。

 もういいや。どうにでもなれ。どうせ勇者がいないのであれば私は死んだも同然なのだ。

 こんな恥ずかしいところを見られたところで、相手が魔物ならば問題はない。どうせ殺される。

「……リリス先輩?」

 だがそれは魔物の声なんかではない、聞きなれた声がした。

「ふぇえ?」

 涙とか鼻水とかぐしゃぐしゃな顔のまま、声がした方を振り返る。

 魔物だという予想は外れていた。

 だが……見られて恥ずかしい人物であったのには間違いない。

「あの、えーっと。タオルでよければお貸しいたします」

 あの冒険が終わってから、故郷の農業を手伝うと言って分かれたきりのかつての仲間、ちょっと見ない間に大きく成長していたベズリーシアがそこには立っていた。

 

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