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段々イライラしてきた!

「そういえば。今日は講演会があったと聞いたけどぉ?」

「そうよ。というかアンタんとこにも来てたでしょ絶対」

「見世物になるのは好みじゃないわぁ」

 そう言ってプイ、とそっぽを向いてみせたのはリリスと供に魔王を討伐した盗賊のサンダラだ。

 そんな風に言うと盗賊じゃなくて、マスターシーフよぉ? と彼女は決まって言うのだが。

「にしても珍しいわねぇ。アンタがアタイを飲みに誘うなんてぇ。てっきり嫌われてるもんだと思ったけどぉ?」

「このミッドベジリアの大ホールに来たついでよ。ちょっと昔話がしたくなっただけ」

 そういってリリスも麦酒を煽る。

 そういえばお母さんに遅れてかえるって連絡し忘れてた。まぁいいか。

「昔話ねぇ、それならベズリーシアも誘ってあげればよかったじゃない」

 ベズリーシア。

 クソがつくほど真面目な武道家である。

 確か冒険が終わってから生まれ故郷にか帰るとか言っていたから、連絡がつかないこともないんだろうけど……。

「……どうせ今でも特訓とかしてそうだし」

「……そうねぇ。アタイから言い出しといてなんだけどぉ、今のあの子を呼ぶのは気が引けるわねぇ」

 端的に言ってしまうと苦手なのである。

 完璧超人というか。なんというか。

 私ら駄目人間と絡むのは、あの子の将来にとって良くはないんだろうし。きっと。

 リリスはそう結論付け、目の前の水ドレイクのから揚げにレモンをかけていた。

「アイツどこに行ったのかしらねぇ」

 サンダラはそのから揚げを摘みながら、机に顎を乗せていた。

 ついでにその無駄にでかい豊満な胸も机に乗っていた。クソが。リリスは舌打ちをしていた。

「なによ。アンタもう旦那がいるんでしょ。そんなん気にしてもしょうがないじゃない」

 確か去年に子供が生まれたとか言ってなかった?

 そうか、あの馬鹿でかい乳で勇者を何度もたぶらかしていたけど、今は赤ちゃんの為に使っているのか。

 そう思うと憎くもあり、同じ女性としてなんともいえない感傷が湧いてくる。

「ただお金持ってるから一緒にいるだけだしぃ。あの赤ちゃんも正直今の旦那との子供なのかも自信がないわぁ」

 おい。

 クッソふしだらじゃねぇか。

「もしかしたら……こっそりヤった勇者との子供かもぉ?」

「――! っ、ゲホ! ゲホ!!」

「やぁん、もう冗談よぉ。アタイ達の勇者に手を出してないのは知ってるでしょお?」

 ……っ!

 このクソ女……!

「何がアタイ達よ! 少なくともアンタのじゃないわボケ!」

「なぁにぃ? ならアンタのモノって言いたいのぉ?」

「!! それは……、その……、」

「はぁ。早く切り替えないと。いつまでも結婚できないわよぉ?」

「…………ぐぬぬ」

 顔赤いわよぉ? とリリスをたしなめるサンダラ。

 違う。顔が赤いのは恐らくお酒のせいだ。

 もしくは怒りで血が上っているか。

「それでぇ? アタイを誘った本当の理由はぁ? まさか喧嘩したかっただけとか言わないわよねぇ?」

 今度は机に肘を立てて、リリスのことを観察するようにじっとりと見ている。

 子供を一人生んでいるというのに、冒険していた頃の体系を維持しているし、私達の年齢もちょっとずつおばさんに近づいているというのに、コイツだけは時を止めてるんじゃないかってくらいに若々しい。

 やっぱり、男か。男なんだろうか? その流し目と淫靡な容姿で何人も垂らしこんでいるんだろうか。

「……空が青かったから」

「……はぁ?」

「空が青かったからよ! 何か文句あるの!?」

 リリスはぐいっとジョッキを煽ってからバクバクと海鮮サラダを頬張る。

「…………はぁ。アンタは……本当に……」

 勇者は出会った頃から変わっていた。

 冴えない教会で冴えない僧侶の見習いをしていた私を勧誘してきたときもそうだった。

 魔王を倒しに行くと息巻いていた勇者を見たときに、あ、馬鹿な人なんだなぁ、と思っていた。

 そうだ、一緒に魔王倒しに行かない? と言われた時にそれは確信に変わっていた。

 どうせついていくなら冴えてて格好良い勇者かな、と分不相応にもそんなことを夢見ていた時に、そんなことを言われたものだから私もてんぱったものだ。

 果たして、どう丁重にお断りしようか、とか色々と考えてるときにヤツは言ったのだ。

「ホラ、見て。今日の空。めっちゃ綺麗。どこまで続いてるか見てみたくね? ……でしょお? 何回も聞かされたわぁ、それ」

「そう、私も最初は馬鹿な人って思ってたんだけど。でもただのそんな言葉でひょいひょい着いて行った私も相当の馬鹿だったわ」

「そうねぇ、あんな魅力的な人……後にも先にもあの人1人だけよぉ」

 懐かしむように、ゆっくりとサンダラは瞼を閉じた。

 リリスも昔に思いを馳せる。

 そうだ。

 私はアイツのことが好きだった。

 それなのにいなくなったから。

 唐突にいなくなってしまったから。

 私だけ前に進むことが出来ずに、ただのうのうと実家から教会に通って、時々講演会なんていうのにも呼び出されたりして。

 なのにこのサンダラという女は旦那もちゃっかり作ってるし。子供もいるみたいだし。

 女として、この平和な時代に迎合した生き方をしている。

 というかなんで私だけこんな目に合わなきゃいけないわけ?

 あーなんか、段々イライラしてきた!

 アイツ本当にどこいったのよ!

「ちょっと! サンダラ! 今日は飲む! 飲みまくったる!」

「えぇ? 今しんみりしてたところなんだけどぉ。……まぁリリスが飲むっていうなら付き合うけどねぇ。でもお腹の子が心配だから少しだけねぇ」

「関係あるかーい! 飲まないサンダラなんてうそでしょ!? うぇーい! はいかんぱーい!」

 無理やりジョッキを掴ませて、乾杯した後一口でジョッキを空にした。

 冷ややかな目でサンダラはこっちを見てくる。うるせー見てくんな人妻が!

「ひー、あっひゃっひゃ! さぁ、今日は楽しく飲み明かすぞお!」

 もう飲んでなきゃやってられない。

 あの勇者は今頃一体どこで何をしているのか。

 ずっとお前のことを待ってるやつがいるってことを分かってるのか?

 寂しいぞチクショー!

「おら、店員さん! 早く次の持ってきてくださいよぉ!」

「ごめんねぇ、あまり迷惑かけないように言っておくわぁ」

「サンダラ! 何保護者ヅラしてんだよ! アンタも飲むんだよ!」

 結局この後、私はお酒で記憶をなくすことになるんだろう。

 だからこの時点で謝っておこう。

 皆様ご迷惑お掛けします。ごめんなさい。


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