いったいわねこの馬鹿!
城下町は常に人の喧騒にまみれているが、城の近くまでくるとそれもなりを潜める。
どことなくぴりぴりとした空気を肌で感じながら、しかし自分には関係ないとリリスは歩みを進めていた。
その勇み良い足取りは一人で行進といってもいいくらいに覇気がある。足音で例えるならカッカッといったところ。
屈辱。財布を盗まれるなんて。
何が、おいおい、あの伝説の僧侶様が頭を下げているぞ? よ! 馬鹿にしないでもらえる!? あれは不可抗力なのよ! だってお金がなかったんだもん! そりゃ謝らなきゃ許してもらえないでしょ!
言ってしまえば、リリスは赤っ恥をかいたのである。
クスクスと聞こえるカップルの嘲笑に激怒し、『偉大なる切り裂く十字』を発動させようかとさえ思っていた。
だが流石にそんなことをしてしまえば大問題になる。リリスはそれを甘んじて受け入れた。
救いであったのは、店長が快く許してくれたこと。後日お金を持ってくるからという理由で解放されたことだろう。
もう感謝の念しかない。
あと美味しかったですと伝えてリリスはレストランを後にした。
しかしあの、人を馬鹿にしたような目で見てくる他の客に対する怒りを未だに抑えきれず、それが表情と足取りに出ているといった具合だ。
「止まれ! ここより先は城主様の地であるぞ! ここを通ることはならぬ!」
気付けば街中を抜け、丁度城門の前まで来ていた。二人の騎士と一人の馬に乗った騎兵に止められた。剣を突きつけているが、その人物がリリスであることに気付くと、騎兵は即座に鞘に収めた。
「馬上にて失礼! しかしいかに大僧侶さまとて、簡単にお通しするわけにもいきませぬ!」
「ほら! これでいいでしょ!」
今のリリスは虫の居所が悪い。
詰め所で貰った許可書を騎兵に渡した。
渡したというか、叩き付けたといった方が正しいか。
その騎兵は書類とリリスを交互にまじまじと見てから、
「我がドク城は現在、立て込んでおる! 貴女の気まぐれに付き合っている暇はない!」
「は、はぁ!? ちょっと! 文字読めないの!? 許可されてんでしょうが!」
「ならぬ! さっさと引き返してもらおう!」
騎兵はその紙を投げ捨てて言い放った。
ぐぬぬ、とリリスは歯を食い縛って、その悔しさをあらわにしていた。
「いや! 絶対帰らない! というか怪しいんだけど! いいじゃん! べつに! ちょっとくらい!」
リリスは馬の上に座っている騎士に向かって吼えているが、目線を合わせようともしない。
馬に乗っていない騎士二人はリリスと目を合わせないようにそっぽを向いて対応していた。
「というかそんな記録を見られたくない理由ってなんなの! もしかして勇者がいなくなったのって、アンタ達が勇者を幽閉とかしてるからじゃないの!」
「とんだ濡れ衣だな。そんな真似を我が城主様は行わん!」
「はん! どうだか! こんな融通の利かない騎士を雇ってるくらいのパッパラパーな城主なんだから、そんな真似しててもおかしくないわね!」
「なんだと! 伝説の僧侶様といえど、我が城主様を侮辱するのは許さん!」
「許さなかったらどうするっていうのよ! あんた達なんて怖くもないのよ!」
売り言葉に買い言葉。今のリリスに冷静という2文字は完全に消去されているようだ。
「伝説の僧侶様といえどもまだまだ幼気な小娘であるか。ならば少しばかり、この騎兵隊隊長、スラムが灸を据えてやることにしようか!」
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騎兵隊長が あわられた!
騎士Aが あらわれた!
騎士Bが あらわれた!
騎士Aは ギガスパークを となえた!
いなずまの槍が リリスの からだを つらぬく!
リリスに254のダメージ!
「いったいわねこの馬鹿!」
リリスは 神聖な力で 十字を きった!
不可視の 力が 十字となって 空気を引き裂き 騎兵たちを 襲う!
騎兵隊長に 648のダメージ!
騎士Aに 642のダメージ!
騎士Aを やっつけた!
騎士Bに 599のダメージ!
騎士Bを やっつけた!
騎兵隊長の こうげき!
リリスに 126のダメージ!
騎兵隊長の こうげき!
リリスに 139のダメージ!
騎兵隊長は 秘薬を つかった!
騎兵隊長の HPが 回復した!
「面倒なことしてくれるわね!」
「今、城主様に対する非礼を詫びれば許してやろう!」
「アンタに許してもらおうとは思わないわ!」
リリスは スクリートの 呪文を となえた!
リリスの しゅびりょくが 723 あがった!
騎兵隊長の こうげき!
リリスに 13のダメージ!
騎兵隊長の こうげき!
リリスに 21のダメージ!
騎兵隊長の こうげき!
リリスに 9のダメージ!
「ぬ!」
「さて、いま謝るのなら許してあげないでもないけど!」
「たわけが……」
騎兵隊長は ギガスパークを 唱えた!
いなずまの槍が リリスの からだを つらぬく!
しかし 不思議な力により うちけされた!
「おやめなさい! いったいなんの騒ぎですか!」
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発動しかけていた魔法を途中で封じ込めるという、神がかりな魔法操作をして見せた人物がそこには立っていた。
重役だけが着ることを許されていそうな、絢爛な服を身にまとった女性であった。




