「貴方の事は嫌いだけど、そこだけは好き」と妻に告白された。
ちょっと短めです(汗)
目をしばたたかせていた妻は、ようやく記憶の箪笥から『おまじない』の項目を発見したようだ。眉を片方だけ上げ、首をかしげる。
「おまじない…ねぇ。」
「あぁ。」
締め切ったカーテンの中、はす向かいの女性に聞こえないよう声を潜めながら俺が見た赤い手について妻に話した。妻は怪訝な顔をしつつも最後まで聞いてくれた。腕を組み、険しい顔をする。
「…つまり、その守護霊は私が負うはずだった怪我を、受け子の男の子に移した、ってこと?そんな事って…」
「俺だって信じられないさ。だが、確かにお前は刺された。この手を濡らした血の感覚だって鮮明に覚えてる。」
妻を失う恐怖も、悲しみも憎しみも全て、この身が覚えている。
「守護霊は被害を未然に防いでくれる守護者じゃない。受けた被害をそっくりそのまま犯人にお返しする、復讐者だ。」
俺はそう、考察した。もちろん、結論付けるにはまだ情報が足りない。どのように被害を移すのか、赤い手の正体は?分からないことだらけだ。
「もし、俺の考えている通りなら、あの『おまじない』はガキの遊びで広めて良いようなもんじゃねぇ。遊びの範疇を越えた恐ろしいものだ。もっと詳しく調べて警鐘を鳴らさねぇと…!」
ヒカリから辿って『おまじない』の効果が発動した人物に聞き取り調査を行い、俺の考察が正しいかどうか検証しなくては。それと平行して『おまじない』を広めた最初の人物を探し、その真意を探る。
退院してから取るべき行動をリストアップしながらブツブツと考えを口にしていると、横で妻が笑った。考えるのを中断して恐る恐る妻を伺う。この上ない真顔だが、眩しいものを見るような温かな目をしている。
「かなめちゃんのそんな顔、久々に見たな。」
「…どんな顔だよ。」
「使命感に燃えて輝いてる顔。かなめちゃんの事は嫌いだけど、そこだけは好き。頑張ってね。」
泣いても良いだろうか?