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熟した毒と腐った薬  作者: Coral Lagus
『おまじない』の入手方法と効能
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「母さん、アンタをそんな畜生に育てた覚えはない!」と母に泣かれた。

この親あってのこの子。

元祖トラブルメーカー母の登場です。

 お袋は凄まじい勘違いをしている。それを早く正さなくては!と思ってはいる。しかし、過度に緊張した頭は口を、喉を、まともに動かしてくれない。


「い…いやいやいや…お…おふ…袋ろ?そっそれは…それは違うんだ…!」


 ここまでたどたどしいと、むしろ怪しいだろう。そんな事は分かってるんだよ!


『やっぱり隠してたのね!全く!アンタって子は!母さん、アンタをそんな畜生に育てた覚えはないよ!!』


 電話の向こうでお袋が泣き出してしまった。電話口から漏れ聞こえてくるお袋の泣き声と、どうしたら良いか途方に暮れる俺を見かねて妻が携帯を奪い取る。そしてスピーカーモードに切り替えて俺にも話が聞こえるようにし、机の上に置く。


「あ、お義母さん?スズです。お久しぶりです。どうしました?」

『あぁ、スズさん!家にいたの?良かったぁ!スズさんがいれば助かるわ!』


 実の息子よりも嫁の方を頼りにしているお袋。妻に代わった途端に切れ目なく話し始めた。


『さっき警察と弁護士の方から電話があってね、かなめが先週小学生の女の子を連れ去ろうとして怪我させたって言うのよ!女の子の親御さんが娘さんのために大事(おおごと)にしたくないっておっしゃってくださって、逮捕されずに済んでいるんでしょ?今日これから示談金500万を取りに家まで弁護士の方がいらっしゃるの。でも、私だけじゃ不安だわ。それに事件を起こしたかなめも一緒に謝るべきでしょ?だから悪いんだけど、かなめを連れてこっちに来てくれないかしら?』


 …んん?妻も俺と同じく顔をしかめている。これって、よく聞く…アレじゃないか?


「…話はわかりました。弁護士が来るのは何時ですか?」

『午後の3時よ。』


 車で行けば20分。間に合いそうだ。


「今すぐそちらへ行くので、私たちが着くまで絶対にお金を渡さないで下さいね?」

『分かったわ。貴女だけが頼りよ、スズさん!馬鹿な息子で御免なさいね…』

「いえいえ~。承知の上で10年も一緒に住んでますから。それでは。」


 電話を切った妻に抗議の視線を向ける。妻は無視していそいそと服を着ながら、自分のスマホを取り出して誰かに電話する。


「…あ、イマイくん?久しぶり。私、ニシモリ。…うん。ね、今大丈夫?……ありがと。人を寄越してもらえる?…うん…」


 イマイ…確か妻の課にいた後輩で、去年あたりに他の課に転属になったと妻が嘆いていたのを記憶している。可愛い年下男子がいなくなって、明日から私は何を見て目の保養をすればいいの?とか何とか。悪かったな。旦那が無精髭を生やした容姿中の下のオッサンで。


 不満はいろいろあるが、緊急事態だ。俺も服を着て身支度を整える。戸締まりを確認して廊下に出ると、車のキーを持って妻が待っていた。


「かなめちゃんが運転して。イマイ君から折り返し電話かかってくるから。」


 無言で頷き、鍵を受けとる。仕事モードに入った妻は凛としていてたくましい。男の俺でも格好良くて惚れてしまう。


 赤くて丸くていかにも女性向けのデザインの軽を妻は愛用している。ミニトマトのような外見のこの車を、妻は『ドラキュラ号』と呼んでいる。ミニトマト→トマト→トマトジュース→赤い液体→血→ドラキュラと、想像力豊かな連想ゲームでそう名付けられた。


 小さいわりに目立つドラキュラ号を走らせて20分。コインパーキングに入れて少し歩くと俺の実家にたどり着いた。現在13時50分。『弁護士』が来るまであと一時間だ。


「ただいまぁ。お袋~?」


 ガラガラと玄関の引戸を開けると奥からお袋が飛び出してきた。急な来客に慌てていたのか口紅が少し乗り過ぎている。お袋は真っ先に妻に頭を下げた。


「本当に申し訳ない!スズさん、この度は甲斐性なしの馬鹿息子が大変な迷惑をかけました!」

「あ…あぁ、お義母さん。頭を上げてください。お義母さんは何も悪くないですし、かなめちゃんも何もしていないんですから。」

「いいえ!もういっそこうなったら離婚してやっても良いですから……え?」


 勝手に俺たちを別れさせそうとした所でようやくお袋の脳に妻の言葉が到達したようだ。今にも泣き出しそうな顔のままでポカンとこちらを見上げる。


「お袋は騙されてるんだ。」

「落ち着いて聞いてください。『オレオレ詐欺』ですよ。」


 俺はガキに手ぇなんか出してない事、これから来る弁護士を名乗る男は詐欺グループの受け子であろう事、直に生活安全課の警察官たちが張り込みに来て犯人を捕まえる予定である事を、お袋が理解できるように丁寧に説明していく。最初は顔面蒼白で聞いていたお袋だが、徐々に自分が置かれた状況に気付いたらしい。最後にはいつものしっかりしたお袋に戻っていた。


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