「そんなんだから妻に飽きられ、仕事も続かず、少女に手を出してしまうダメ人間になっちゃうんだよ」と妻になじられた
直接的な描写はありませんが、夫婦の営みが発生します。
次の日。朝食を終え、朝風呂 (と、言ってもシャワーだけだが)を浴びてリビングへ戻ると、とんでもない光景が広がっていた。
「うわはっ…!!!?な…何やってんだお前!!」
「んん?お色気?」
自分でやっておいて語尾に?つけるなよ…。
毎日洗濯を担当している俺が見たこともないセクシーな上下の下着を身に付け、というかそれしか身に付けずに妻がカーペットの上で無防備に寝転がっている。恐らく昨日買い物に行った際に俺に内緒で入手したのだろう。しかし、セクシーな下着も可哀想なものである。下着の力を借りても妻はお世辞にも色っぽいとは言えない。筋肉質で腹筋がうっすらと割れている彼女が面積の小さい下着をつけると、駆け出しボディービルダーのようだ。
「何でまたそんな…」
一応聞いてみるが、理由は分かりきっている。ヒカリと自分の髪の束を白い紙に挟んで枕の下に置いて寝た妻は、目覚めたときから『おまじない』がちゃんと効くのか調べたがっている。それにしても朝っぱらから色仕掛けとは、妻に憑いた守護霊はサキュバスか何かか?
「ヒカリちゃんが言ってたじゃん。かなめちゃんを実験台におまじないの効果のほどを調べるの。」
「お前な…。もしおまじないの話が本当だったら、犯人たちと同じように俺は死んじまうんだぞ?それで良いのか?」
「むぅ…そうか。それは困るな。私のサンドバックがいなくなってしまう。」
サンドバックこと俺は大いにため息をつく。この世界には俺の味方は誰もいないのか、と寂しい気持ちになる。
「全く、みんな揃って俺を何だと思ってるんだ。もっと俺をいたわれよ…。」
「仕事もせずに日中公園で時間をつぶして労働の義務も果たしていない男が何言ってるわけ?良い歳こいて甘えるな。そんなんだから妻に飽きられ、仕事も続かず、少女に手を出してしまうダメ人間になっちゃうんだよ?」
「ぐぬっ…が…餓鬼に手は出してねぇ!!」
それだけは胸を張って言える。…他は悲しい事に反論の余地が米粒ほども残っていない。
「ちぇーっ。かなめちゃんに襲わせる作戦失敗か…。」
仰向けの体勢から頭の両脇に手を突いて脚を曲げ、ほっ!と掛け声をかけてぴょんと跳ね上がる妻。アラフォーとは思えない運動神経である。もちろんこんなことを口に出せばサンドバックに拳がめり込むだろうが。
自称お色気な格好のままキッチンに入り、冷蔵庫から麦茶を取り出す。いくら屋外が35度近い真夏日だとしても、下着一丁でうろつくなよ…。色気がないとさんざん脳内でなじっていた俺だが、さすがにムラッとくるものがある。麦茶を飲み終え、シンクの中にコップを置いたのを見計らって背後に忍び寄り、指先で脇腹をなぞる。すると、面白いくらい反応した。
「ちょっ…!何するの?」
「何って、こういう事して欲しくてそんな恰好してたんだろ?」
「ついさっき死にたくないから襲わないって言ってたじゃん!」
「襲わない、とは言ってない。」
久々に火がつき、色々な意味で命知らずになった俺は、妻を昼過ぎまで可愛がってやった。
当初の目的通り、妻は俺に自分を襲わせる事に成功した。しかし、背中についた引っ掻き傷と、頬に残るビンタの跡以外、俺の体に異変は無い。
「ふーむ…やっぱり子どものおまじない『ごっこ』だったかぁ…」
「だから言っただろ?餓鬼の遊びに本気になってどうする。」
互いに下着姿のままダイニングで昼食をすする。今日はお湯を入れて3分待つだけの簡単なものにした。本当に久しく頑張ってしまったものだから腰が痛くて料理をする気になれないからだ。俺が。
「んふふ~。でもま、何年越しかのセックスレスが解消されて、私としてはヒカリちゃんに感謝だけどねぇ♪」
本当はそっちが主目的だったんじゃないかと妻を横目で睨む。それでも妻は珍しく喜びの笑みを俺に向けている。あの小生意気な餓鬼に感謝するのは何だか癪だが、妻のこんな笑顔が見られて確かに悪い気はしない。
「あ、でもさ?守護霊はおまじないを受けた人が本当に被害に遭いそうにならないと働かないんじゃないかなぁ?」
「まだ信じてるのかよ…。俺は何ともなってねぇんだぞ?」
「だって、私はかなめちゃんに迫られて、嫌じゃなかったもん。」
「あー、確かにむしろ悦んで……痛てっ!!」
少し意地悪してやろうと言ったら思いっきり横っ腹を殴られた。照れ隠しとして受け取っておこう。
ご機嫌をとろうと再び妻の脇に手を伸ばしかけたところでズボンのポケットに入れっぱなしだった俺の携帯が鳴る。この鳴り方は電話だ。タイミングの悪さに眉を寄せながら携帯を取り出して画面を見る。
「お袋からだ。」
「電話?」
「あぁ。」
最近連絡してくる時は大抵メールなのに、電話してくるとは珍しい。通知ボタンを押し、携帯を耳に押し当てる。
「あ、お袋?どうした?」
『かなめ、アンタ大丈夫なの!?』
「は?」
お袋にもちゃんと仕事を探していると伝えている。それが嘘だといよいよバレたかと思い、一瞬にして血の気が引く。
『は?じゃないわよ!アンタ小学生にちょっかい出して怪我させたらしいじゃない!何でそんな事件おこしておいて、直接母さんに言わないの!?』
隣町に住むお袋に、もうヒカリとの一件が身の丈の倍以上の尾ひれが付いて伝わってしまったのか!?先ほど引ききったと思っていた血がさらに引いて行く。ぼやける視界に首を傾げた妻の真顔が映る。