「アタシが襲ってあげます」と女子小学生に約束された。
季節は秋の終わり。公園のベンチで人を待つのが辛い時期になっていた。それでも遊び回る子供たちには親が着せてくれたモコモコの上着は暑すぎるようで、木の根元や ジャングルジムに引っかけられている。
「あ!おじさん!」
羊さんが編み物をしながら綱渡りをしているトレーナーを着た少女が、俺を見つけるなり全速力で駆けてきた。バドミントンのラケットでペチペチ俺の太ももを叩きながら、嬉しそうにしている。
「最近来ないからついに警察に捕まったのかと思いましたよ!」
「勝手に人を犯罪者にするな。」
「テペペロっ!」
またまたネットで(中途半端に)覚えた単語を繰り出し、隣に座る。
「で、守護霊さんの正体は分かりましたか?」
そもそもの始まりの少女ヒカリに俺の覚えている限りの事実を、噛み砕いて説明する。
逐一分かりやすいリアクションを返しながら話を聞いてくれるヒカリ。妻の腹で育つ子も、彼女のように喜怒哀楽の激しい元気な子になってくれたら、楽しいだろうな。まぁ、スズが産む子ならどんな子でも愛せるが。
と、早すぎる親バカを心の中で発揮しながら、『おまじない』と紅い竜の話を語り終える。最後まで聞いたヒカリは細い腕を組んで真面目くさって考え込む。
「ひどいことをされた思い出が、ひどいことをした人に移る…。魔法みたいな話ですね。」
「信じられないか?」
「いいえ!おじさんがそうおっしゃるんです。そうなのでしょう!」
ヒカリは俺をそんなに信頼しているのか?全く、可愛い奴め。あ、いや、変な意味じゃなくて!
「…その魔法のせいで、俺は一月程の記憶を思い出せないんだ。ぽっかりと穴が空いた気分だよ。」
「おじさんも『おまじない』を受けたのですか?」
「スズの野郎が俺の寝ている間に勝手にかけていたらしい。」
そのおかげで、何か物騒な事件から生還したらしいのだが、誰も詳細を知らない。俺とアリアは5週間に渡って行方不明になり、どこかの波止場で発見されたらしい。
「ぬぁあ゛ーーっ!!」
「うわぁあああっ!!?」
思い出せそうな気配も無い自分に苛立って頭を掻き散らす。突然の大声に驚いたヒカリがすっとんきょうな声をあげる。
「あの無責任な女は無いって言ってたが、絶対見つけてやる!『おまじない』の解き方!記憶の取り戻し方!!」
立ち上がった勢いでベンチに置いていた缶が倒れた。ぬるいコーヒーがズボンに…うわぁっ!スズに叱られる!!
一人で騒ぐ俺を少女は笑顔で見守った。
「…ふふっ。その時は、『おまじない』が消えたかどうかテストするために、アタシが襲ってあげますね!」
熟した毒と腐った薬 完




