「アンタ程のダメ夫は見たことがない」と占い師に呆れられた
白い天井に蛍光灯。
目覚めて最初に見たのはその光だった。
長くて酷い悪夢を見ていたような気分だ。体、というより頭が非常に重い。頭が働かないから、体が動かせない。
「あ…!甲斐性無しさんっ!!」
甲斐性無し?…あぁ、俺のことか。俺をそう呼ぶのは…そう、アリアって少女だ。右に頭を向けると、青い瞳に溢れんばかりの涙を溜めたブロンドの少女がいた。
「アリア…」
声が掠れている。そういえば喉が渇いた。腹も減ったな。
「…てか、ここ、どこだ?」
白い小部屋。俺はベッドに寝ていて、点滴が近くにぶら下がっている。あぁ、病院だな。でも、何故…?
答えを求めてまたアリアを見る。ついにボロボロと泣き出したアリアの額に、爬虫類の足跡のような剣と、大きく口を開けた爬虫類のような杯の紋章が赤く浮かび上がっている。俺の視線に気づいたアリアは、そっと俺の額に触れた。温かい手だ。
「執行の証は杯の印。咎人の証は剣の印。私も甲斐性無しさんも、何かから救われた。」
「何かって…何だよ?」
「分からない…。」
少し働くようになってきた頭をフル回転させて、記憶を再生する。
執行の証と咎人の証。これらの単語を聞いたのは月見乙女の占いの館だ。俺は『おまじない』について調べていて…。そう、赤い竜に会った。
…それから…それから?
「かーなーめーちゃんっ!!!」
「げふぉぅ!!?」
折角思い出してきた記憶が、みぞおちへのエルボーからの首羽交い締めで全て吹き飛んだ。ぐはぁっ…苦しい…死ぬ……!
「どこも痛くない?苦しくない?生きてる?かなめちゃん、かなめちゃん、かなめちゃんっ!」
喉の乾きと空腹以外異常が無かった俺を今まさに殺そうとしている、この柔らかいものは…?
「スズ……死…ぬ…」
「あ、ごめんね。ずっと死んだように眠ってたから、つい…。かなめちゃんが目覚めて嬉しくて…!」
意識不明者が意識を取り戻したら絞め殺したくなるってどんな理屈だよ…。相変わらずな妻の目の周りが赤く腫れている。俺が寝ている間、ずっと泣いていたのだろう。綺麗な顔が台無しだ。
目の隈を撫でてやりたくて手を伸ばす。が、いつの間にか現れた月見乙女に叩き落とされた。
「スズさんは妊婦で大事な時期なんだから、泣かせたり激しい運動をさせたりするんじゃないよ!全く…アンタ程のダメ夫は見たことがないよ。」
俺が悪いのか!?激しい運動(と書いて殺人未遂と読む)は妻が勝手にやったことだろ!
と、いうツッコミは心の中を一瞬通りすがるのみに留まった。
誰もが俺のために涙を流してくれている。帰りを待っていてくれた人がいる。それだけで、こんな世界も悪くないと思えて、安心感と共に強烈な眠気が襲ってきた。




