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熟した毒と腐った薬  作者: Coral Lagus
『おまじない』の普及率と副作用
12/27

「やることなすこと全て裏目に出る」と人気占い師に予言された。

おじさん×2パート後半

 ある朝、女性が駅へ向かっていたところ、横道から突然男性が飛び出して来て進路を塞いだ。女性はその男性と2か月前に別れたが、ストーカーの被害に遭っていた。男性はよりを戻さなければ殺すと包丁のような刃物を取り出した。すぐに逃げ出した女性を追いかけ、背中を一突き。倒れた女性に馬乗りになり、首筋を2か所、背中を複数か所めった刺しにした。

 駅前の大通りで起こった凶行の一部始終を街頭の防犯カメラや大勢の通行人が目撃していた。止めに入った通行人によると、すでに女性は心配停止状態だったという。

 しかし、救急車両と警察が到着した時、血まみれになって死んでいたのは男性の方で、無傷の女性は家を出たところからの記憶が無いと話していた。

 摩訶不思議!と見出しがついている記事にはそう書かれている。


「この事件は防犯カメラ映像という動かぬ証拠があったから、被害女性は被害者のままだったが、こっちは目撃者が少なかったようだ。目撃者が被害者だと証言していた男性が加害者として起訴されてる。」


 新聞の切り抜きの横に手書きで『無罪判決』と書かれたノートを指差しながら説明する。金銭の貸し借りが原因で生じた傷害事件の記事だ。


「被告人は『覚えていない』と容疑を全面否認。よくある犯人の言い逃れのように思えるけどなぁ…。」

「確かに『覚えていない』で通して罪を認めようとしない悪党が大多数だろうさ。だが、目撃証言と食い違った人物が起訴されている事件で容疑をかけられている奴の内の何人かは、恐らく…」


 妻のように、知り合いの子どもから『おまじない』をかけてもらった大人である可能性がある。『おまじない』で命は助かっても、傷害や殺人の容疑をかけられれば社会的地位を失う。そんな理不尽が『おまじない』の副作用として生じているのだ。


「…なぁ、いい加減、何を調べているのか教えてくれないか?どうしても調べて書きたい記事があるって言うから手伝ってやろうと思ったが、まさか今更目撃証言や自供の証拠能力の無さを世間に訴えたいわけじゃないだろ?」


 さすがに『おまじない』について調べている、なんて伝えてはいなかった。


「…そうだな。だが、きっと言っても信じてもらえないだろうし、頭がおかしくなったと思われそうでな。」


 こいつにだけは、そう思われたくなかった。俺が仕事を辞める時だって、こいつだけは俺の味方でいてくれた。その唯一の味方を、唯一無二の親友を、失いたくはなかった。

 すっかり氷が解けて薄くなったコーヒーの水面に視線を落として言い淀む。俺と元同僚の間にはクラシックが静かに流れるのみ。

 その流れを断ち切るように、一冊の雑誌が差し出された。女子中高生をターゲットとしたファッション誌で、今話題の若手モデルがクッションを抱えて悪戯そうな笑顔を投げかけている。去年の12月号。て、事は10月に発売されたものだ。


「何だそりゃ?」

「まさかとは思うが、これを調べてるんじゃないだろうな?」


 雑誌を受け取り、付箋の貼られたページを開く。二色刷の投稿ページで、恋や人間関係、部活、勉強など、読者が投稿した悩み・相談に占い師 星見乙女なるキャラクターが答える、という設定のコーナーだ。


「星見乙女…月見乙女のパクリか?」


 月見乙女というのは最近テレビやイベントで引っ張りだことなっている女占い師だ。アラフィフ乙女占い師を名乗る彼女は、本職の占いが良く当たると評判で、その毒舌ならがも愛のある話術も世の女性たちを引き付けるらしい。さらには自身の豊富な人生経験を元にした自己啓発本がベストセラー入りするなど活躍の場を広げている。

 …と、乙女ファンの一人である妻が言っていた。


「ここ。『監修:月見乙女』ってあるだろ。」

「あぁ、本人か。」


 彼女はどちらかというと20代~50代の成人女性にウケているイメージだが、中高生にも人気があるのか?

 ともかく誌面に視線を戻す。見開きページの左右の端には今月(正確には去年の10月)の十二星座占いが載っている。決して占いを信じる派ではないが、ついつい目が行ってしまった。

 『獅子座。12位。やることなすこと全て裏目に出るわ。余計な事に首を突っ込まないことね。ラッキーアイテムは紅葉よ。』

 …。


 気を取り直して。ポップな書体が多い中、一つだけおどろおどろしい書体の小見出しを見つけた。『逆恨み』と題打つ相談は、友達の好きな人に先に告白してOKをもらってしまい、その友達に恨まれて嫌がらせを受けているというものだ。女の嫉妬ほど怖いものは無い。

 『最近は直接的な危害を受けそうだから、他の友達から教えてもらった『おまじない』を使ってみたのですが、本当に効くのでしょうか?』


「!?」

「やっぱりそれか…」


 思わず顔を上げると、呆れと落胆の眼差しとぶつかった。


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