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うん、やっぱり母さんが一番おかしい。

 こんにちは、シストです。

 殺人鬼連合のリーダーをしております。


 物事は中々上手く進みませんね。新しい仲間を求めて南に出向きましたが、一向にいい人材に恵まれません。

 これ以上、拠点から離れると新学期も始まってしまいます。学生の本分は学業なので、そちらをおろそかにはできません。なので一旦僕達は地元に戻ることにしました。



 自宅に戻る前に、僕らの溜まり場に寄って行こう。

 市街地から少し外れた場所。深緑深層の目が届きづらい郊外。

 父がいくつか所有するビルの一つ、そこの地下を拠点にしてる。


 書類上何社か入ってる事になってるけど実際には誰も使っていない。

 

 叶夜はここに匿ってるから顔を見てこようと思った。

沙凶ちゃんもいるかもね。


 新しい仲間は見つからなかったし、一度みんなで話合おうかなって。


「逆にここで変なのを仲間にいれたらこの前みたく失敗するかもね」


「そうだよー、私とおにねー様、目黒ちゃんの三人いれば充分じゃない。私達がドールコレクターも切り裂き円も殺してあげる」


「あの二人さえ殺れば後は深緑深層だけだしね。奴は単独では動けないはず」


 その深緑深層が厄介なんだけどね。殻に閉じこもってしまっては手も出せない。逆に手足をもげばブレインの彼女だけでは僕らに対抗できないか。


 僕達三人はそんな事を話ながら、ビル内に入る。

 中はがらんと人の気配はない。埃っぽいけどいつでも使えるようにオフィスの体裁を保ってる。地下もこんな感じ、デスクとかはないけど。

 本来五階建てで地下は無い事になっていた。エレベータでは行けない、表示もない。

 奥の隠し階段から下っていく。一段一段、踏み込む。


 その途中、目黒さんの様子がおかしくなった。


「・・・・・・うう、なんだろう。気持ち悪くなってきた」


 ん、急にどうしたのだろう。目黒さんの顔色が悪い。


「え、大丈夫?」


「胸がざわつく。なんかこれ以上進みたくない、そんな変な感覚・・・・・・」


「なんだろうねぇ~? 変な物食べた? って目黒ちゃんも私達を同じものしか口にしてないか」


 僕とタシイは特に変化はない。

 部屋についたら目黒さんには横になってもらおう。薬あったかな。


 息がどんどん荒くなる目黒さんの手を引きながら地下の扉の前へ来る。


 取っ手を回し、中へ。


 そこには。


「あら~、やっと帰ってきたわ~、もう遅かったじゃないのっ」


 中央、少し奥に女性が一人。


「っ!?」


 その瞬間、目黒さんが飛び出した。千枚通しを手に襲いかかる。


「あああああぁぁぁ」 


 眼球目掛けて鋭い先端が迫る。

 

 それを、その女性は手に持つ果物ナイフで間髪防ぐ。

 耳障りな金属音が部屋全体に響いた。


「あらあら、凄いわ。私に襲いかかってくるなんて。普通は固まるものだけど。二人ともいい友達を持ったのね」


 その女性はにっこりそう口にした。


「母さんっ」

「ママーっ」


 一つに束ねられた長い髪は肩から前に垂れ、見覚えがあるエプロン姿。

糸目のその女性は紛れもなく僕達の母親だった。

 なんで、ここに僕の母さんが。


「え、誰、母さん? ママ?」


 目黒ちゃんは今だ千枚通しを果物ナイフにぶつけ合いながらこちらに振り向いた。


「ああ、武器は降ろしていいよ。この人は僕達の親だから」


 僕はそう告げると、漸く目黒ちゃんが力を抜いた。それでも目は離さないまま、後ずさるように僕達の元まで下がった。


「なんで、母さんがここにいるのさ」


「え~、だって二人とも中々帰ってこないんだもの~、お母さん寂しくなっちゃって~」


 細い目と眉を垂らせて、体をくねらせる。

 

さらに奥には叶夜と沙凶ちゃんがいた。

 でも、僕らが来ても二人が声を出す事はなかった。

 叶夜は僕ではなく母さんを凝視している。まだ警戒を解いてない。沙凶ちゃんは顔を背けこちらを見ようとしない。


「ここにいるかなぁ~って思ったの~。だから私から会いに来たのだけど、貴方達はいないし、そこの可愛い男の子は襲いかかってくるし、もう散々っ」


 よく見れば叶夜の両手は縛られていた。でも外傷はない。僕の仲間だと察して手荒な真似はしなかったのだろう。


 目黒ちゃん達にすればここに異物が混ざった感覚なのかな。

 僕とタシイは気にならないけど、場違い感が凄い。見た目は普通の主婦なんだけどね。


 中身は、過去にレベル32まで達した元レベルブレイカー。

 これはドールコレクター以上の犯罪レベル。今だにその記録は破られていない。

 

「でも本当に凄いわ、私を恐れず牙を剥くなんて。それも二人もっ。相当優秀なのね~」


 母さんは交互に目黒ちゃんと、叶夜に視線を送った。

 沙凶ちゃんはずっと俯いて目を合わそうとしない。

 正体を明かした今なお、二人は母さんを睨んでいる。

 異常者同士だけが通じるなにか。


「すいません。誰だかわからなかったもんで。あれですよ、殺られる前に殺れってやつ。まじ死ぬかと思いました」


「本当にお姉ちゃん達の母ちゃんだったんだ。納得だよ、このおばさん、悪魔かなんかでしょ」


 この二人でさえそう思うのか、我が母親ながらちょっとおかしいみたい。

 僕達にはとっては普通の優しい母親だけどね。むしろ甘いくらいなのに。


「で、僕達に会いに来ただけなの? ならもう用は済んだでしょ」


 みんなが落ち着かないから早く帰って貰わないと。ゆっくり話もできないよ。


「嫌ですっ、お母さん、家で一人なんて寂しくて死んじゃいますっ。なのでシストとタシイの傍にいることにしましたっ! あ、これお土産ね」


 とんでもない事を言い出した母さんが有無を言わさないまま振り返った。

 傍に白い布が掛かった物体がある。入った時から気にはなってたんだけど。微妙に動いてたし。


「じゃーんっ」


 母さんが布を取り払う。


 そこには、椅子に手足を縛られていた女の姿が。

 目と口にも拘束具がはめられている。


「なんか、家の周りをチョロチョロしてたのよねぇ~。多分貴方達に悪さしてる子じゃないかって、お母さん直感したのよ。だから捕まえてきましたっ」 


ドヤ顔で胸を張る母さん。見たところこのお土産の年齢は若い。歳は僕達より少し上ってところか。


「多分、それドールコレクターのシスターズってやつだね。何人いるか知らないけどその一人だろう。僕達を監視してたんだと思う」


 いるのはわかってたけど放置してたんだよね。ドールコレクターにとってこの子はただの駒の一つに過ぎないし、利用価値もなさそうだったから。


「あら、シスト達の喧嘩相手って人形遊びだったのね。あの子いいわよねぇ~、娘にしたいくらい」


 母さんは、椅子の子の頬を優しく撫でながら口元を緩ませる。そのまま口の拘束具を取り払った。

 彼女は拘束具を外しても何も喋ろうとしない。完全に覚悟を決めた感じでじっと微動だにしなかった。よく調教されてるね。


「あの子には気をつけた方がいいわ~。私ですらあの人形の中身が見えない。だから、弱点を探りましょう」


 そう言うと、母さんは女の耳に舌を這わせた。妖艶に滑る舌先を這いずらせる。


「んん・・・・・・」


 奥へ奥へと、先端を進入させ、同時に囁く。


「貴方、あの子のお人形さんなんでしょ? なにか弱みはないかしら、おばさん、教えて欲しいなぁ~」


 円を描くように全体を舐め回す。

 そして唐突に。


「いぎゃああああああ」


 〈カリバさん活躍中〉


「あぁ、コリコリしてるぅ、やっぱり〇っていいわぁ」


〈カリバさん活躍中〉


「どれどれ、他はどうかしら~」


 飲み込むと、再び女の体に口をつけた。

 

 白い首元。首筋にうかぶ血管。


〈カリバさん活躍中〉


「ああああぎゃぁあ、痛っ、やめぇえ」


「いい声ぇぇ、んんぅ、その可愛いお口・・・・・・」


 上目で女の顔を眺める。そして女の口許へ、重なる互いの唇、舐め回し、味わうように全体を巡らせる。


「ん、んん・・・・・・あ・・・・・・は」

 

〈カリバさん活躍中〉


「ひがぁあああがぐぐぐぐうぃあじぇあえあえっ!」


〈カリバさん活躍中〉


「がああいやああぁぃぃぃぃぃ」


 獣のように口の周りを真っ赤に染めながら、さらに下へ下へ。


 〈カリバさん活躍中〉

 

「いい、いいわ~、どこもかしこも柔らかい、やっぱり若い子と子供は格別」


〈カリバさん活躍中〉


「ああ、ここ美味しい、ここ好きなの、独特の感触、ああ、いい、はあぁああああああああ」

 

 夢中になって体を貪る。

 たまに思い出したように質問する、けどすぐに食事に戻る。

 折り返して、今度は上に、右から左に。


「あら、固くなってる、さっきとは食感が違うわぁ、ふふうふふっっっ」


 僕達はしばらく無言でその光景を見ていた。

 誰も喋ろうとしない。

 ただただじっと。目を離さず、離せない。


 母さんが赤く染まった口元を腕で拭う。

 

「・・・・・・拷問士とか小さく言ってるわね、なんの事かしら、リョナ子だか、リャナ子だか、よく聞き取れないわ~」


 ドールコレクターの飼い犬が口を割ったみたい。

 完全に飼い慣らされてたはずなのに、母さんには抗えなかったか。

 蹂躙しながら上書きしている。


 女の体はもう血まみれで、涙を流しながら壊れたように顔を上下左右に揺らしていた。


「・・・・・あ、あの、私、元拷問士なんすけど、あれっす、リョナ子って名前のいますわ、特級のやつで、私の大嫌いな先輩だったんすけど・・・・・・」


 相変わらず俯いたままで、沙凶ちゃんが声をだした。

 しかし、余計な事を。


「え~、じゃあ、その子がもしかして人形遊びの弱点なのかしら~」


「そ、そうっすね、そういえばドールコレクターを執行したのそいつっす。もしかしてなんか関係あるかも・・・・・・」


 沙凶ちゃんは二人の関係を深く知らないだろうが、同じ拷問士だったから色々分かってる。


「じゃあ、その子、とりあえずさらってきましょう~、後は直接その子から聞けばいいわぁ。その子どんな味がするのかしらぁぁ楽しみぃぃっ」


 母さんが笑いながら立ち上がった。今にも動きそうな気配。

 

 それを察してか隣の目黒ちゃんが前に出る。僕の眉も同時にピクリと動いた。


「あぁ、すいません、その子、アタシの友達なんですわ。手ぇ、出さないでもらえます?」


 目黒ちゃんが滅多に見せない感情を表にだした。

 真っ黒な瞳が殺意をもって母さんに向けられる。

 続いて叶夜も声を上げる。


「そのお姉ちゃん、僕のなんだよね。いくら二人の母親だからってなにかしたら許さないよ」


幼子には似つかない狂気の帯びた視線。

 母さんを前に若干萎縮していた二人がここで殺気を撒き散らす。


「僕も同じだね。あの人には関わらないで欲しい」


 僕も続いた。今まで母さんの言う事は素直に聞いてきたけど、これは見逃せないな。


「あらあら、みんな怖いわぁ、どうしたのかしら、おばさん、吐いちゃいそう。そんなんじゃますます興味が出てくるじゃない~」


 母さんが果物ナイフを手にした。

 微笑み、口角がどんどん上がっていく。

 これは押し通す気か。


「タシイはどうなの~?」


「私はどっちでもいいかな。会ったことないし。おにねー様とママが決めてよ。二人が争うなら私はどっちかにはつけないもん」


 タシイには興味がないのか、スマホを弄りながら我関さずの姿勢を見せた。


「わ、私はいいと思います。あの先輩、むかつくんでっ」


 沙凶ちゃんは母さんの意見に賛成みたい。よほど嫌いだったのかな。


「あああ、どうしましょうっ! あぁ、そんな目で見られたらおばさん我慢できなくなっちゃう、もう食べちゃいたいくらいにみんな可愛いわぁ」


 果物ナイフをヒュンヒュン手で回しながら悶えている。


「おばさんの目もいいですよー、それ抉っていいですかね?」


「年増もたまにはいいかもね、何事も経験でしょ?」


 二人も譲らない。このまま狂乱の宴が始まるのか、でも意外にも先に引いたのは母さんの方だった。

 細かく跳ねる体が急に停止した。視線を外し我慢するかのように地面に顔を向けた。


「・・・・・・以前の私ならこの場全員を皆殺しにしてでも自分の意志は通したけど。そうね、可愛い我が子がいうなら、しょうがないわ~」


 母さんは果物ナイフをエプロンのポケットに収めた。

 どうやら思いとどまってくれたみたい。実際、僕が反抗した事に驚いてるんだと思う。今まで意見した事無かったし。


「それじゃあ、あれねぇ。お母さん、直接、人形遊び達を見てきてあげる。貴方達で手がおえないと判断したらその場で殺してあげるわ」


 母さんは、僕らの横をすり抜けすたすたと部屋を出て行く。


「あ、その食べ残しはお父さんにいって家に連れて行ってもらいましょう。後で美味しい料理を作って、あ、げ、る」


 ふふふと、そう言い残して。


 完全に母さんの気配が無くなると、目黒ちゃんと叶夜がやっと息をついた。


「ふぅ、シストくんのお母さん怖すぎ。この前以上に緊張した」


「あの人が傍にいると気持ち悪くなる。お姉ちゃん、親は選んだほうがいいよ」


 選べないけどね。目黒ちゃんが言うこの前ってドールコレクターやリョナ子さんの先輩達と三つ巴になった時かな。


「ママには逆らわないほうがいいよ~。今回はおにねー様がいたからだけど、本当なら今頃殺し合いになってるよ。私でもママは怖いもん」


 タシイも母さんには口答えをしないからね。普段めちゃくちゃ優しいけど、怒らせると手がつけられなくなる。それは僕達が一番よく知ってる。


 どうやら火蓋は母さんが切ってくれそうだね。

 これで僕らの方が少し優勢かな。

 ちょっと反則かもしれないけど、これで嫌でも始まるとおもう。


 殺人鬼連合と昆虫採集部。


 どちらが勝つのか、誰か死ぬのか、どういう結末になるのか今の僕には予想もつかない。

 次はぶった切ってでもリョナ子の話にします。

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