おや、随分山奥まで来たようです。前編
こんにちは、蓮華です。
今、私は二人の殺人鬼を引き連れ他の殺人鬼を狩っている最中です。
拠点を離れ北へ北へと。
気づいたらかなり山奥へと来ていました。
私の運転する軽トラックであぜ道を走っております。一番近くの町でレンタルしたのです。
それでも目的地まで2時間以上かかります。
周りは木々しか見えません。樹海レベルです。
「ねぇー、蓮華ちゃん、これどこに向かってるの?」
「か、体が痛い、道がデコボコ、揺れる、揺れるのだ」
荷台にはドールコレクターと切り裂き円が寝転んでいました。車が跳ねる度、彼女達の体が浮きます。
「円ちゃん、絶対立っちゃ駄目だよ、えらいことになるから」
「え、なに、姉御、立つのか? 立てってか?」
私は運転に夢中でしたので、ドールコレクターが私に声をかけた事にも気づきません。
そしたらです。
「蓮華ちゃん、蓮華ちゃんっ、大変、円ちゃんが荷台から吹っ飛んだっ」
「え~、なにやってんですかぁ~」
ドンドンと運転席の後ろを叩くからなにかと思えば。
バックミラーを見ると、後方に円さんが倒れてました。
小刻みにブレーキを踏みながら走ってるんです。
慣性の法則くらい教えておいてください。
そんなこんなで目的地につきました。
「ここどこかな?」
「なんだ、ここか、ここにいるのか、殺人鬼」
車を降り、私達三人が降り立った場所は。
「ここは、百墓村です。村民50人ほどの小さな村。ですが、オカルトマニアには有名なスポットなのですよ」
「ふ~ん、なんでかな?」
携帯も通じず、現代に取り残されたような閉鎖空間。
山に囲まれ前時代的です。自給自足で暮らしているのでしょう。
伝承などもあり、興味を持った人がたまに訪れようとするみたいですね。
「観光客が消えるんですよ。ここに着いたのかもわからない。分かってるのは向かったという事だけ。なんにせよ、なにかありますよね」
一応捜索活動は行われましたが、形跡の一つも見つかりません。
私達がここまで来るにあたって特に変わった様子はありませんでした。てことは、やはりこの村になにかあるんですよ。私の勘ですけど。
「うぉ~い。なんだ、あんたら、観光か? そんならまず村長のとこさいけ」
入り口で立ち止まっていた私達に村民らしき男の方が声をかけてくれました。
案内に応じ、村の奥にあった一際大きなお屋敷へ向かいました。
中に入ると、さらに大広間に誘われ、待っていたのは高齢のお爺さんでした。
畳に正座し、私達は村長さんと対峙します。
「おお、よく来なさった。なんもない村だがゆっくりしてっとくれ。泊まるとこならこっちが手配するで」
「ありがとうございます。私達、ある大学の昆虫採集部なんです。この辺に珍しい虫がいると聞きましてここを訪れたしだいなのですよ」
丁寧にお辞儀をした後、私は立ち上がりました。
「すいません、お手洗いをお借りしてもよろしいでしょうか? なにぶん車に乗りっぱなしだったもので」
「おう、厠は外だ。下男に案内させるで行ってこい」
「いえ、場所は先ほど見えたので一人で大丈夫です。では、失礼して」
私は二人を置いてこの場を離れました。
さて、まずは色々仕込んでおきましょうか。
用を済ませ外に出ると、二人のカップルに出くわしました。格好からして村の人間ではありませんね。私達の他に訪れている人がいたのでしょう。
「こんにちは~、貴方達も観光ですか?」
「あ、はい。ここには鬼の伝承があるんですよ。それのレポートで」
「なるほど、私は昆虫採集部でして他にもメンバーが・・・・・・」
彼らとしばらく話をした後、私も戻りました。
ドールコレクター達と合流したらこの村を少し見て回りましょう。
三人でグルリと村の周囲を観察していきます。
そうすると変わった事も見えてきます。
「ここ、男の人ばっかりですね。女の人がまるでいない」
「そうだねぇ。子供はちょっといたけど・・・・・・」
「若いやつも、いないぞ。だいたいじじいかおっさんだ」
こんな辺境の地ですからね、嫁の貰い手もなかなかなさそうとは思いますが。
一人もいないってのはおかしいです。
村の男達は、私達をまるで値踏みするようにジロジロ見ては薄ら笑いを浮かべております。 視線が纏わり付いて少し気持ち悪いですねぇ。
「やっぱりなにか不気味な村です、観光客の失踪ともなにか関わりがありそうですね」
「そうだねぇ。殺人鬼が混じっててもおかしくないねー」
「そうなると、あれだ、な、姉御、あれだ、あれやろう」
円さんの顔が輝きました。ドールコレクターもそれに答えます。
「だねぇ。そうなると村人全員を皆殺・・・・・・」
「いけませんっ!」
「そ、そうだ、一人残らず、皆殺・・・・・・」
「なりませんっ!」
なんでそういつも短絡的なんでしょうか。やはり私がいないと駄目みたいです。本当に恐ろしい人達ですよ。
「少し様子を見ます。貴方達は絶対私の指示無しでは動かない事、良いですね?」
「・・・・・・は~い」「・・・・・・ふえ~い」
やれやれ渋々了承してはくれました。まずは私が単独で探ってみましょう。
夜になり、村長宅で晩ご飯をご馳走になった私達は昼間出会ったカップル達も含めて二人ずつに分けられました。
村長の家にカップルの片割れの男性。
別の家に、私と、カップルの女性の方。
また別の家に、ドールコレクターと円さん。
という組み合わせです。
カップルの人達は一緒にいたかったみたいですが、しきたりがうんぬんで押し通されてしまったようです。
宛がわれた部屋で、私とカップルの女性が並んで寝ました。
最初は少しお話をしていましたが、いつの間にか隣から寝息が。
夜も更けてきましたし。
ここからが私の時間です。
バックから無線機を取り出します。
昼間いくつか仕掛けておいたんですよね。録音しておいたので今から確認していきます。
「ザザァー、豊、作じゃ、地下の・・・・・・ザァー、女は、もう・・・・・・死にそ・・・・・・四人も・・・・・・これで、また・・・・・・ザアァー」
聞き取り辛い所もありましたが大体内容は把握できました。
・・・・・・なるほど。そういう事でしたか。
聞き終えた私はこの時どんな顔をしていたのか。
月明かりが部屋に差し込んで。
でも、その顔を見る人はいません。
「ちょっと、貴方、起きて下さいっ」
隣で寝ていた女性を無理矢理起こします。
「うん? どうしました? トイレですか?」
多少寝ぼけていましたが構いません。強引にこの場から連れ出します。
私達は外に出ると、女性と村の端に。
夜中だというのに、どの家も明かりがついてます。音を立てないように慎重に行動しなければなりません。
「ちょっと、ここに隠れていてください。なにがあっても出てきてはいきませんよ」
「な、なんなんですか、一体。どういうことです?」
「ここは鬼の住処だったんですよ。とにかく危険ですので息をひそめて動かないように」
「え、え、え、あ、貴方はどこへ?」
混乱ぎみの彼女に、私はにっこり微笑みます。
「私はちょっと鬼退治に行ってまいります」
月を背に。
さて、戻りましょう。
ドールコレクター達はほっといてもいいでしょう。
彼女達も鬼です。
それも規格外の殺人鬼ですので。
かなりはしょりながら書きましたが思いの外長くなったのでぶった切りました。




