おや、殺人鬼狩りでしょうか。
シスト組には負けないぞ、蓮華ちゃん視点。
こんにちは、蓮華です。
最近、暖かくなったと。
私、ほとんど仕事場に籠もってるので、外の気温なんてどうでもいいんですよね。
雨が降ろうが、雪が降ろうが、風が強かろうが。
でも、今日は久しぶりに外に出ているんですよ。
だから、この気候は都合が良かったです。
で、なんで私が態々外に出たかといいますと。
「ド、ドールコレクター、ま、円さん、あ、あれだ、その、貴方達には、ちょっと、他の殺人鬼達の、だ、その、始末するのだっ」
「駄目だよぉ。全然蓮華ちゃんに似てないよ、それ、ただの円ちゃんだよ」
「うぐ、むずい、レンレンの真似、無理。姉御みたく上手くできない。やっぱり姉御は凄い、なんでもできる」
傍にいるのは、いつもの二人です。
ドールコレクターと切り裂き円、狂った殺人鬼達。
「ちょっと、本人の前でなにやってるんですか。真面目にお願いしますよ」
私の物まねをしてるみたいです。なんですか、まさかいつもやってたんじゃないでしょうね。
「うふふ、ちゃんとやるよぉ。だって今日は蓮華ちゃん自ら出張ってきたんだもんね」
「そうだ、引きこもりのレンレンが、外に出てきた。これは、なかなかの事案、だ」
そうです。私が出てきたのには理由があります。
「シストさん達が仲間をスカウトし始めたみたいです。あちらの戦力が増えるのをみすみす見逃すわけにはいきません。だから、こっちはこっちで妨害します」
私達には今敵対してるグループがいます。
殺人鬼連合。
リーダーのシストさん。この方は謎ですね叩いても埃の一つもでないでしょう。それだけ普通の人です。でも周囲には危険人物が集まってくる。いうなれば魅惑の花のような。
そのシストさんの妹、タシイさん。九相図の殺人鬼と呼ばれてます。彼女はシストさんとはうってかわって超危険人物です。証拠はありませんが、獲物を監禁してありとあらゆる実験を行い記録をとる。
そして、殺人鬼、眼球アルバム。眼球をこよなく愛し、コレクションしてるみたいです。彼女の興味は瞳にしかなく、取り除かれた人達の中には生きてる人もいます。でも、一瞬で奪われるため誰も姿と見ていないんですよね。
シストさん達のお父上が、ちょっと国家の中枢にも影響を与えるほどの人物なので、私も深く踏み込めないのです。なんせ私自身国家の枠組みに組み込まれた存在なので。
「はぁ、今でさえ厄介なのに、これ以上戦力を増やされてはたまりません。てなわけで行きますよ」
「つまり、あれだねぇ。あっちが仲間にする前に、始末しちゃおうって」
「うくく、なるほど、先手を打つのか、そうなのか、やらいでかっ」
理解が早くて助かります。
いつもなら、この二人にお任せするんですけどね。
「今回は私が近くで貴方達を監視します。じゃなきゃ、貴方達はいつもいつも皆殺しにして、本当に、もう関係ない人まで。殺しに殺しまくって、まったく困った人達です・・・・・・」
私ですらこの二人を完全に制御するのは不可能です。
ドールコレクターの知能は私並ですし、円さんはその葵さんを姉御と呼び慕ってます。
もし、彼女達を屈服できる人物がいるとしたら私の知る限り一人だけですね。
白髪で眼鏡のある拷問士のみ。彼女のいう事なら、この二人なんでも聞くでしょう。私の言う事もそれくらい素直に聞いてくれれば苦労もしないのですがね。
「で、蓮華ちゃんどうするの?」
「そうですね、シストさん達は南に向かいました。私達は北に進み、潰していきましょう」
あちらは犯罪者クラブや他の機関から情報を得ているはずです。
こっちは私が自ら掴んだものでいきますか。
「まずはB市に向かいます。あそこには、ブルー・サタデーと呼ばれるシリアルキラーが潜んでいます。管轄外だったので手を出してませんが、今だに犯行を重ねていますね」
「うふふ、殺人鬼狩りだね。殺しても怒られない。どんな人かなぁ」
「うくく、今日は土曜日、丁度、奴が動く」
さぁ、行きましょう。
深緑深層のマーダーマーダー。私がそう呼ばれる所以、久しぶりにお見せいたしましょう。
B市に着いた頃には、もう辺りは真っ暗でした。
「ブルー・サタデーの標的は決まっています。長い黒髪の女性。ですので、ドールコレクターお願いしますね」
「は~い」
ドールコレクターは金髪ですけど、元々これもウィッグです。だって本物の髪はもうリョナ子さんにむしり取られているから。彼女の体は二度の執行でもう傷物なのです。
用意していた黒髪のウィッグを手渡します。
この2週間、土曜日に犯行はありません。
標的が見つからなかったのか、自重していたのかは知りませんが。
見た目だけなら可愛らしいドールコレクターを見て、我慢できますかね。
もう、そろそろ抑えられないんじゃないですか。
早く、その姿見せて下さい。
犯行は、通り魔的。後ろから近づき、数カ所刺してそのまま逃走。
被害者はすぐに病院に運ばれますが、そのまま息絶える場合も多数。
おあつらえ向きな舞台を用意。
パトロールなどの警戒も要請して止めました。
夜道を無防備に歩く黒髪のドールコレクター。
その後ろから近づく怪しい人影。
ニット帽を深くかぶり、口はマスク。そして手にはナイフが。
その人物は無言で、駆けだすと背中を向けていたドールコレクターに刃を向けます。
そして、そのまま、腕、太股に、ナイフを刺しました。
ドールコレクターが膝をつくと、その人物はその場から一目散に逃げ出します。
私と円さんは影に隠れてその様子を見ていただけです。
別に追いかける事もしません。
私達は通報する事もなく、しかし、すぐにサイレンの音が耳に届きました。
けたたましい音と赤い光を放ち、救急車が現場に到着。
ここで、私達は物陰から身をさらします。
そして、刺されたドールコレクターの元へ。
運ばれたのはこの土地で唯一の大きな病院でした。
到着し真っ直ぐ手術室に運ばれるドールコレクター。
少し遅れて若い医師も中に入り、治療に取りかかります。
そこで、医師が見たものは。
「どうも、どうも~」
笑顔でピンピンしているドールコレクターでした。
看護師は元々いれていません。すでに色々手回しは終えています。
「なっ!? お、前・・・・・・え、たしかに・・・・・・なんで・・・・・・?」
驚愕してますね。
それはそうでしょう、ナイフで刺したはずの女が、元気に立ってるんですから。
「こんにちは。はじめましてですね。ブルー・サタデーさん」
扉の外にいた私も中に入ります。ここまで一緒に救急車にのって来ました。勿論救急隊員には事情は説明済みです。
「彼女は無傷ですよ。刺したのは義手と義足ですから。そこをうまく刺されるよう彼女は動いたのです」
最初から目星はつけてたんです。
被害者は必ずここに運ばれます。当直の医師も決まっていた。
「今の表情で確信しました。ブルー・サタデーが貴方だと」
「は? なんの事だ、私は・・・・・・知らない、土曜日はいつもここにいる、通り魔の事件とは関係ないっ!」
「おや、おかしいですね。ブルー・サタデーって愛称は一般的でありませんよ。誰も通り魔のことなんて言ってないんですがね。もしかして、なにか心当たりでもありましたー?」
「ちっ!」
医師は、舌打ちをすると私を押しのけ外に出ようとしたんですが。
入り口には円さんが待機してます。
「とりゃっ! うくく、お前は、もう逃げられん、終わりだ」
体を蹴られ、またこの場に押し戻されました。
「代理ミュンヒハウゼン症候群、これは主に身内ですので、死の天使型、それの亜種っていえばいいでしょうか。自分で傷つけ自分で直す。傍目には献身的に治療したり、救えなかった場合本気で悲しむので、なかなか発覚しません。普通、こういうのって看護師や介護士が多く医師は少ないんですけど、貴方はまだ若くここでの評価がよくなかったのでしょうかね。自尊心が高いのか、学習性無力感でもありましたか、なにはともあれ土曜日はいつもここにいる、それが逆に目をつけた要因ですね」
待機時間に病院を抜け出し獲物を探していたのでしょう。
そして犯行を行うと、自分で通報して、何食わぬ顔で治療を行う。
長い黒髪を狙ったのは、過去にそういう女性をなにかあったか。もし救えれば、その患者は羨望の目で貴方を見て、感謝すらするでしょう。本当は傷つけられたとも知らずに。
「現場で取り押さえても良かったのですがね、貴方には余罪がいっぱいありそうです。ちょっと色々聞かせてもらいますね。感謝してください。私がいなかったら貴方とっくに殺されてますよ?」
「ふざけるなっ!」
医師は近くのメスを取ると、私に襲いかかってきました。
「あ~あ」
手を出しちゃいましたか。
穏便に済ませようかと思ってましたのに。
「おりゃっ!」
円さんが、医師の太股にナイフを突き刺しました。
「私の腕を刺したよね、これお返しだよぉ」
ドールコレクターが医師の腕にナイフを突き立てます。
「ああっがぁぁ」
緑色の手術着に赤い染みが広がっていきます。
そういえば、外科医が白衣じゃないのは、補色残像効果とか精神効果のためみたいですね、今はどうでもいいことですけど。
「お二人とも、この手術台に固定しちゃってください。色々聞かせてもらいましょう」
この犯人、なかなか証拠を残してません。このまま黙秘されると面倒です。
「なるべく、早く喋ったほうがいいですよ~? 私が居ますから死にはしないでしょうけど、なんせこの二人、加減というものを知りませんからね」
「うふふ、できるだけ喋らなくていいよぉ。その分、いっぱい遊べるから」
「口だけやらなきゃいい、後はどこを壊そうが、うくく、いいのだ」
自己満足のために何人も殺害したのです。
一般人じゃないなら私も別に止めませんよ。
「だ、誰かぁあぁ! 助けてくれぇれぇぇえ」
いやいや近くには誰もいませんよ。私の権限で人払いは済んでます。なのでいっぱい叫んでください。
「もう、うるさいなぁ」
ドールコレクターがまた体にナイフを刺します。
「ひがぁぁぁっぁぁ」
「早く喋って下さい。まず、今まで何人襲ったか、医師になる前に犯罪は犯してないか、それはいつ、どこで、詳しくお願いします」
「し、知らん、私は関係、ないっ! 誰かぁぁぁ」
「いいぞ、いいぞ、そのまま黙ってる、のだ」
今度は円さんが足を刺します。
「ふあやああぁぁぁ」
室内に絶叫が響く。
「あぁ、安心して下さい。まだ大丈夫です。だってここ病院ですので」
重傷を負ったとしても、貴方と違い、ちゃんとした立派なお医者様が治療してくれるはずです。例え、貴方が医者の面汚しだとしても、使命にのっとり献身的にやってくれますよ。
しかし、逃げだそうとしたのに強情ですね。
私は、痛みで涙を流す医師の顔を見下ろします。
「さっきは死ぬ事はないっていいましたけどね。私的にはどっちでもいいんですよ。ここで自供を得て後を拷問士に引き継いでも、ここでこのまま殺人鬼に殺されるのも。立証できるだけの証拠は後で私が揃えます。でも・・・・・・それはそれで面倒だから、ここで吐け、犯罪人」
目を見開きそう言った後、にっこり優しく微笑みます。
「・・・・・・しゃ、しゃべり・・・・・・ます」
「ふふ、それは助かります」
まずは一件落着ですね。
「うふふ、良い子だねぇ、これはご褒美だよぉ」
「まだだ、まだ終わらん、のだっ!」
「ふがっぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「あ、なにやってるんですかっ!」
喋るっていったのに、この二人はさらにナイフを突き刺しました。
「本当に、貴方達はっ! いい加減私も怒りますよ。あ、そうだ、これリョナ子さんに告げ口しましょうかね」
「あ、ごめんなさい」
「う、もうしません」
たくっ。今は我慢してください。もう少ししたら嫌でも暴れてもらいますから。
でも、あれですねぇ。ブルー・サタデーなんて二つ名まであったのに、蓋を開ければただの薄っぺらい犯罪者でした。
これならシストさんも仲間にする気にもなれないでしょう。
次は引き当てたいですね。
この二人にも勝るとも劣らない、そんな方を。
蓮華ちゃんがいると葵ちゃん達の行動も地味になりますね。




