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なんか葵ちゃん、色々嘘ついてたみたい。

 複合施設内の立体駐車場まで行くと、そこには見ただけで高級なのが分かる白い車が止まっていた。


「さ、リョナ子ちゃん、乗って」

「え? これ?」


「そうだよ。早くしなきゃ、時間がないんでしょ」

「あ、うん」


 とりあえず乗り込むと、そのまま葵ちゃんの運転で目的地に急ぐ。車に全く興味のない僕でも名前だけは知ってる、フェラーリーとかいうやつだ。とにかく音がうるさい。


「ねぇっ! これどうしたの!? まさか自分のっ!?」


 窓を開けているから余計にエキゾーなんちゃらが耳から脳に響く。


「え~? なに、リョナ子ちゃん?」

「だから、この車っ! 葵ちゃんのっ!?」


 一応、僕が同乗してるからか、法定速度は今の所は守ってるようだ。メーターを見る、360キロまで出るみたい。こんなにあって一体どこで出すんだろう。


「あぁ、これ? F430なんて買えるわけないよ。借りたんだよ」

「誰にっ!?」

「え、局長だけど」

「・・・・・・・・・」


 前々から思ってたけど、あの人やはり馬鹿なのかな。

 いや、犯人は防犯カメラ等がチェックされてる電車は使えない。生け贄を用意するにも車が必要だ。逃走に車を使うはず、ならより速い車で追跡するのが得策なのか。

 いやいや別にこんな車じゃなくてもいいはずだよ。ていうか局長とはいえ給料はたかが知れてる。これどうやって手に入れたんだろう。


「よし、飛ばすねっ!」

「ちょっと! 違反だよっ!」

「大丈夫、緊急車両扱いだからっ!」


 車線が増えると葵ちゃんが目一杯アクセルを踏み込んだ。グングン加速していく。


 まさにサイコパスはこれと一緒だ。普通の人は罪を犯そうとすると理性という歯止めがかかる、犯罪者はその留め金が緩い。で、葵ちゃんみたいなのは最初からブレーキが取り付けられてない。一度走り出すとどこまでも駆け抜ける。


 僕は普通に怖い。このスピードで一歩間違えれば、死に直結する。人が高所を怖がるのと同じ理屈だ。

 でも、葵ちゃんには恐怖心などない。風を切って余裕そうだ。


 僕は髪がグチャグチャになるのを嫌がり、窓を閉めてくれるよう頼んだ。


「・・・・・・葵ちゃん、そもそも免許持ってるの?」


 前に執行した時は、たしか17歳だったはずだけど。


「うん、この前取ったよ。仕事で必要だからって。初心者マークちゃんと付いてるでしょ」


 なら良いけど。ってやっぱり駄目だ、初心者が乗る車じゃないよ。

 もう覚悟を決めよう。後は全部委ねる事にするよ。


「葵ちゃん、僕寝るから。目的地についたら起こして。そこが別の世界とかは勘弁してね」

「任せてっ!」


 慢性的な寝不足だからこの音の中でも眠れそう。映画館で寝るのと一緒だ。

 


「リョナ子ちゃん、リョナ子ちゃん、着いたよ」 


 目を開けると目的地周辺についたようだった。


「音で接近がばれるからここから歩いていくね。あの先の森の中だよ」


 目を擦りながら葵ちゃんが指を刺す方向に目を向ける。鬱蒼と木が生い茂る森の入り口。砂利道で車は通れる位には開けていた。


「あの先、ずっと奥に、石で作られた祭壇擬きがあるよ。そこにいると思う」

「じゃあ、もしそこに犯人が居ればできるだけ無傷で確保、居なければ隠れて待ち伏せしようか」


 葵ちゃんが頷く。そしてスカートを捲ると、義足の方のニーソックスに挟めていたナイフを手に取る。そして鞘を外しブレード部分を光らせた。


「・・・・・・葵ちゃん、君に武器の携帯は認められてないでしょ」

「いいんだよ、今回は特別に許可もらったの」


「本当? だとしてもそれは駄目じゃない、確実に殺す気まんまんでしょ」

「そんな事ないよ、使い方しだいだよ」


 葵ちゃんが手にしてるのはナイフというより大きい針のようだ。


 一般的なナイフと形状がまるで異なる。刃はツイスト状に捻れており、中央付近は空洞で穴がいくつか開いてる。それは同じく中にスペースがある持ち手に繋がっていた。柄の先端はキャップのように取り外しができるみたい。


 つまり僕の見立てでは、これは切るっていうより刺す事に特化されてる。刺して捻ると中央の穴から血が入り、さらに柄の蓋をとればそこからどんどん血が抜けていくって構造だと思う。


 なんて恐ろしい武器なんだ。こんなの殺人鬼には持たせちゃ駄目なやつだよ。


「・・・・・・リョナ子ちゃん、携帯の電源は切っておいてね、バイブでも駄目だよ、ちょっとした音で気づかれちゃうかもしれないから」

「あ、そうだね」


 特に疑問にも思わず葵ちゃんの言うとおりに電源を切った。


 僕は葵ちゃんの後ろについてゆっくり森を進んで行く。

 注意深く、獣道を草をかき分けて。


 しばらく歩くと、開けた場所があるのが見えた。そこには人影が映る。

 葵ちゃんと僕は身をかがめ、息を潜めた。


「いた・・・・・・生け贄もいるね」


 葵ちゃんが小声で囁いた。僕も確認する、長身で痩せ型の男、これが今回の対象者だ。右手には包丁らしき刃物。そしてその横には小さな男の子が目隠しだけされて手を引かれている。


 途中でさらったのだろう。その男の子はヒクヒクと泣いていた。


 男は巨大石で簡素に作られた祭壇らしき場所へと近づいていく。


「・・・・・・犯人確保より男の子の安全が優先だ。まずは警察に連絡しよう」

「あ、無理だよ。ここ圏外だもん。私達でやるしかない。それに悠長に待ってられないよ、儀式を始めちゃう」


 たしかに犯人にしてみれば時間がない。すぐに開始するかもしれない。


「・・・・・・人質の安全を最優先、犯人を無傷で確保。・・・・・・できる? 葵ちゃん」

「うん、やってみるね。でも最悪どっちも死んじゃっていいかな?」


「駄目だよっ! 子供は絶対かすり傷一つ付かないようにねっ!」

「あ、うん。がんばるね!」


 不安だ。葵ちゃんの目的は犯人を始末する事。しかも生きてても死んでても構わない。

 元々人の命を物かなにかだと思ってる葵ちゃんがちゃんとやってくれるだろうか。


 葵ちゃんが低い態勢で腰を上げた。その瞬間、顔つきが豹変した。僕の全身に鳥肌が立ち上がる。完全に殺人鬼のスイッチに切り替えた。


「合法的に・・・・・・合法的に・・・・・・クスクス」


 ブツブツ言い出した、目も見開き気持ち悪く笑ってる、これ大丈夫じゃない。やっぱり別な方法を模索しようか、僕がそう思った時には葵ちゃんがすでに飛び出していた。

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