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あのね、審査を受けるの。(後編)

 

  残り三人。

 それを刻々と待ち伏せている時にそれは起こったの。


 スマホがふいに震え出す。着信みたい。


「は~い」


 相手は蓮華ちゃんだった。なんだろ、審査の経過を心配するような人でもないし。


「あ、ドールコレクターっ。ちょっと緊急の用件が入ったのですっ!」


 あら、珍しい。蓮華ちゃんの声に焦りが見える。


「なにかな、こっちはもう少しかかりそうだけど・・・・・・」


 少し嫌な予感がしたの。


「それがですね、リョナ子さんの飼い猫が逃げ出しまして。予防接種の帰りだったらしいのですが・・・・・・」


 あらぁ、それは大変だね。でも、そこまで緊急な用件かな。時間はかかるかもだけど見つけられるんじゃないかな。


「ただ逃げただけなら私だけでも見つけられます。ただ、問題が一つ。最近、頻繁に発生していた動物虐待事件、大元の犯人はちょっと前に捕まりましたが、これに触発された模倣事件も起きてます。どうも、それにリョナ子さんの飼い猫も巻き込まれた可能性がある。防犯カメラを解析した結果、白い猫を数人の学生風の男達が袋にいれて連れ去る映像を見つけました。これが、リョナ子さんの飼い猫だったなら時間がありません。私は引き続き監視カメラをチェックして行方を追いますが、そうなると動けるものがいません」


 なるほどね、リョナ子ちゃん自身には監視をつけてたけど、飼い猫までは指示してなかったからねぇ。

 そして、最悪の結果を考慮して独自に動くつもりなんだね。


「貴方には理解できないでしょうけどね。リョナ子さんにとってその飼い猫は家族です。あの国家特級拷問士のリョナ子さんが・・・・・・泣いてましたよ」


 それを聞いた瞬間、私の中の何かが弾けたの。


「・・・・・・わかったよぉ。すぐに戻るね。私の妹達を全員使って良いから、それまで蓮華ちゃんも全力で探してあげて」


 こうして、蓮華ちゃんとの通話を終えた。


「姉御、レンレンなんだ、なんの用だ?」


 一刻も早く帰らなきゃ。でも、ここで冷静さを失っては駄目。

 急がば回れだよ。


「ごめん、円ちゃん、残念だけど遊びはここまでだよぉ」


 私は歩き出す。待ってる時間はない。もうこちらから行くよ。

 円ちゃんは、これ以上なにも聞かずに私の後をついてきた。



 数分後、前方に二つの人影。

 元から知り合いだったのか、途中で協力したのか。

 今はそんな事どうでもいい。ただただ纏まってくれていたのが嬉しいよ。


「あ、お前はっ!」

「おい、止まれっ」


 二人はこちらに気づき声を上げた。

 相手は男女、どちらも20代くらいかな。

 でも、それもどうでもいい。

 性別、年齢、容姿、そんなのに意味はなさない。


 だってすぐに肉片に変わるから。


 制止を促させたが、私の歩みは止まらない。

 ずんずん、二人に近づいて行く。


「おい、これ以上来ると、問答無用でぶっ殺すぞっ!」

「止まれっ、止まれってっ!」


 あぁ、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い。


 業を煮やした二人組は、左右に分かれて挟み込むように私に襲いかかる。


 ありったけの殺意を、一瞬だけ解放する。

 殺す事だけを考え、殺す事だけを体に命じる。


 二人の真ん中を通り過ぎる。もうすでに背中を見せた二人がどうなってるかは知らない。

 ただ、どさっと二つ、地面に落ちる音だけが耳に届いた。

 

 今まで数え切れないほど人を殺した。だから、手応えでわかる。後ろの二人が生きてるのか、死んでるのか。それに後ろには円ちゃんがいる、万が一息があっても彼女がそれを見逃さない。

 

 だから、私はどんどん進む。

 残りは一人。


 別のルートを来ている可能性は充分ある。


「円ちゃん、悪いけどここから左に行って、その先にチェックポイントがある。分岐してるからそちらを通るかも、もし出会ったら瞬殺してね。そしたらすぐに私に連絡頂戴」


「ういうい、任せろっ」


 ここで私達は二手に分かれた。

 どちらが当たりだろうか。焦る気持ちを抑える。

 本来、詳細が分からない相手を一人で迎えうつ事などしない。

 自分が殺せると確実に思えなければ行動しない。

 不思議だね、この私が自らリスクをおかすなんて。

 これが他者を優先するって事なんだろうか。

 私には、朧気にそう思えた。


 

 当たりは私の方だった。

 

 私の体は血だらけ、鉄の匂いがこびり付いてる。

 相手のほうが先に私に気づくだろう。


 私もただ進んでいるわけではない。周囲を、地面、木々、些細な変化も見逃さない。

 

 だから、男が木の上から飛びかかってきたのにも反応できた。

 太い木、その表面に僅かな泥、そして表皮が削れている。

 バレバレだよぉ。


 振り上げる。体の芯をずらし、ナイフをカウンターぎみに翳した。

 男の顔に深く切り込まれる。


「ひきゃあががあがががあっ」


 男は顔をおさえながら地面を転がった。

 元から大きな傷があったけど、もっとすごいの増えちゃったね。

 私はすぐにスマホを取り出すと、円ちゃんに連絡。


「あ、円ちゃん、こっちにいたよ。さっきの所に戻ってて。止めを刺したら私も合流するよ」


 これでよし。

 私は、そのままスマホから電池を抜くと、ポケットからガムを一枚取り出した。

 中身は口にいれる。


「くちゃくちゃ、後は、チェックポイントを回るだけだね。大丈夫だとは思うけど、一応君には目印になって貰うよ」


 しゃがみ込んでナイフを少しずらして喉に差し込む。もうこの石器ナイフにも用がない。刺しっぱなし。

 男はまだ死なない。ヒクヒクしてるけど、あと数分は生きられるね。


枯れ葉を集めて男に被せる。殺人現場の白線のように男の周りの土をぐるりと靴で取り除く。

 私はスマホの電池を使って、銀紙に火をつけ、それを、男に服に移した。

 火はじょじょに大きくなり、煙をあげて勢いが増す。


 男は朦朧とした意識の中でも体をよじらせ必死に熱さから逃げてる。

 生きながらに刺され燃やされ、どんな感じだろうね。


 アプリ等の使用は禁止されてるからね。方角はアナログ時計を表示させて太陽を使って探るしかない。ここは結構南の島だからその方法だと色々ややこしいかも。でもこうやってもう一つ目印をつければ正確さは増すだろう。


 その後、円ちゃんと再び落ち合って全チェックポイントを回る。

 待ち伏せで一番最初に殺したミストハイドがほとんどのポイントを取ってたから、私達はそれ以上に取らないと。死んだからといっても無効になるとは限らない。こんな感じで裏目にでるとは思わなかったよぉ。

 


 全てを終えて、スタート地点に戻ってきた。

 そこには、進行役の女性が一人私達を出迎えてくれた。


「おめでとうございます。貴方達が最初の達成者です」


 銀縁眼鏡の女は、私達の血だらけの格好を見ても顔色一つ変えなかった。


「他の参加者は全員殺したよぉ。ポイントも全部取った。これでプラチナ会員かな?」


「そうですね、一応、ルール上なにか問題がなかったかなどの最終チェックが・・・・・・」


 あぁ、私には時間がないんだよ。ここまでできるだけ心を落ち着かせてきたけどもう限界だよ。

 もう、本当に無理。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 叫んだ。早く行かなきゃ。リョナ子ちゃんが困ってるんだよ。リョナ子ちゃんが助けを求めてるんだよ。リョナ子ちゃんが、リョナ子ちゃんが。


「ごたごたごたごたごたごた、黙って、今すぐ認定して、そして、その全権限で私達を戻らせて、一刻も、一秒でも、早く、拒否すれば・・・・・・」


 頭を押さえる。押し戻すように、ぎゅっと強く。


「あ、姉御、ど、どうし・・・・・・」


 円ちゃんですら怯え出す。なのに他の人間に拒否権はない。


「・・・・・・返事は?」


 女は顔を惹き尽かせて、ただ頷いた。


「は、はい、い、い、いますぐ、に」


 待ってて、すぐ行くよ。

 リョナ子ちゃんは私を頼ってはくれないかもしれない。

 でもね、でも、私が貴方の力になりたい、そう思うの。

 拒絶されても、私の事を嫌いだとしても。

 どうしようもなく。

 リョナ子ちゃんのためになにかがしたい。




そして、そのリョナ子は。


 あぁ、ソフィ、どこだ。どこにいるんだ。

 僕は大馬鹿だ、なんで逃がしちゃったんだろう。

 久しぶりの外で、ソフィも落ち着かなったんだと思う。

 

 必死に町を探す。足が痛いとか、胸が苦しいとか言ってられない。

 ここは交通量も多いし、最近動物に対する物騒な事件も頻繁に起きている。

 万が一、事件や事故に巻き込まれたら・・・・・・。

 頭によぎる考えを振り払う。


 自然に涙が滲む。僕はソフィがいたからここまでやってこれたんだ。

 どんなに疲れてても、どんなに精神をおかされてても、ソフィが迎えてくれたから。

 

「ん、おー、リョナ子ちゃんじゃない、どうしたの、なんかあった?」


 探してる途中に、声をかけられた。

 

「目黒ちゃん・・・・・・」


 蓮華ちゃんの情報を元に彷徨っていたら、いつの間にかお千代さんの店まで来てたのか。


「・・・・・・飼い猫が逃げちゃって・・・・・・もし、なにかあったらと思うと・・・・・・」


 涙を浮かべて、目黒ちゃんにそう告げた。


「・・・・・・それは大変だ。アタシも探すの手伝うよ。人は多い方がいいでしょ。どうせ、お店も暇だし」


 それはとても助かるけど。目黒ちゃんも仕事があるのに申し訳ない気持ちになる。


「店長もリョナ子ちゃんのためって言ったら了承してくれるよ。あとは、アタシの知り合いにも声をかえよう。人海戦術だ」


 そういって、目黒ちゃんはポケットからスマホと取り出した。


「・・・・・・あ、アタシだけど・・・・・・スト君、ちょっと手伝ってよ、うん、タシイも・・・・・・うんうん、例の・・・・・・そう・・・・・・」


 目黒ちゃんは電話を切ると、その真っ黒な目を細めた。


「アタシの友達も手伝ってくれるって。猫の特徴教えてよ。手分けして探そう」


「あ、ありがとうっ!」


 本当にみんなに感謝だよ。僕のためにみんなが動いてくれてる。

 別の意味で今度は涙が出そうになる。


 すぐに見つけてあげるから。

 お願いします。お願い。

 どうか。

 どうか無事でいてくれ。 

 そして、次回、シスト組が動きます。

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