あのね、審査を受けるの。(中編3)
「あ、円ちゃん、そこ気をつけて」
「ん、なんだ、どこだ、ん、なんかあるのか」
草木をかき分けて、チェックポイントを目指す最中、私はある物を見つけた。
不自然に土の色が変わってる。
「多分罠だと思うよ」
慎重に土を払うと、トラバサミを発見した。
中央の板に足を乗せると、強力なバネで両端の半円型歯が挟み込むトラップだね。
トゲトゲがついてて掛かったら相当痛そう。足の骨なんて簡単に粉砕するだろうね。
「・・・・・・円ちゃん、これ使えそうだねぇ。他にも見つけたら回収していこう」
「うくく、姉御、なんか思いついたか、顔が笑ってるぞ」
しかし、こんな物まで仕掛けるなんて運営も随分非道いよねぇ。
こんなのにかかったら、うふふ、ただじゃ済まないよぉ。
チェックポイントの前で待ち伏せる。
私のルート上、その最終地点に来ていた。
他の参加者が私と同じ考えなら、ここに来るのは最後。
私達は蜘蛛。
それまでは準備を整えて、参加者が現れるのを胸を躍らせて待っていよう。
数十分後、最初に現れたのはミストハイドとか言われてた青年だった。
私より先に出発した人だね。テストも満点だった。
ここまで真面目にポイントを取ってきたんだろう。
想定してたより随分早い。順調だったみたい。
でも、それ全部無駄になっちゃうね。
だって君はここで死ぬんだもん。
私達はこの青年を挟み込むように襲いかかった。まずは気を失わせようと思うの。
「うう・・・・・・あ、僕は・・・・・・一体・・・・・・」
数分後、男が目を覚ました。
「・・・・・・うぅ、く、苦しい、なんだ・・・・・・おい、これは・・・・・・うぅう」
男は自分の状況を理解したみたい。
私達は、男の首にツタを巻き付けて木の枝に吊したの。
つま先がギリギリ地面に付くように調整した。
手首も後ろで縛ったから為す術もない。
蓑虫みたい。
「お、起きた、起きよった。姉御、こいつ目を覚ました、ぞ」
「ん、じゃあ、始めようー」
私達は、石器ナイフを手にして近くに立った。
「・・・・・・う、んうぅ、な、なんだ、や、やめろ、なにする、つも・・・・・・」
他の参加者が来る前に終わらせないとね。
「ちょっとしたゲームだよぉ。じゃあ、円ちゃん、先に殺したほうが勝ちってことで」
「ういうい、負けないぞ、私、負けないのだっ」
先行は円ちゃん。最初にまず私が男を押す事でスタートだよ。
男は振り子のように円ちゃんの元へ向かう。
「とりゃっ!」
「ああがぎゃああ」
〈円活躍中〉
「はい、次、姉御ぉ」
円ちゃんはそのまま男を押し戻す。
今度は私の元に青年が迫ってくる。
「そいやぁ」
〈葵活躍中〉
「いああひゃあやあっ」
腰の辺りに刺さったみたい。これじゃ死なないね。
「はい、円ちゃんっ!」
「ほい、姉御っ!」
何回繰り返しただろう。
男の体が血で染まる。足下へ流れていく。
「あ、姉御、こいつ、いつの間にか死んでる、死んでたっ」
「え、嘘っ、いつ死んだのかな。これじゃどっちが勝ちか分からないよ」
言われて見たら、たしかに男はもう顔を俯かせて動かない。
そういえば、途中から悲鳴を上げなくなったね。
「じゃあ、引き分けだよぉ」
大抵いつもこう。私達はつい夢中になってしまう。
ミストハイドと呼ばれてた男を降ろすと、そこら辺に投げ捨てた。
さぁ、次は誰が来るかなぁ。
10分後くらいに現れたのは風邪マスクをつけた女。
名前なんだっけ、ムーンなんたら望だったかな。
かなり慎重に周囲を伺ってる。でも、どれだけ注意を払っても意味はないの。
私達が同時に襲いかかって防げるものでもない。
ツタで手足を縛る。そのまま地面に転がした。
「な、なに、なんなのあんた達、私を、どうする気っ」
マスク越しからくぐもった声で必死に叫ぶ。
「え、なにって、殺すんだよぉ。私、筆記試験の後宣言したよ、覚えてないかな?」
女の顔がどんどん青ざめていく。
「ちょっと、嘘でしょ。な、なんで、殺されなきゃならないのよ、はぁ、ば、馬鹿じゃないないの、え、冗談でしょ、ほんと、やめてよ、なんなの、まじでやめなさいって」
この子こそ馬鹿なんじゃないのかなぁ。
とんでもない思い違いをしてるよ。
「う~ん、君ってここにいるんだから悪党だよね。悪党がまともな死に方できるはずないんだよぉ。え、なにかな。君、家族に囲まれて老衰で死ねるとか思ってたのかな?」
人の道を外れたんだから、普通の人と同じ幸せな最後なんて望めないよ。
私や円ちゃんだってろくな死に方できないって充分理解してるよ。
私達は屑なんだから、一般人と同じ人生なんて最初から歩めない。
悪い事をしたらそれだけのリスクは背負わないと駄目だよ。
どこで殺されようが、どんな殺され方しようが、それは犯罪に身を染めた自分の責任。
「円ちゃん、トラバサミ取ってくれる」
「ういうい」
まずはどんな感じか縛った両足で試してみよう。
「円ちゃん、私が足を持ち上げるから、その間それ設置して」
「ういうい、了解」
「ちょっとっ、ちょっとっ、えええ、ちょっとぉぉぉぉ」
円ちゃんが罠を置いたのを確認すると、私は持っていた女の足首を放した。
〈葵活躍中〉
「ひががががあっぁぁぁぁっぁぁあ」
〈葵活躍中〉
「おう、凄い威力だね」
「うくく、面白い」
「じゃあ、今度は・・・・・・」
「うくく、そこだな、そこでいいんだな」
私は女の頭を持ち上げた。
「んあああ、や、やべで、やべでくだざいいい、おえがああいします、それだげは、それだげわぁ」
円ちゃんが頭の下に罠を滑り込ませた。
「姉御、おっけー、いける、準備、おけ」
「よ~し、じゃあ、いくよぉー」
「やああああべえでぇえぇぇぇ」
私は女の声には耳を貸さずに手を離した。
するりを私の手のひらから頭部が抜け落ちる。
その頭は、罠の中央の板へ。
〈葵活躍中〉
「うふふ、すごい顔だね」
「うくく、ゾンビも裸足で、逃げる」
ピクピクしてるけど、これ以上は反応ないだろうし邪魔だから奥に運ぼう。
「ん、姉御、奥になにかあるぞ、なんだ、湖か?」
「最初にマップ見た感じ、それほど広くなかったから多分池だね」
お、閃いた。
「次の参加者はあそこに投げ込もう」
「ん、泳げる奴だったら、逃げちゃう、逃げられるぞ」
そこはちゃんと溺れるようにするよぉ。
というわけで、次に来たホールマウンテンなんたらさんを、私達は拘束して池に投げ込みました。
ホールマウンテンさんは鍛えられら肉体をしていたので、体脂肪も余りなさそう。
衣服はもちろんそのままで、ちゃんと水を飲むように口を無理矢理太めの木の枝を詰め込んで開かせたの。もうこれは溺れるしかないよぉ。
一度沈んだら再び戻ってくれるのは死体にガスが溜まってからだね。
「うくく、必死に藻掻いてるぞ、顔だけなんとか、出して、金魚か、金魚なのかっ」
「パクパクもできないけどねっ」
ゆっくり見物してたいけどこの間にまた別の参加者が来たらまずいね。
もう戻らないと。
さ~て、後三人かぁ。
うふふ、どうやって殺そうかなー。




