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あのね、審査を受けるの。(中編)

馬乗りになった私は、女の首を絞める。

 両手は円ちゃんがしっかり押さえていた。


「ん、あがっ・・・・・・ん、んんぅぅ」


 いいね、いいね、いいね、女は両目を大きく開いて、呻きと涎が口からあふれ出る。


 私達はもっぱらナイフを多用してたからね、こういうのもまた一興だよ。

体重をかけ、きつくきつく締め上げる。


 あ、あ、あ、いい、その表情、最高、もう少しで死んじゃう。死んじゃう顔。

 私を見てる、目がしっかり合ってる。

 苦しんでる、なんとかしようとしてる、でも無理、もう死ぬの、貴方はここで、今日初めてきたであろうこの島で、死ぬしかない、殺されるだよ。私が、この私が、これまで生きてきた貴方の道をばっさり閉ざすの。


「あ、あ、もう死ぬ、この子、死ぬよ、ああ、いく、いっちゃう。あ、あ、あ、死ぬ」


 僅かな抵抗が切れた。女は動かなくなった。

 うふふふふ、これは癖になりそうだよぉ。


「やったか? もう放していいか? いいな、姉御、いいなぁ、私もやりたい、のだ」


「あぁ、ごめんごめん、次は円ちゃんにも楽しんでもらうよぉ」


 お気に入りの服は泥で汚れてしまった。

 二人ともゴスゴスしてるからね、こんな所で動き回る格好ではない。


「さぁ、行こうか。目的地に向かって。もし参加者がいれば見つけ次第殺す。うふふ、次は誰が私達に出会うのかなぁ」



 時は20分前。


 外に出された私達に最終的なルール説明が行われた。


「皆さん、武器はここに置いていってください。もし隠し持ってるのが後に判明した場合問答無用で失格となります」


 あら、そうなのか。まぁ、理由はなんとなくわかるよ。


「参加者様達の公平性を期すための処置でございますのでご了承ください」


 そうだね、別にここにいる犯罪者はなにも殺し屋や殺人鬼だけじゃない。窃盗犯や詐欺師だっているもんね。


「そして携帯等は万が一のために持っていても構いません。しかし、アプリ等の使用は禁止させてもらいます。方位磁石は勿論、マップなども厳禁です。使用履歴は調べればすぐわかりますのでくれぐれもご注意してください」


 まぁ、当たり前か。マップみたら覚える意味がなくなるもんね。


「出発の順番ですが、これも先と後では不利になる場合があります。ですが、同時というのもゲーム性が薄れます。ですので、第二次審査の筆記試験の結果で順番を決めさせてもらいました。点数の高かった順に出発してください」


 まぁ、同時だと色々面白くないよね。マップを覚えられなかった人もいるだろうし。そうなるとぞろぞろ先頭についてくるかもしれない。


「では、まず満点だったドールコレクター様、そして切り裂き円様、モンキーフライ様、ミストハイド様、デスサイズ由利様は、ジャンケンにてさらに順番をお決め下さい」


 ふむ、私達の他に満点は三人か。意外に少ないね。しかし、円ちゃん満点てことは全部私の合図をちゃんと分かったって事だね、やはり彼女は優秀だよ。


「あ、最初はグー、あ、ジャンケン、ポンっ!」


 数回のあいこの末、勝負はついた。

 

「決まりましたね。では、ミストハイド様、ドールコレクター様、デスサイズ由利様、切り裂き円様、モンキーフライ様の順で、5分間隔で出発してください」


 私が2番、円ちゃんが4番目か。円ちゃんと合流するためには10分待たなきゃだねぇ。 


 先頭が先に出立、5分後私も森に入る。

 武器と交換にタブレットを手渡される。

 チェックポイントで使うみたい。

円ちゃんも地図は覚えてるはず、ルート上の少し先で待ってようかな。


 しばらく進むと大きな岩があった。そこに腰掛ける。

   

 鳥の鳴き声、周囲は鬱蒼としている。虫除けスプレーを持って来てて良かった。


 背の高い木々が日差しを遮る。

 僅かな気配、視線。

 私はとっさにそちらに目をやる。


「あ、あの~・・・・・・」


 振り返ると、女の姿があった。

 

声をかけてきたのは、ピンク、というよりベージュ色の緩く捻れた髪、おっとりとした感じ、右手にはギブスをしていた。


「ん、なにかな?」


「あ、私、デスサイズ由利って言います。主にハッキングなどをやっておりまして。見ての通り貧弱ななりでございます。他の参加者は殺人鬼や殺し屋などがおりまして、私が一人で行動するには不安が残ります。そこで、先ほど他の参加者をあっさり殺した貴方とご一緒させてくれないかなぁーと・・・・・・」


 ふ~ん。なるほど、ハッカーなのかぁ、へぇ。


「うん、いいよぉ~。でも、ちょっと慣れない山歩きで疲れちゃって休んでる最中なんだよ」


「ありがとうございます! あぁ、たしかに足場も悪いですしね、私もきつかったです」


 私はあっさり了承した。

 デスサイズ由利は、笑顔でこちらに駆け寄ってきた。


 そして。


 隣に来た瞬間、その右手のギブスで私に殴りかかってきた。


 刹那、私の高く蹴り上げた足とギブスがぶつかる。

 つま先でピタリと止まり、その状態で私達は膠着する。


「なんだよ、なんで分かった、あぁ?」


「決まってるよぉ。最初に声かけてきたとき、息を殺して後ろから近づいてきたし、そんなぎらついた腐臭まみれのハッカーなんているのかなぁ~」


 由利の表情が180度変わった。


 私達はお互い笑い、そして離れる。


「デスサイズ由利なんて名前の時点で、もう殺人鬼かなにかかな。それにね、私は誰であろうが信用しないよ。それは一緒に仕事をしてる仲間でさえね」


「むかつくわぁ、お前、さっきもでかい口叩いたし、まじ殺してぇ~」


 さて、あっちのギブスは勿論フェイクだね。あれ自体が鈍器になってる。中に鉄でも仕込んでそう。それは私の靴も一緒だけど。


「悪いけど、私は逃げるよぉ。ナイフもないし、そっちの力もよくわからない」


 そういうと、私は背中を向けて走り出した。


「あ、てめ、待て、こらっ!」


 足場が悪い上に、この格好だからうまく走れないね。

 デスサイズ由利もそれは一緒で、追いかけてくるけど距離は縮まらない。


「なんだぁ、さっきあれだけ啖呵切っておいて、逃げんのかよっ! 腰抜けかっ! 弱カスっ、結局口だけの小者だな、てめぇはよぉ」


 歩いて来た道を必至に戻る。

 来る時は緩い下り坂だったから、今は逆に上り坂、スピードは自然に落ちる。

 

 あっちも全力で私の背後を捕らえようと付いてくる。


 やがて、目に入る。一つの人影。

 

 私は構わず走り続ける。前方にいる者と視線が交差する。

 その者を走り抜き、二つの影がすれ違う。

 その時、位置をスイッチ、もう一つの影は宙を飛んでいた。


「あっ、お前はっ、や、やべべ、う、ぎゃぁっ」


 突然、跳び蹴りを食らって、デスサイズ由利の体が坂を転がる。


 ここで漸く私は足を止めた。

 踵を返し、由利の元へ。


「ナイス、円ちゃん」

「うくく、なんだ、こいつ。よく分からないけど、とりあえず、攻撃して、みた」


 倒れた由利が立ち上げる前に、円ちゃんがその胸に足を置いて押さえ込む。

 その場に来た私は脇腹目掛けて蹴りつけた。


「うががぁぁぁぁぁ」


 固いつま先が、柔らかい肉を突く。

 一度じゃ済まない、とりあえず4、5回やっとこう。


「次の順番が円ちゃんじゃなかったら逃げなかったよ。この道はチェックポイントを通る時点で最適最短ルート。円ちゃんがここを通るという前提で私は戻ったの」


 さっき私は誰も信用してないと言ったけど、少なくとも円ちゃんを含む妹達にはある程度は割り振ってる。

 ちゃんと、円ちゃんは私の思考通りに動いてくれる。


 私は由利の体を足で反転、背中を向けさせる。


「姉御、こいつ、どうする、どうしちゃう」

「そうだね、とりあえず、腰折っておこうか」


 動かれると何するか分からないからね、行動不能にしとかなきゃ。


 円ちゃんに両足を持たせて浮かせてから、腰を踏みつける。使い物にならないほど何度も振り下ろす。そのたび、絶叫が森に木霊していた。


「これで動けないね。じゃあ、もう殺しちゃおう」


 また仰向けにすると、私はその体に腰掛ける。

 そして首に両手を。


「うふふ、散々言ってくれたよね。腰抜け、弱カスだっけか。間違ってはないよぉ。何を言われようが何をされようが、私は私の考える最善策をとる。じゃなきゃ、こうして死ぬ事になるんだよぉ」


 力を込める。締め上げる。


「やめっ、ごめん、なさ、い。許し、て、ごめ」


 まだ喋れるんだね。でもそれが貴方の最後の言葉だよ。

 

「じゃあね、バイバイだよぉ」


 満面の笑みを送り、一気に両手に体重を乗せた。



一応、後続に気を配ってたけど来なかったね。

 違うルートを目指したか。

 最初にどっちに向かったかさえ分かれば大体予想はつくしね。

 5番目のモンキーフライはあえて外したのかな。



「ちょっと先に進んだら隅に隠れてよう。6番目はここを通るかもしれない」


 時間的に後、数分待てばここに姿を現すかも。


 私達は木々に隠れて標的を待つ。

 ビンゴだよ、周囲をキョロキョロ警戒しながら小太りの男が現れた。


 あれは、ホールマウンテンなんちゃら。危険な匂いはしないから、あれこそ窃盗犯とか詐欺師とかの類いだね。


 じゃあ、不意打ちするまでもないね。

 私達は立ち上がり堂々と姿を見せた。

 男はびくっと体を震わせる。


「うふふ、み~つけた」 


 さぁさぁ、こいつはどうやって殺そうか。


   

木に絡みついていたツタを取る。いくつか束にしてロープの代わりにするの。

 男の首に巻き付けると、大きな岩場の上に立たせる。


「あ、姉御、私、私やる、私にやらせてっ」

「いいよぉ。約束だからね、今度は円ちゃんがやりな」


 一応、ロープの長さには規定があるの。体重から長さを逆算する。

 この人の体重は86キロって言ってた。だとすると丁度いい長さは168センチ。私の身長より少し長くすればいい。縄が短すぎると死なないし、長すぎると運動エネルギーが掛かりすぎて首が取れちゃう。

 

「うぅ、勘弁して、やめてくれぇ」


 あらら、泣いちゃった。男の顔はもう腫れ上がってる。タブレットの角で何度も殴ったからね、その甲斐あって抵抗しなくなったんだけど。さすがにこの状態でここから落ちたらどうなるか予想はつくか。


「いくっぞ~、いくぞ、いくぞぉー」

「いっけ、いっけ、一気にいけぇー」


 円ちゃんが男のお尻を蹴って、岩場から突き落とした。

 男の首と繋いだツタは少し後ろの太い木に縛ってある。

 

「あぁぁぁっぁぁぁあ」

 

 勢いよく落ちる。私達はすぐに顔を出して下を見下ろした。 


「あ、首取れちゃったぞ、失敗だ、首どっか転がっていったっ」

「あらぁ、少し長かったかぁ。でも、あれだね、死んだからどっちでもいいよね」


 これで二人。

 後、8人もいるのか。


 ここで重要な事に気づいた。

 殺すのに夢中で、チェックポイントに向かってない。


「やばい、他の参加者が先に全部クリアしちゃったら駄目だよね、ちょっとゲームもちゃんとやらなきゃだよ」

「じゃあ、先にチャックウイルソンを回る、回ったほうが、いい」


「チェックポイントね。そうだね、ポイントと命をどっちも均等に取っていこうか」


 こうして、私達はさらに森の奥へと足を踏み入れるのでした。

 やばいですよ。全然オリエンテーリングやってませんよ。これ後編で収まるんでしょうか。

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