あのね、審査を受けるの。(前編)
今、私こと葵と円ちゃんの二人は孤島に来ているの。
小国家が保有する諸島の一つ。
なんで私達がこんな所にいるかというと。
「ドールコレクター、円さんっ。いよいよシストさん達殺人鬼連合が動き出しそうな気配がしてきました。そこで、少しでもこちらの有利になるように、貴方達には犯罪者クラブのプラチナ会員になってきて頂きます。貴方達宛にプラチナ会員の審査試験実地の案内が来てますのでちょっと行ってきてください!」
「うひゃくく、うひゃくく、似てる、なんで、そんなに似てるんだ、姉御、レンレン、まぢ、まぢレンレン」
最近、私が蓮華ちゃんの真似をするのが二人の間で流行っているの。もう円ちゃんはいつも大受けしてくれるから私も調子に乗って何回もやっちゃう。
ま、そんなわけで私達はここにいます。
「何人くらい来てるんだろ。クラブ自ら案内を出すくらいだから相当の悪党だけだよね」
クラブの案内には場所は書かれてなかった。つまり、まず会場を探し当てる時点でもう選別は始まってたって事。私達の場合、すでに蓮華ちゃんが見つけてくれていたけど。
島の一番高い場所を目指す。登っていく最中にもその建物は見えていた。
白くて高さは無いけど横に広そうだね。
入り口から中に入ると覆面をした係員がいたの。
「案内状のご呈示をお願いいたします」
「あ、はーい」
「・・・・・・ドールコレクター様と切り裂き円様ですね。確認いたしました、こちらへどうぞ」
奥へ進む係員について行く。
「こちらでございます」
中に入ると、大学の講堂のような室内だった。席が段で配置されて一番前には大きな黒板がある。そこには十数人の人達がバラバラに座っていた。何人かは入ってきた私達に視線を送る。全く無視する人もいるね。
入った瞬間、ムワッと禍々しい雰囲気が体に当たる。へぇ、これはなかなか。
「あ、適当に座ってください。時間的に貴方達が最後ですかね。もうしばらく待ったのち説明に入りたいと思います」
黒板の前にいるのは、一人の女性。銀縁眼鏡でスーツを着こなしきりっとしている。進行役かな。
数十分後。結局私達の後には誰も来なかったの。
「時間ですね。では、さっそく説明に入らせて頂きます。まず、この場におられる皆さんはすでにゴールド会員様です。ここからさらに上のプラチナ会員になるためには、いくつかの審査に通る必要があります。ここにいる時点で皆様は第一次審査は合格となります」
会場を探し当てるってやつだね。私達の場合、蓮華ちゃんが調べてくれたんだけど。
「では、さっそく第二審査を行いたいと思います。第二審査は筆記試験となります。犯罪者クラブを支援して下さる方々は各分野の大物達でございます。その方々に迷惑がかからぬようある程度の知性は必要と考えております、それなりの難問ではございますが、合格ラインを90点以上と定めさせて頂きました。10分後に開始しますので、それまでしばしご休憩くださいませ」
ふむふむ、簡単に捕まったりして情報を漏らしたり、逆に内部を探ろうとする馬鹿を出さないためかな。
ま、どんな難題でも私なら大丈夫だよね。
そう、余裕を見せていたら、隣の円ちゃんの顔が青ざめていたのに気づいたの。
「な、なんだ、筆記試験てなんだ、なぞなぞか、じゃなきゃ、無理、私には、無理、無理、殺しは得意、でも勉強なんてしたこと、ないぞ、ないない」
円ちゃんは汗をダラダラ垂らしながら、私の顔を見た。
「ど、どうしよう、姉御、どうする、私、ここで、落ちる。いきなり不合格、え、どうしたらいい、姉御、あああ」
あらら、今にも泣きそうな顔をしてるよ。こんな円ちゃんを見るのもまた新鮮ではあるね。
「う~ん。円ちゃんは頭は悪くないと思うんだよぉ。だからね、ちょっとズルしちゃおうか」
後、10分弱か。いけるかなぁ。
「今から言う事を全部覚えてね」
「う、うん。姉御、頼む、お願いします、覚える、から」
要はカンニングだね。円ちゃんには、私の仕草で分かるように、数字、アルファベット、平仮名、記号の全パターンを今から覚えてもらおう。
例えば、シャーペンの芯を何回出して、指で机を何回叩けば数字の3になる、みたいな感じで。
「時間がないから一回で覚えてね」
「う、うん、やる、やらいでかっ!」
こうして、時間ギリギリまで今しがた作ったパターンを円ちゃんの頭に叩き込む。
「これで最後だよ。どう? 覚えられた?」
「た、多分、だ、大丈夫、大丈夫な、はず、だ!」
どれ、確かめてみようかな。
私は、机を指で軽く三回、トト、トンと叩いた。その後、ふぅと息を吐く。
「さ、これはなにかな?」
「え、えと、えと、平仮名の(さ)だっ!」
お、正解だね。
「うん、当たりだよ。一応後何個か出すね」
続けていくつかのパターンを確かめたけど、円ちゃんは問題なく答えた。
やっぱり私が見込んだ妹の一人、これくらいはできるよね。
「いいねぉ。これなら大丈夫。後、本番は極力素早く小さな動作でやるからね、ちゃんと聞き分けるんだよ」
「わ、わかった、が、がんばる、のだっ!」
漢字までは流石に無理だから、ちょっと解答が不自然にはなるけどいいよね。ここにいるのは元々犯罪者だけなんだし、真面目な人なんていないよ。
そして、時間通りに筆記テストは開始され。
「結果を発表いたします。合格者12名、不合格者2名となりました。不合格者は・・・・・・」
一瞬、円ちゃんじゃないかとヒヤリとしたけど違ったみたい。
うふふ、思ったより簡単だったしね。
それでも、あんな問題解けない人がいるのにびっくりだよぉ。
「ふざけんじゃねぇぇっ!」
「おらぁっ! なんだ、この審査は、筆記試験なんて関係ねぇだろがぁぁっ!」
不合格になったと思われる男が二人、大声を上げながら立ち上がった。
その風貌は、世紀末の荒野をバイクで爆走してそうな感じ。
「納得いかねぇっ! ここにはレベルブレイカーが混じってるじゃねぇかっ!」
「そうだっ! レベルブレイカーってのは、捕まった間抜けの総称だろうがっ! そいつらが合格でなんで俺らが不合格なんだぁ、ごらぁあっ!」
う~ん。確かにそうだねぇ。多分、ここにいるレベルブレイカーは私と円ちゃんだけだろうね。そもそもレベルブレイカーなのにこうやって外で自由に行動できるのがおかしいんだけど。
「おらぁ、お前だ、お前っ! ドールコレクターだがなんだかしらねぇが、お前らが俺らの代わりに辞退しろやっ!」
「無能な警察に捕まるカス共がっ! てめぇらがここにいるのがおかしいんだよっ!」
二人は私達の前に来て、いきり立つ。
言ってる事はありがち間違ってはないね。
でもね。
一つだけ違うよ。
「あの~、不合格者はこの後もう用済みかなぁ?」
私は、男達を無視して、黒板前にいる進行役のメガネ女性に声をかける。
「そうですね。速やかに退場頂けるとこちらも助かるのですが・・・・・・」
聞いた瞬間、私の体がぶれる。
それに反応して隣の円ちゃんも続く。
私は前にいた男の髪を掴むと、机に顔を思いっきり叩き付けた。
円ちゃんは、指に挟めた二本の■■を、もう一人の男、その鼻目掛けて腕を振り上げる。丁度二つの鼻の穴にすっぽり収まり、奥まで一気に■さる。
「ふぎゃややあぁぁぁぁ」
室内全体に響く轟音と絶叫、動かなくなった男から出た血が机に広がっていき、もう一人は顔を押さえ狂ったように体を揺らせた。鼻からは大量に鮮血が噴き出す。
「うふふ、用済みだってさ。たしかに私は捕まったよぉ。でもね、私を捕まえた人は無能でもなんでもない。あの深緑深層のマーダーマーダー。蓮華ちゃんが本気を出せば君達なんて一時間とかからず捕まると思うよぉ」
「うくく、私を捕まえたのは、この姉御、だ。姉御以外で私を追い込めるやつは、いない、いるわけが、ない」
言い終えると、私は机に顔をつっぷり動かなくなった男の首元に■■■を振り下ろし止めをさした。
円ちゃんも喚きながら暴れる男のこめかみに■■■を振りかざした。
糸が切れた操り人形のように、崩れながら床に倒れる。
私達を馬鹿にした奴らには退場してもらうの。でも少なからずレベルブレイカーを卑下してる人達は他にもまだいるよね。
だから、早々と教えておくよぉ。
「私達は好きな時に殺すよぉ。気にくわなければ殺す、敵対すれば殺す。気分しだいですべからず自由に殺す。文句があるならいつでもどうぞ~」
「うくく、お前ら、いつでも、かかってこいっ! 殺るっ! 殺るったら殺るっ!」
そう宣言した瞬間、ものすごい殺気がまとまって私達に飛んできた。
でも、全く効かないの。
逆に、こっちも殺意をもって答えてあげるよ。
室内はもう闇が渦巻く空間に変わってた。
「こ、こほん。皆様、よろしいでしょうか。そろそろ次の審査に移りたいと思います」
一色触発の殺し合いに発展する寸前の所で、進行女性が空気を破った。
「三次審査は、島全体を使ったオリエンテーリングとなります。まずはルールを説明いたします。中央の画面をごらんください」
黒板の上を引っ張ると白いボードが落ちてきた。
室内は暗くなり後方からプロジェクタの光がボードに画像を映す。
第三次審査、ルール説明って文字が出てる。
「島のマップ、およびチェックポイントを一瞬だけ映しますのでそれをまず記憶してください。チェックポイントではこれから渡す端末によって様々な指令が表示されます。それによりポイントが加算されますので、それを競い合っていただきます」
なるほど。これは中々楽しそうだね。
「では、はじめにマップとチェックポイントを一瞬だけお見せします」
女の人が言ったとおりに数瞬の間、島の全体図がうかんだ。
目に焼き付ける。脳に刻んだ。もうこの時点で私の頭の中では最適なルートを導き出していたの。
「次に、皆さんには外へ出て頂きます」
私達は言われた通りにまず部屋を出た。
先に出たからかな、背中に他の参加者からの敵意がビシバシ感じるの。
残りの人達全員に喧嘩を売ったようなもんだしね。
廊下を歩いていると、私の携帯がブルブル震えだした。
「ん、電話だ。・・・・・・蓮華ちゃんか。なんだろ」
私が着信に応じると、電話の主から明るい声が届く。
「あ、蓮華です。どうです、調子の方は?」
「あ、うん。なんか審査があってね、二次が通って今三次が始まるとこだよぉ」
「順調そうで何よりです。それでですね、一つ問題が発生したんですよー」
そういってるわりにはいつもの軽快な調子は変わらないね。
「なにかあったのかな?」
「はいー。実はですね。参加者の中にシストさんの仲間が紛れてるみたいなんですよ。新しく仲間にした殺人鬼だと思うんですけどね、やはりシストさん側も犯罪者クラブの恩恵は受けたいみたいで、一人送り込んだみたいです」
「ふ~ん。そうなんだぁ。それでどうすればいいの?」
「それは勿論、あちらに有効な手立てを与えるわけにはいきません。見つけ次第排除しといてくださいね。それでは、また~」
で、でた。一方的に条件を出してこちらの反応を見ない内に話を終える、蓮華スタイル。
蓮華ちゃんも毎回簡単にいってくれるよねぇ。非道い雇い主だよぉ。
「姉御、レンレンなんだ、なんだって?」
「う~ん、なんかね、この中にシスト君の仲間がいるみたい。だから見つけて始末しろってさ」
「ん、どいつだ? マスクしてたやつか? 顔に大きな傷があったやつか?」
「分からないよぉ。でも、こういう時どうするか、この前教えたよね」
蓮華ちゃんがいうんだもん、この中にシスト君の仲間が確実にいる。
それだけ分かってれば、後は簡単だよ。
「うくく、私、知ってるぞ、この前、教えてもらった! こういう時はあれだ、あれすればいい」
「そうだよぉ。こういう時は・・・・・・」
私達は同時に口にしたの。
「参加者全員、皆殺し」
さぁ、楽しい楽しい、オリエンテーリングが始まるよぉ。




