なんか、殺菜ちゃんが手伝ってくれるみたい。
ドカッとパイプ椅子に座り込む。
血だらけの手袋を脱ぎ、机に投げた。
時刻は午後十二半。
午前中で終わらせる予定の執行は、少しオーバーしてしまった。
「つ、疲れたぁ」
特級拷問士の数が減って、そのしわ寄せは現場の僕らにダイレクトに伝わる。
一級からサポートを借り、なんとかこなしてはいるけど、如何せんレベル6以上は特級しかできない。
今執行した罪人は職員が部屋から連れ出していく。
時間を押したから昼食を取る余裕がない。
「次の罪人、入ります」
息をつく間もなく次が来た。
うへぇ。もう過労死しちゃうよぉ。
「とりあえず、吊しちゃって・・・・・・」
職員が準備を終えるまでは少し休めるね。
あっという間に準備は整った。
もう少しゆっくりやってくれても良かったのに。
よしっと気合いを入れて立ち上がろうと思ったら、職員と入れ違いに別の子が入ってきた。
「ちょーす、リョナっち。頑張ってるっすかー」
姿を見せたのは、同じ特級の殺菜ちゃんだった。
「お、どったの?」
殺菜ちゃんも忙しいはずだけど。
「今日はちょっと張り切って三時間前からやってたら、ちょっと手が空いたっす。だから手伝いに来たんすよ」
おぉ。まじか。三時間前って。
なにはともあれ助かるよ。
「お昼まだっすよね。私がやってる間に済ましちゃって欲しいっす」
「いいの? それはありがたいけど殺菜ちゃんも疲れてるでしょう?」
僕がそういうと、殺菜ちゃんは腕を回して舌をペロリと出した。
「全然いけるっすっ! むしろもっと執行したいっすよっ!」
凄い。元気だなぁ。拷問士の鏡だね。
「じゃあ、軽く口にするからお願いしちゃうよ」
「任せるっすっ!」
お言葉に甘えて、朝買っておいたパンを囓ろうか。
殺菜ちゃんは書類を手に取る。罪人のデータを頭に入れていく。
次の罪人は少女だね。改めてみると、この罪人かなり若い。未成年かな。
「はぁん。こいつ、本来レベル5なのに、未成年て事でレベル4まで下がってるっすね」
殺菜ちゃんがさっそく動いた。
罪人に塞がれていた猿ぐつわを外す。
「後輩の少女を集団でリンチして、生きたまま地面に埋めたと。これはまた鬼畜の所業だわ。被害者からは普段から金を要求してたんだってな。もう払えないといったら今度は暴力か。あぁなんだ、なんだんだ、お前」
殺菜ちゃんは、少女の髪を掴み顔を上げさせる。
「裁判時の参考書類見たぞ、なに、お前、この死んだ少女の分の命を背負って生きるって? 深く反省してるって? ふ~ん」
少女は、震えながらコクコクと顎を動かした。
「じゃあ、聞くわ。背負うってどういう事だ? 反省してるって誰が決めるんだ? 自分かっ!? 被害者家族かっ!? 具体的に言ってみろや」
「・・・・・・そ、それは、えっと・・・・・・」
殺菜ちゃんは、ペンチを取り出し少女の頬に食い込ませた。
「い、いだっ」
「ほら、はっきり喋れ。大方弁護人の言われるがままマニュアル通りにそう言ったんだろ、あぁ? ほら、どうやって背負うんだ、おいっ」
殺菜ちゃんはペンチを握る力を強めた。
「いだいっ! いだっ! いだだぁあっ! いだいっつってんだろがっ!」
「あぁ? なんだ塵。塵が人に文句いうのか、おい」
今度はそのまま手首を捻る。
「やべぇえろっ! いでぁああ」
「ちっ、本当、いつも納得いかねぇわ。更生の余地ありってなんだ。別に更生しようがしまいが犯した罪が消えるわけでもないだろがっ。塵を社会に戻すほうがよっぽど害悪だ。どんだけの罪人が再犯を犯してると思ってるんだ、その度被害者が増えてるんだぞっ」
今度は左手からもペンチを取り出し、逆の頬を掴む。
「おらぁっ! おらぁっ! てめぇ、タバコを耳の中に押しつけたんだってな。何回殴った? 何回仲間に殴らせた? おい、おら、聞いてんのか、おいっ」
両手を激しく上下させる。少女はペンチで挟まれたまま頭を大きく振られる。
「お前が例え遺族にお金を払おうが、被害者の墓前で謝ろうが、なにもかもが後の祭りだっ! 死んだ被害者にはなんの意味もねぇっ。ただただ痛みと恐怖だけを感じて死んでいったんだぞっ!」
う~ん。殺菜ちゃん言うねぇ。僕は自分を抑えて決められたレベルをそのまま執行する事だけに勤めてるけど、殺菜ちゃんみたいなのはある意味羨ましいよ。
「後一日で成人する奴と、その日に成人した奴でここまで罰に差が出る。どうせなら老若男女全員同じ扱いにしてやればいいんだっ!」
もぐもぐとパンを囓る。
あ、このパン美味しい。
たしかに、生き埋めってとんでもない残虐な行為だよ。真っ暗の中たった一人死の恐怖に怯えて。それを未成年だからってレベル4だからね、殺菜ちゃんの言ってる事もわかるよ。
「私は、こういう生ゴミを世に戻す時は、いつもやる事があるんだ。勿論お前にもやる」
ここで、殺菜ちゃんが僕の方を向いた。般若のような顔が一瞬で元に戻る。
「あ、リョナッち、ストーブちょっと借りるっす」
「あ、どーぞー」
なにするんだろ。と思ったら殺菜ちゃんは両手に持っていたペンチをストーブの上に置いた。
そのまま放置する。
「よし、じゃあ歯を食いしばれや」
殺菜ちゃんは、被害者の少女の遺体写真をまじまじと見つめた。
「これとそっくりにしてやんよ」
すぐさま、殺菜ちゃんの膝が少女の腹にめり込んだ。
しばらく呻きと鈍い音が交互に室内に響いた。
少女はもうぐったりしている。
「よし、仕上げだっ」
殺菜ちゃんは手袋をつけ、熱していたペンチをストーブから取る。
そして。
「烙印だ。本当は全員こうすればいいのになぁ。ちゃんとしたの作れば一発で前科持ちだって分かるのにっ!」
高温の鉄のペンチが少女の顔に押しつけられる。
「ふがややややややががががっがあああっぁぁ」
カフェオレをストローで吸い上げる。
あ、このカフェオレ美味しい。
よ~し、殺菜ちゃんのお陰でお昼を取れたよ。
じゃあ、僕も頑張りますか。
「ありがとう、殺菜ちゃん。この罪人はもう終わりでしょ?」
「そうすっねぇ。死んだ子は全ての権利を奪われたっす。だから、本当はあそこを縫い付けて、耳も口も目も潰して、全部の機能を再起不能にしてやりたいっすけど、ま、私ができるのはこれが限界っすね」
殺菜ちゃんはまだまだ元気だ。
この後も自分の部屋に戻って仕事をするんだろうな。
さて、殺菜ちゃんを見てたら僕も頑張らなきゃって思ったよ。
午後もまた長いけど。
やったんたんぞーっ!




