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なんか、出られたみたい。

 シスト君と叶夜に前後を挟まれつつ走る。

エレベーターまでもう少し。


 果たして動くだろうか。それだけが気がかりだった。

 もし止まっていたら。そう考えるだけで恐ろしい

 

「そこの角を曲がればすぐです。頑張って下さい」


 何度も言うようだけど、僕は運動が得意なほうではない。

 二人に囲まれているお陰でほぼ強制的な速度を維持させられている。

 もう息が切れて死にそう。


 程なく、エレベーターの前に着く。

 一般的なものより大きい。シストくんが操作しはじめたけど、僕はやっと足を止められた事にほっとしていた。膝に手をつき、大きく呼吸を繰り返す。   


「よし、電源は生きてます。さ、早く乗り込んで」


 表示は最下層。僕はフラフラになりながら中に入った。


「叶夜も連れて行きます。まさか駄目とは言いませんよね?」


 僕は言葉を発さず、頷く事で返事とした。

 レベルブレイカーとはいえ、叶夜はまだ子供。この状態で一人ここに置いていくわけにはいかない。


 

 一気に地上に戻る。


 扉が開き、光が差し込んだ。

 そこはゲートの管理場所。しかし、職員の姿はない。

 エレベーターは全階に通じるため、最重要警戒区域なはずだけど。


 不思議に思いながらも、外へと続く扉まで進んだ。


 なお強い光が目を襲う。

 今まで暗所にいたために、眩さに目を瞑った。

 ゆっくりを瞳を開けると、その光景に目を見張った。  


 銃を構えた数十人という職員、いや、兵士に近い人達が目の前に広がっていた。


「叶夜、すぐに向かえに来る。だから、今はここでさよならだ」


 シスト君はそれを見て、横の叶夜に囁いた。その後、一人歩き出す。

 兵士の奥から、スーツ姿の男が前に出てきた。シスト君はその人物の前へ一直線に向かった。


「あぁ、そういえば名前聞いてませんでした。よろしければ教えてもらえませんか?」


 途中で振り向き、僕にそう尋ねた。

 もう僕が拷問士なのはばれてる。相手はもうすでに名乗っている。

 ここで、口を噤むのもあれだろう。


「・・・・・・リョナ子。国家特級拷問士リョナ子だよ」


 シスト君の目がわずかに開いた。


「あぁ、なるほど。貴方がそうでしたか。友人がいってました。君と僕は似ていると。たしかにそうかもしれませんね」 


友人。僕と共通の知り合いがいるって事かな。


「また近いうちに会いましょう」


 シスト君は最後にそう言い残し、スーツ姿の男と兵士の壁に飲まれ消えた。


 本当に不思議な子だった。

 一体何者だったのだろうか。

 僕もね、ちょっと感じるんだ。君と僕はまたすぐに会えそうだって。



 さて、問題はこの状況だよ。残った僕達は銃を向けられたまま。

 これ、動いていいのかな。両手を挙げたほうがいいのか。


 叶夜を隠すようにそんな事を思っていたら。兵士の人垣がさっと開けた。


 その道を一人の人物が進んでくる。

 それを見て、僕は心から安堵した。


「リョナ子さん、お迎えに参りましたー」


 エメラルドの髪を靡かせ、僕の前に来たのは見知った顔だった。


「・・・・・・蓮華ちゃん。はぁ、良かった」


 緊張が一気に解ける。彼女が僕の傍にいる。それだけでもうなにもかも問題がない。どんな事が起きても彼女なら対応できる。助けてくれる。


「大変でしたね。でも話は後です。今は帰りましょう」


 蓮華ちゃんが僕の手を取ると、すぐに兵士達が動いた。


「突入っ!」


 兵が一同に走る。そして、今僕達が出てきた場所へと入っていく。


 最後の一人が、僕の前で立ち止まる。


「・・・・・・無事で良かったわ。後、五分遅かったら単独で動いていたかもしれない」


 僕の頭を軽く叩く。顔は目元しか見えないので誰だか分からなかった。

 でも、その声は聞いたことがあるような。


「よし、お前は私と来なさい。抵抗はしないでね。元の場所に戻るのよ」


 その人は、叶夜を拘束していく。叶夜は大人しく従った。


「しないよ。お姉ちゃんは迎えにくるって言ってた。だから、僕はそれまで良い子にしてる」


 叶夜は僕に目を向ける。その瞳は寂しそうに見えた。


「・・・・・・叶夜ありがとう。僕を助けてくれた事ちゃんと報告するよ。できるだけの恩情を頼もうと思う」


 今の僕にはこんな事しか言えない。


「うん、大丈夫だよ。またきっと会える。その時はまた抱きつこうかな」


 あの歳だと元々執行は受けないだろう。レッドドット、白頭巾ちゃんという前例がある。そもそも体が通常の執行では耐えきれない。他の方法で罪を償ってもらうしかない。


 こうして僕の長い時間が元に戻ろうとしていた。



 蓮華ちゃんに付き添われ敷地を出る。


「とりあえず、私の部屋に行きましょう。話はそこでいたします」


 このまま外に出ていいのかな。機関に事情聴取とかされそうだけど。

 でも、蓮華ちゃんがそういうならいいんだよね。



 蓮華ちゃんの仕事場は、広いわりにはほとんど物がない。

 椅子も自分のだけだから、それを僕に貸してくれた。


「さて、本当は今日のことは無かったことにしてください、といいたい所ですがそうもいきませんよね」


 勿論だよ。蓮華ちゃんが出てきた以上、これは色々裏事情があると察するけど、あんなに恐ろしい目にあったんだ。詳しく聞く権利はあるよ。


「えっと、まず数日前にある外国人が捕まったことが発端です。ささいな事だったんですよ。不審な外国人数人を警察官達が事情聴取した、それだけなんです。でも、彼らは抵抗しました。一人が発砲、警官一人がそれを受け殉職しております。その後応援も借りてその外国人達は拘束されました」


 ふむ、それが僕が閉じ込められた事になんの関係があるんだろう。


「それでですね。その後の調査でとんでもない事が判明したのですよ。実はこの拘束した外国人の一人が、あるテロ組織の最高幹部だったわけです。すでに入国してた事自体驚きなんですけど、これにより事態は大きく変わりました」


「・・・・・・あぁ、なんとなく繋がってきたよ」


「ええ。そうなると、これは国際的な案件になります。当然、その最高幹部は通常の扱いではなくなります。一先ずレベルブレイカーと同じ最下層にて身柄を移しました。ここからがややこしくなるのですがね。最高幹部が捕まれば仲間は黙ってません。すぐに解放を求めてきました。でもそうはいきません。拒否すると、今度はテロを起こすと脅迫してきました。本来入国のために潜入にしていた船を急遽脅迫材料にしたわけです」


 裏でそんな事が起こっていたのか。


「国家も一枚岩ではないのですよ。局なんかは完全に縦割りですしね。まぁ、揉めに揉めました。テロに屈すれば国際的な批判を受ける。でも数百人の民間人を見捨てるわけにもいかない。まだ、裏でやってる分にはいいですが、それが露呈した場合、どう転んでもまずいわけです。一方は人命を優先する。もう一方は国家の威信を尊重する。様々な思惑で別々に動いた結果がこうなっちゃった訳ですねぇ」


 うん、蓮華ちゃん的にはこれでしめようとしてるけど、まだ訳が分からないよ。


「そのテロ対象になった船はどうなったの?」


「あぁ、沈みましたよ。爆破されたみたいです。それにより一度は解放されかけた幹部もまた檻に逆戻りです。声明が出される前でしたので良かったですよ」


 先に、カードを切ったのか。それはおかしい。解放直前まで話は進んでいたはずなのに何故爆破する必要がある。


「執行局としては、断固解放には反対でした。内務省や他の総局も意見はバラバラ。リョナ子さんといた少年がいたでしょう。彼は元々裏から幹部を逃がすためにあそこにいたのですよ。彼はある機関から依頼されたのでしょう。彼のお父上もそういう立場の人ですので。彼自身他の目的もあったみたいですがね。執行局に途中でばれて対策される途中、リョナ子さんが巻き込まれたってわけです」


 つまり、僕は入ってる最中に、シスト君の行動が見つかって、一緒に閉じ込めれたってわけか。システムの不具合を理由にどさくさに解放しようとしていた。だから、檻が開いたレベルブレイカーはいずれも低レベル。もし、葵ちゃん並のハイレベルブレイカーが出ていたらもう収拾はつかなくなっていただろう。


「取引は失敗したんだよね? ならまた脅迫するんじゃないの? 今度は声明つきで」


 その質問に対して、蓮華ちゃんは首をふった。


「それはないですね。奴らとしては幹部が簡単に捕まったと知られたら他の組織から笑われるでしょうし、国家としてもこんな重要なカードを簡単には手放したくない。今回は後手に回りましたが、こっちも本気を出せば出し抜かれる事はもうないです。私も少し他の事に気を取られすぎてました。プライドは捨てて情報は素直に共有しようと反省するしだいです」


 よくわからないけど、水際対策を万全にするって事だろうか。


「それにですね。本来、一回の処刑でカードは無くなりますけど、この国ではその限りではないのです。リョナ子さん、貴方達がいるからカードは何度でも千切って使える。それがこの国の強みでもあります」


 それこそ国際的に非難されてるけどね。手段を選んでるから物事がうまくいかない場合もあるよね。


「しかし、なんで取引直前で、船を爆破したのかな。蓮華ちゃんならそれも知ってるんじゃないの?」


 蓮華ちゃんは、ぼやかしてたけどここは聞いておきたい。

 機関同士がつぶし合ったんだろうけど。


「うふふ、今って少子高齢化ですよね。これは由々しき問題です。少ない人数で上の大人数を支えなければならないのですから。これってリョナ子さんならどうしましょう?」


 え、なんでいきなりこんな話をするんだ。


「う~ん。少子化対策で下の人数をなんとか増やしたり、医療や福祉のための税金を増やすなり他から回すなりしなければならないかな」


「そうですね。でも、もしある人に同じ質問をしたらこう言うでしょう。それなら老人はみんな殺せばいいよぉ。年金を貰う歳になったらみんな殺しちゃえばいい。それで医療費も介護費用やその他諸々もなくなるよぉって」


 誰だよ。そんな非人道的な考えする人いるのか。


「今、この国があるのは先人の努力があってこそだよ。世代が世代を支え合うのはとても自然な行為だと思うけど」


 ていうか、なんでこんな話に。


「まぁあれですよ。本来最良の策があるのに、それを行使するには倫理などが邪魔する場合があります。それを無視できる人間も必要な場合もあるって事です」


 あぁ、これは僕には話す気がないね。意図的に隠してる。なら、これ以上聞き出すのは無理そうだ。


「じゃあ他の事を聞こうか。まず、突入していった兵士。最後の人物は僕を知ってる感じだった、あれが誰かな? そしてシスト君。蓮華ちゃんなら正体を知ってるはずだ」


「あぁ、あの兵士達は、刑執行庁の特殊任務支隊ヘリオガバルスですよ。隊長は・・・・・・これはちょっと言えませんけど、リョナ子さんもよく知る人です。彼女達は執行庁執行局の管理下にあり、任務は多岐にわたります。暴動鎮圧、秩序維持、拘束場所内の犯罪抑止、護送、護衛。他にある仕事をしてたりしてますね。私が言えるのはここまでです。後は、シストさんですね。あの方は、楠葉さんを殺害した殺人連合のリーダーですよ。九相図、眼球アルバムと共に私やドールコレクター達と対立してます」


 前半の隊長も気になったけど、シスト君の正体を聞いて全部吹き飛んだ。


「・・・・・・だからか。首切りと知り合いだったのも。全部繋がったよ」


 危険な香りはまるでしなかった。それが逆に不気味だ。ただ引き込まれる魅力がある。


「やれやれ、あっちにとってうまく転びましたね。順調に戦力を強化しているようです。これは早急にドールコレクター達を呼び戻さないと。近々、また衝突しそうですね」


 困ってる風に言ってるわりには、顔は笑ってる。蓮華ちゃん自体楽しんでない、これ。





 所変わってそのシストは。



「やぁ、どうだった?」

「おねにーさま、おかえりなさーい」


 依頼主と別れ、僕は外に出た。そこで出迎えてくれた仲間達。


「うん、一人いいのを見つけたよ。そして、これで深緑深層の監視も緩みざるを得ない」


 新たな仲間が二人増えた。でも、まだ深緑深層達に対抗するには足りない。


「後は、反則級の蛇苺をどうするか、だね」


「こっちに取り込めばいいんじゃないかなっ。お金で動くっしょ」

「うんうん、あれがこっちにつけば無敵だよ」


 それができれば手っ取り早いんだけどね。


「深緑深層が蛇苺を手放すとは思えない。まだ契約を切ってないんじゃないかな。そうなると、彼女の分も頭にいれなきゃ駄目だね」


 この前、僕達が彼女達を仕留められなかったのは、蛇苺の存在を想定してなかったから。


「殺し屋には殺し屋だね。蛇苺級の殺し屋を探そう。後は、ハイレベルブレイカー並の殺人鬼が二人は欲しい。頭を潰すには、まず手足が邪魔だ。ドールコレクターと切り裂き円。これを先にどうにかしないとね」


 九相図の殺人鬼と呼ばれる妹と、眼球アルバムを持ってしてもあの二人を抑えるのは困難。 深緑深層、ドールコレクター、切り裂き円、それぞれ単体でも手がつけられないのに、三人が纏まってる。超難度。だからこそ心が躍る。


「さぁ、時はもうすぐ満ちる。存分に殺し合おう。僕は最高の観客だ。素晴らしいステージを期待してるよ」


「あははっ、おねにーさま、見てて、見てて、あの深緑深層は私が存分に調教してやるんだ。なんでも言う事を聞く位に、私を見れば尻尾を振って舐めはじめる位にっ」


「ドールコレクターと切り裂き円の両目、どっちもコレクションに加えてやる。散々口の中で転がしてやるんだ、唾液まみれにしてやる」


 そして、リョナ子さん。彼女にも逆側でステージを見て頂こう。

 その時はどうか、舞台に上がってこないでいただきたい。


 僕はとても君を気に入ってしまったから。

 地味な説明回でした。久々に更新した異世界葵ちゃんの方は結構死んだみたいです。

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