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あのね、遠征してるの。

 一応、前のリョナ子の話と繋がってます。

 潮の香り。波の音。ちょっとだけ肌寒い。


 今、私は客船の上甲板で海を見てるの。


「姉御、姉御、さっきのもっかいやって、うくく、もっかい、お願いっ」


「もうしょうがないなぁ」


 近くにプールとかあるけど、気温も低くあいにくの雲空。だから人もまばら。


「じゃあ、もう一回だけだよ」


 なんで私達が客船に乗ってるかというと。


「ドールコレクター、円さん。貴方達にお願いがあります。私が独自に入手した情報によりますと、テロリスト数人が客船に紛れて入国する恐れがでてきました。本来、こういうのは中央情報局の仕事なんですけど、私のとこは独立してるはいえ一応国家保安委員の枠組みに存在して・・・・・・とりあえず見つけたら捕まえてきて下さい」


「うひゃくくく、うひゃくく、似てる、レンレンそっくり、うひゃくく」


 蓮華ちゃんの物まねは円ちゃんに好評みたい。腹を抱えて笑ってる。

 まぁ、ようは蓮華ちゃん、そういう他の情報機関とは仲が悪くて、手柄の取り合いみたいになってるみたい。どちちかというと他の機関が蓮華ちゃんをライバル視してるだけかな。

 すごいね、個人で国家機関と張り合ってるんだもん。それでもさすがに限界があるみたいで、せっかく入手してもさばけず横取りされることも。

 蓮華ちゃん自体は全く気にしてないそぶりだけど。

 内心、そうとう腹が立ってるんじゃないかな。

 あの子、冷静沈着に見えて腹黒いからね、怒らせると本当に怖いよ。


 今までの蓮華ちゃんは自分では動かなかったから提供するだけだった。

 でも、今の蓮華ちゃんには手足があるんだよ。


 私達っていう、レベルブレイカーの殺人鬼達がね。



 今、私達が乗ってる船は、最近出来たばかりの客船。そして正式に運用する前の試験航行中。乗客はスタッフや、抽選、招待で招かれた客の百人未満。実際は六百人以上乗れるみたい。

 

「で、なんだ、この中にいるのか、そのペロリストが混じってるのか」


「テロリストだよぉ。うん、蓮華ちゃんは詳細不明、何人いるかもわからないのに、そのテロリストを捕まえてこいってさ。無茶言うよねぇ」


 乗客の人種はバラバラ。蓮華ちゃんの情報だから混じってるのは確かだろうけど。

 一応、乗客名簿と乗員の情報はもらってるものの特定するのは困難。


「どうする、姉御、どうやって探せばいい」


「う~ん、姿を見れば雰囲気で分かるかもしれないけど。面倒だよねぇ。分からないならしょうがないよぉ。しばらく遊んでよう」


 折角、蓮華ちゃんの監視も薄れ、こうして客船に乗ってるんだもん。

 ちょっとさぼってもいいよね。


「じゃあ、カジノ。あれ、やろう、やってみたい」


「そうだね、方法が思いつかない以上、遊ぶしかないよぉ」


 こうして、私達は任務をすっかり忘れてバカンスを楽しもうと思ったんだけど。


 まるで見ていたかのように、蓮華ちゃんから電話がかかってきた。


「げえっ、蓮華ちゃん」


 まさかどっかから監視されてるんじゃないよね。


「はい、葵だよ」


「あ、ドールコレクターですか。どうです、テロリストは見つかりましたか?」


「えー、いくらなんでも無理だよぉ。情報が少なすぎだもん。この中から探すのは骨が折れるよ」


「どうせ、そういう理由をつけてさぼる気でしょうけど、そうはいきません。先ほど状況が変わりました。テロリスト達はその船に爆弾を仕掛けているのがわかりました。ただ入国が目的ではないようです。もはや悠長な事は言ってられません。他の機関も動きましたが、後手に回るでしょう。今最速で対処できるのは貴方達だけです。いち早くテロリストを拘束してください。デッドアライブで構いません、できるだけ早く、手段は問いません。よろしくお願いしますねっ」


 一方的にそう告げられて通信は切られた。


「レンレン、なんだ、なんだって? 怒ってたのか。私達がさぼろうとしたこと、ばれたかっ!」


「ううん。なんか珍しく真面目な声だったねぇ。これは結構まずい状況なのかも」


 入国が目的じゃないって言ってたね。てことはこの船自体でテロを起こす気かな。詳しくは言ってなかったけど別の場所でも話が動いてて、ここが要ってことか。

 他の機関も動き出したみたいだし、蓮華ちゃんが当初思ってたより事態は重くなった。


「しょうがない。真面目にやろうか」


「やらいでか、それはいい、でも、どうする? どれがペロリストか、わからない、わからんのだ」


「それはもう大丈夫だよぉ」


 蓮華ちゃんは言ったの。

 できるだけ早くって。

 手段は問わないって。


「そうなれば簡単だよぉ」


 この中にテロリストが確実にいるんだもの。


「乗客全員を皆殺しにすればいいよぉ」


「おおっ、それだっ! それは確かだ、確実で簡単だっ!」


 そうと決まれば、お仕事の時間だよ。

 私は円ちゃんと共に船内に戻った。



 狭い廊下に、客室のドアが連なっている。

 今回使用されてるのは、限定された一角のみ。

 端から行こうか。


「こんこん、すいませんー」


 最初のドアをノックする。

 すると、金髪で青い目の若い女性が出てきた。

 奥を見る、彼氏だか旦那さんだか分からないけど男性が一人いた。


 瞬時に行動に移る。

 私は女の口を塞ぐと。

 

〈葵&円、活躍中〉


「どんどん行こう」


 見た目じゃ分からないからね。とりあえずさっと体と荷物を調べて次に移る。


 隣のドアを叩く。

 男性が出てきた。手順は同じ、でも今度は家族連れで中には奥さんと子供が見えた。

 まずは旦那さんのこめかみに一突き、そのまま突き飛ばして私も中に。

 

〈葵&円活躍中〉


 バックの中身を床にぶちまけ、中身を確認。

 これも外れだね。どうやら普通の家族連れだったみたい。


 次は老夫婦。

 でも、外れ。


 今度は一人の中年のおじさん。

 これも外れ。


 外れ。外れ。外れ。


 いくつかノックしても出てこない部屋があった。

 他の場所に出ているのか。それともあえて出ないのか。

 それなら、そこが怪しいのかな。


「とりあえず、甲板にも何人かいたよね。それ先にやってこようか」

「ういうい、どんどん、行くのだ」 


 再び甲板に上がる。海を眺めるカップルや友人、家族。そして走り回る子供達。スタッフらしき者もいる。警備っぽいのもいるね。


「手分けしよう。民間警備っぽいのは最優先で。ここが終わったらいよいよ時間はかけれないよ」


 警備は試験航行の今は少数。情報も機関が動いている以上民間におりていくはずがない。そうなると、別に一般人と同じように殺せば良い。

 この姿に大抵の人は油断するからね。

 まさか、女の子二人が殺し回ってるなんて誰も思わない。


 死体をとりあえずプールに落とす。

 水面がインクを溶かしたように赤く滲んでいく。


「よし、後は目がついた者は全部殺すよ。食堂、カジノ、シアター、劇場。全部だよ。運営してない場所でも見て回って、客も警備もスタッフもお構いなしに」


 別に死体が見つかっても構わない。騒ぎになってもいい。顔を見られてもいい。

 全部、テロリストのせいにすればいいんだもん。大がかりに助けにも来られないこの状況は私達にとって都合が良すぎる。


 人が多い場所でも悲鳴が上がることはない。

 なにが起こったか認識される前にもうナイフは体に刺さる。


 喉を的確に狙っていく。先に切り裂いた者が地面に倒れる頃には、次の獲物は殺し終えてる。

どんどん船は血で染まっていく。


「とりあえず、ここからはさっきノックしても出てくれなかった部屋に戻ろう。テロリストが外で遊んでるわけないもんね。部屋に籠もってるはずだよぉ」


「うくく、姉御、なんでそう思うなら、他の客をやる事なかったんじゃないか」


「うふふ、合理的確実性だよぉ。どうせこの船はすでにテロリストの手の中。どうせ死ぬなら、優しく殺してあげた方がいいじゃない」


まぁ、それだけのために殺したんじゃないけどね。ちゃんと理由はあるの。

 さて航行手順は頭に入ってる。今海上のどこにいるのかも大体把握している。


 目を瞑る。

 乗客名簿や乗員の名前から、殺した者を照合して排除していく。推定でしかないけど大体あってるはずだよ。


「男性三人の部屋がある。そしてまだ殺してないね。ノックしても出てこなかったとこだ」


 当たりはつけた。

 どうしよう、どこかにあるスペアの鍵を手に入れようか。


「とりあえず、もう一回ノックしにいこう。もし出てきたら同じように瞬殺ね」


「爆弾がどうたらっていってた。いいのか、そういう情報を聞き出さなくて」


「別にいいよぉ。私の予想では、爆弾が仕掛けられた時点で、この船はなにか別の思惑に巻き込まれたんだよ。そうなると考えられるのは取引の材料だよね。人質みたいなもの。でも、それは私達が乗客を殺しまくったお陰で効力が無くなりつつある」


 それにテロリストから情報を聞き出すなんて、私達には無理だよ。

 奴らは信念で動いている、意志も固いし主義主張を貫く。リョナ子ちゃんならあるいは可能かもしれないけど、私達じゃただ殺しちゃうだけだね。

 一応対応した尋問の仕方もあるんだけどね、吟味された的確な質問を用意して相手の反応や言動を観察していくとか、どっちにしろ専門じゃないとできない。



 しつこいくらいノックする。

 時には声をかけて、言語が分からないから適当に変えて行く。

 これで出ないなら鍵を探してこなきゃだよ。


 女の声だから油断したのかな。諦めかけたその時、ドアが半分開いた。

 ここからは刹那の行動が求められる。


 円ちゃんがボルトカッターでチェーンを切る、と同時に私のナイフが男の顎に上向きに突き刺さる。円ちゃんはすでに中へ、男達は銃を構えていた。

 けど、もうなにもかもが遅い。

 中に入った時点で私達の勝ち。

 この狭い室内で有利なのはナイフを使う私達。新たに出した二刀のナイフ、一刀は銃を持つ腕に下から振り上げるように刺突する。発砲するが弾は天井に向かう。相手の顔にもう片方のナイフが向かう。何度も突き立てる。確実に殺す。体は防刃などで守られてる可能性があったからね。

 顔中が血で染まり、今もなお溢れ出ていた。男は全く動かない。

 隣を見ると、円ちゃんも終わったみたい。同じように顔は血まみれで微動だにしてなかった。


「うん、当たりみたいだね。一応、荷物をチェックしよう」


 端末に銃などの武器がゴロゴロ出てくる。


「おお、鉄砲だ、私撃ちたい、これで、残りを殺そう」


 円ちゃんが目を輝かせて手に取ろうとしてたんだけど。


「駄目だよぉ。敵の武器は安易に触っちゃいけないよ。どんな仕掛けがされてるかわからない」


 この状況ならその心配はあまりないかもだけど薬室近くに作為されてる可能性もある。

 これなんだっけ、蓮華ちゃんと違って銃にはあまり詳しくないけどAKなんちゃら。私もちょっと銃を使ってみたいけどここは我慢だよ。


「姉御、こいつ、銃じゃなくて携帯を手に持ってるぞ、それに体になんか巻いてある」


「あぁ、それ爆弾だよ。手に持ってのが起爆装置かな。本場だと少女とか子供に巻き付けて遠隔爆破する手口もあるからね」


「それで姉御は関係なさそうな子供も関係なしに殺したのかっ! なるほどっ! でも、危なかったんじゃないのか、これ」


「うふふ、威嚇でもするつもりだったのかな。どうあれそれを起動する事はなかったよ。交渉に使ってるかぎり先に材料を無くすわけないからね」


 じゃなきゃいくらなんでも強行しないよ。子供うんぬんは関係なかったけど。

 船自体にも爆弾がいくつかありそう。これで全部起動できるかな。


「最後に操舵室を制圧。後は特定位置に着いたら爆破させるよ」


 できるだけ水深があって、潮の流れが速い場所がいいね。



「どうも、どうもー」


 操舵室に入る。見学会も企画されてたから入るのは簡単だった。

 モニターがいっぱい。

 でも、それに血が飛び散るまで後少し。


 二人だけ残して現場海域までは一応生かしておく。

 自動走行だろうけど、あくまで保険だよ。

 テーブルに広げられた海図を改めて確認する。



「姉御、なんですぐに爆発させない?」


「証拠を残すわけにはいかないよぉ。蓮華ちゃん達にしたらテロの爆破が理由より、事故で沈没が一番都合良さそうだからね。情報が漏れないように引き上げとか潜水できないくらい沈んでもらわないと」


 細かい規制はそっちでお願いするよ。これだけやれば蓮華ちゃんも文句ないでしょ。

 蓮華ちゃんはテロリストだけを殺してもいいって言ってたけど。こうなるって分かってたはずだよ。自分は表だって言えないもんね。良い子ぶって私達に汚れ役をやらせるんだもん、ずるい子だ。本当は最良の方法があるのに、立場や倫理がそれを邪魔する。

 だから、私達のような善悪という概念がない者に押しつけるんだ。


 起点場所に着いたら、この人達を殺して、残ってる者を皆殺しにして。

 救命艇で船を脱出、離れたら起爆させれば終わりだね。


「ここからは殺すのに時間をかけてもいいよ。じっくり遊ぼうか。医務室がまだだったね」

「うくく、おっさんかな。女医さんとかがいい、けど、まぁこのさいどっちでもいいか」

     

 この時は、まさかリョナ子ちゃんが事件に巻き込まれてるなんて知るよしもなくて。

 だから、私達は呑気に殺しを楽しんでたんだよ。


 どっちにしろ、こんな海の上では助けにいけなかったけどね。

 次回、リョナ子に戻って今度こそ伏線回収します。

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